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詩集
空が落ちるまで
空が落ちるまえに
芝生に背をあずけて
歌いながら
指先から順に
空に飛ばす
歌声に支えられた指先は
映るもののない
落ちくぼんだ河面をかすめ
駆け上がり
低く重い
地面に向けてうなる空を
押し上げながら
まばゆい新月の裏側に
押し込まれる
ように
溶け込んでいく
重い雲の群れのうなりが
歌声に混じり
陽の光を探しながら
それはやはり
空の裏側へ
広がり
遠ざかり
狭まった世界から逃げるように
溶け込んでいく
歌声は空へ流れ
流れに運ばれて
逆さになった世界のなかで
体は浮き上がり
舞い上がるように
押し上げられる空
とともに
立つべき地のもとまで
ゆっくりと落ち込んでいく
遠い街から吹く強い横風が
浮き上がる体
に絡みながら
落ちる
の境を眺めている

空の裏側は見えない
厚く濃密な雲が落ちるまえに
空に落ちて
空の裏側から
力強く
空を裏返す
重い雨の張りついた
向こう側の空

向こう側の空
へ沈むべきだ
このままでは
低く
空が落ちる
歌声をかき抱いて
体を落とし
雲を突き抜けたさきに
空の裏側があった
突き抜けたさきの
裏側には少し
暗緑色の錆び
が浮きだしていて
刺激の強い
時間そのものの匂いがしていた
裏側には
蝶番と
それからつながった
小さな丸窓がふたつ並んでいた
丸窓の向こうには
空の近い世界があった
えらく圧迫された街だとか
星だとか
ひびのある丸い夢
が見えた
小さく伸びやかな
歌声が浮かんでいる
裏側には
空の遠い世界があった
空の遠い世界には
えらく引きのばされた街だとか
星だとか
ひびのある丸い夢
があった
小さく伸びやかな
歌声が落ちていった

錆の浮いた丸窓を
ひとつ開けると
空の遠い街から
丸窓を通り
空の近い街へむけて
大量の時間が流れはじめた
またたくまに
空の近い街に
時間が満ちあふれ
引きのばされた裏側の街に
錆が浮いた
裏側の街の丸い夢は
ひびをつけたままで
錆びつき
裏を向いて
ひびを広げた
空は押し戻され
さび付いた街に向けて
しんしんと落ちはじめていた
開け放たれた丸窓を通り
いまだすさまじい勢いで
時間がふきすさんでいた

丸窓の向こう側では
高く澄んだ空に抱かれ
丸い夢を抱いた街が
満ちていく時間に
おそるおそる
指先で触れ
夢についたひびに
おそるおそる
指先についた
時間を塗り込んでいる

空が落ちるまえに
空が落ちてしまうまえに
芝生に背をあずけて
歌いながら
指先から順に
空に飛ばす
歌声に支えられた指先は
映るもののない
落ちくぼんだ河面をかすめ
駆け上がり
低く重い
地面に向けてうなる空を
押し上げながら
まばゆい新月の裏側に
押し込まれる
ように
溶け込んでいく

重い雲の群れのうなりが
歌声に混じり
陽の光を探しながら
それはやはり
空の裏側へ
広がり
遠ざかり
狭まった世界から逃げるように
溶け込んでいく
歌声は空へ流れ
流れに運ばれて
逆さになった世界のなかで
体は浮き上がり
舞い上がるように
押し上げられる空
とともに
立つべき地のもとまで
ゆっくりと落ち込んでいく
遠い街から吹く強い横風が
浮き上がる体
に絡みながら
落ちる
の境を眺めている

空の裏側は見えない
丸窓を抜ける時間の
甲高い歌声のような
風の音が聞こえている



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