二次創作/夢 散る際まで共にありたいと願う(荒船成り代わり諏訪落ち/秋花様) 「あっあああああああ」 「…加賀美」 「あああああああ」 「落ち着け、加賀美」 隊室に入ったと同時にオペレーターから悲鳴という歓迎を受けた朔は、絶望した表情の同級生を落ち着いた態度で窘めた。彼女自身初見で何か言われるだろうとは予測していたし、これも予想の範疇だったという迄のことである。剥き出しになったうなじを確かめるように撫でつけながら朔は似合うでしょ、と彼女に笑いかけるのだった。 「似合うけど、似合うけど…っ」 「また随分思い切ったな、髪型」 「私の性格的に長いのは性に合わないんでね、手入れも面倒だし。穂刈、半崎は?」 「そこのハンモックで寝てるぞ」 きょろ、と後輩を探すが室内にその姿が見当たらないことを不思議に思った彼女が穂刈に問いかけると、部屋奥を指し示される。その指の先を見れば成る程、設置を許可した覚えもないハンモックの端から見覚えのある足が顔を覗かせていた。 はあ、とため息をついてそこへつかつかと歩み寄る。気持ちよさそうに寝息を立てるその顔は帽子に覆われていて見ることは出来なかった。 「こら半崎起きろ!!」 その帽子をべしっとはたき落とすように朔は半崎の頭を叩く。突然の衝撃にびくりと体を震わせた彼は弾かれたように上半身を起こし、視線を多少さまよわせてから隣に立つ朔に目を留めた。頭からつま先まで眺め回して、また頭…特に髪の毛をじっと見つめる。 「……………誰?」 「隊長の顔も忘れたのか?」 「あっ荒船さんだわ」 長い間を置いてから言う事がそれか、と普段より二割り増し低い声で朔が脅しつけると、彼は納得したように頷く。彼女はそれもそれで失礼な奴だと思うが、今は無駄な口をきいている暇はないのだ。壁に掛けられた時計を確認すると、指定された時間に後少しという所まで針は迫っている。 「今日はメンテナンスの日だろうが。急ぎなさい」 「はーいお父さん」 「私はお前の親じゃない!」 「まずはつっこめよ荒船、性別の違いに」 トリガーのメンテナンスを欠かしてしまえば、精密機器故にいつ異常が起こるかも分からないのだ。必ず検査はしなければならない上、エンジニアの方も常に忙しく動き回っている。その間を縫って検査してくれるというのだから、してもらう側の自分達が遅れるわけにはいかないのだと朔の目は語っていた。 それを半崎も理解していたため、怠そうな雰囲気はそのままながら隊長に従う形でその横に降り立つ。穂刈は未だにショックを受けている加賀美を促しながら先に扉をくぐった。そんな先輩達の背中を見ながら、半崎はふと横の隊長…荒船朔の髪の毛を見る。前は一つに結ばれたそれが肩甲骨辺りで揺れていたのに、今では見る影もない。随分ばっさりといったもんだな、と帽子を被りながらショートヘアになったその後頭部を眺めた。 「ほら加賀美、いつまで言ってんの。さっさと行くよ」 「ええ、だって〜…朔ちゃんの髪の毛しばるの好きだったのに…」 「また伸びたら頼むよ」 「うん…」 「俺は良いと思うけどな、そのままで。似合う」 「おー、サンキュー」 仲良さげに通路を歩く姿を見ながら、半崎はふとある人物を思い出す。その人はランク戦で拮抗した戦いを繰り広げる隊の隊長であり、プライベートでも我らが隊長と親しい。派手な見た目ながら親しみやすい彼のよくやる事は、朔の長い髪の毛を軽く引っ張って気を引く事だった。 (もしかしたらあれ嫌だったんかな) そんな事を考えていると、考えていたまさに当の本人から声がかかる。それに返事をすると、既にそこはエンジニアの待つ検査室の前である事に気がついた。早足で近寄りトリガーを差し出すと、隊員全てのトリガーを持った彼女は室内に姿を消す。その際再び目にした後ろ姿に、彼は加賀美程ではないが多少の物足りなさを感じた。 (…あの人、どんな反応すんだろ) 手招きする穂刈に気がついた彼は、自身も検査を受けるべく扉をくぐる。トリガーの検査は本体のスキャンだけでなく、使用者の使用状況等の口頭調査も行われるのだ。半崎はまた頭を叩かれるのはごめんだ、と慌てて自分を待つエンジニアの元へと駆け寄った。 「うわーー荒船ってばすっごい切ったね!!どうしたの?失恋した?」 「お、犬飼。私がそんな性質に見えるか?」 「見えない!」 「じゃあ聞くな」 見慣れた姿が幾つかラウンジにあるのを見つけて朔がそこに近付くと、その中の一人がそんな彼女に気が付いて声を上げた。そのまま軽く言い合いしていると、ふいに横から腕を引かれる。それに逆らうことなく体を委ねれば、彼女はソファに座っていた同級生に抱え込まれる形になった。 「あーあ勿体ねえ!俺荒船の髪の毛触んの好きだったのによー」 「おいこら当真、顎を頭に置くんじゃない」 「何で切ったの?手入れが面倒とは言ってたけど、長いのが嫌だった訳じゃないでしょ?」 「ゾエ」 顎でぐりぐりと攻撃してくる当真の胸元を頭で叩いて仕返ししていると、上から聞き覚えのある声が掛かる。見上げれば、ソファの後ろから北添が顔をのぞかせていた。 「確かに、加賀美とか当真に言われてずっと伸ばしてたじゃん」 「そうだぞ荒船!このっ勝手に切りやがって!!」 「いたたた!痛い!やめろ当真!!」 犬飼が同意すると、それに呼応するように当真が一層強く顎を朔の頭に押し付ける。逃げようにも体ごと抱え込まれているので、足をじたばたと動かす事しか出来ない姿を犬飼や北添は笑いながら眺めた。 「…なにしてんだお前等は」 「! カゲ!丁度良い時に来たね助けて!!」 ぎゃあぎゃあと騒いでいる横を通りかかった影浦は、それが親しい仲間だと気が付いて訝しげな顔で近付いてくる。そんな彼に目ざとく気が付いた朔は、助けを求めて手を伸ばした。状況が分からない影浦だったが、とりあえず自分に伸ばされた腕を掴んでぐいっと引っ張り上げる。当真の腕からすぽんと抜けた体を受け止めてやりながら、彼は周りに問い掛けた。 「何を騒いでんだよ、通路まで聞こえたぞ」 「えーカゲは荒船の髪型見て何も思わねえの?」 「あ?髪型?」 勢い余って顔を彼の胸元にぶつけて痛がる朔を見下ろせば、確かにいつも揺れていた尻尾が無い。すっきりした頭を眺めながら、影浦は口を開いた。 「…お前髪の毛どこやったんだ?」 「その言い方やめろ?ハゲみたいに聞こえるからな?」 そんな二人のやりとりに爆笑している犬飼を二、三度叩いた朔は、咳払いをして当真の一つ分横に腰掛ける。空いていた中央部分に犬飼が座ろうとすると、彼を足蹴にして影浦がどっかりと座り込んだ。 「別にいつ髪を切ろうと私の勝手でしょ。どうこう言われる筋合いは無い!特に当真」 「えっ俺?」 「まあそうだけどさ、何で今切ったのか気になるじゃん。しかもめっちゃ短いし」 肘掛けに座りながら話しかけてくる犬飼をちらと横目で見た朔は、無言のまま続きを促す。後ろから髪の毛をいじってくる北添の手は享受するのに、影浦越しに手を伸ばしてくる当真のそれは振り払うという一見シュールな動作をしながら、だが。 「なんかきっかけとかあったんじゃないの?誰かになんか言われたとかさ」 「コイツがなんか言われた位で動くタマかよ」 「えーでもさ、もしそうだったらカゲどうすんの?」 「……聞き出して潰す」 「でっしょ! で、どうなの?朔チャン」 過保護な奴らめ、と呆れ半分嬉しさ半分の悪態を吐いた朔は徐に腰を上げる。背中に四つの視線を感じながら歩き出すと、後ろから声が掛かった。 「まだ答えてねーぞ荒船」 「……別に悪意ある事を言われた訳じゃないから心配しなくていい!」 それだけ言って早足でその場を去っていく姿を見送った面々は、後ろ姿が見えなくなったところで顔を見合わせた。 「"悪意ある事を言われた訳じゃない"……」 「という事は」 「何か言われた事は否定してないね…」 「オイオイ、あいつ何時の間にそんな奴作ってたんだよ…?」 ザワッと殺気立った彼らを見た周りのギャラリーは、そこを中心に円を描くようにして遠ざかる。面倒ごとに巻き込まれたくないという本心故の行動だった。 とそこへ、村上が辺りを見渡しながら朔の去った側とは反対の通路から姿を現す。 模擬戦の約束をしていた影浦の後ろ姿がソファからのぞいているのに気が付き、彼はタッと駆け寄ろうとした。しかし、影浦含め周囲の友人達が妙に殺気立って居ることに気が付き足を止める。今近付けばあの禍々しい殺気にあてられそうだと判断したのだろう。彼はとりあえず通路まで引き返し、そこから彼らを窺った。 「(近付きたくないな……どうしようか…)」 結局友人達に声をかける事なくその場を立ち去るのだが、それは余談である。 荒々しい音を立てながら目的の部屋の扉をくぐり、部屋奥のソファに腰掛けるその人に飛び付く。服から仄かに香る煙草の匂いを深く吸い込み、朔は目の前の胸元に顔を寄せた。 「お、今日は甘えたか?朔」 「…うるさいですよ諏訪さん」 「ちげえだろ、ほれもう一回」 「…………洸太郎さん」 「よし」 顔を上げずに名前を呼ぶと、不安定な形を直すように抱き上げられる。そのせいで隠していた顔を見られる羽目になり、朔は恥ずかしげに目を背けた。 諏訪はそんな彼女を愛おしそうな眼差しで見つめながら、自身の膝上にそのしなやかな体を乗せる。腰に両手を回して固定すれば、彼と朔は向かい合わせの形になった。その状態で額を合わせると、彼女の視線は置く場所に惑って忙しなく彷徨く。それに構わず見つめ続ければ、彼女は遂に瞼を下ろしてから話し始めた。 「……ちゃんと言われたとおりに切ってきましたよ、髪」 「みたいだな。で、周りに色々言われたんだろ?その顔は」 「すごい絡まれましたよいろんな奴に……」 剥き出しになったうなじをなぞるように撫で上げれば、朔は突然の刺激にびくと体を震わせる。その反応にくつくつと喉を鳴らした諏訪は、満足そうな顔で笑った。 「俺ァ長いのも勿論好きだが、お前が毛先一本でも触られんのは嫌だからな。大々的に触っていいのは俺だけだ」 「…独占欲強いぞ」 「んなもん今更だろ。大人しく言うこと聞く奴も大概じゃねえの?」 「うるさい!」 嫌だったら切らなきゃ良かっただろ、と語る目を前に、朔は口ごもる。彼女自身嫌だった訳ではなくて、交際を周りに知らせていない手前、髪を切る理由を他に話すのが恥ずかしかっただけだ。諏訪ばかりが朔を好きなように見えて結局、彼女も長いこと伸ばしてきた体の一部を捨て去ってしまう位には彼のことが好きなのである。 「どっかの誰かさんが恥ずかしがって付き合ってることを公言させてくんねーからなあ。 ま、こんぐらい大目に見ろや」 「…洸太郎さんは分かってない」 「、あ?」 くっつけていた額を離して赤茶の髪の毛を梳いていると、ふと朔が口を開く。突然非理解者の烙印を押された彼は、疑問を乗せた声を上げた。 「何が分かってねえんだよ」 「…あんな風に髪を引っ張ってくるのも、私が髪型を変えたのも、そういうのは全部」 そこまで言って、朔は息を整えるようにして言葉を途切れさせる。訝しげな表情をする諏訪の頬を両手で包み、意を決したように瞳を合わせた。 「そういうのは、全部、 ―…洸太郎さんにしか許してないから」 「……!」 それだけ言って体を捻り逃げ出そうとする真っ赤になった彼女を、諏訪は反射的に押さえて捕まえる。 半ば強引に交際へと漕ぎ着けた彼らだが、やはり好意を口に出すのは彼の方が圧倒的に多い。朔がその想いを口にするのは彼から促した物が殆どであり、ほぼ全てである。今聞いた告白がどれだけ貴重な物かをよく分かっていた彼は、堪えきれずにその細い腰を引き寄せて力強く抱き締めた。 「ひゃ、…!?」 「あーーもうお前本当さ…」 「なっ何ですかもう!別に嘘は言ってな、」 恥ずかしさを誤魔化そうと喋る彼女だが、彼にはそれら全てが自分への愛の囁きに聞こえて仕方がない。にやける顔を見られたくなくて、ざらりとした感触を残す首筋に手を這わせながら顔を引き寄せた。 「もういい、ちっと黙ってろ」 「ん、!」 変なもんだな、とキスをしながら諏訪は思った。最初は小生意気な後輩だと思っていたのに、まさかここまではまってしまうとは。 彼女と特に親しい同い年の奴らは、皆が皆実力のある厄介者揃いだ。そんな彼らとのスキンシップは日常茶飯事だというのに、そう分かっていても尚嫉妬する自分を笑ったものである。 うっすらと開いた唇の隙間から舌を忍ばせれば、苦しそうにしながらも必死に応えてくれる彼女が愛おしい。目尻に滲む涙も、その小さな口から紡がれる言葉も、キスの合間に漏らす吐息でさえ全て呑み込んでしまいたいほどに彼は彼女に溺れていた。 (…責任とれよ、馬鹿) これではもう一生手放せそうにない。 まるで麻薬のように体内をじわじわと浸食する感覚に、諏訪はおかしさを覚えた。 (手始めに、髪型はずっとこのままにさせとくか) 朔の事だから、長い髪を惜しんだ奴に伸びたらまた触らせるだのなんだのと約束しているのだろうが、そんなのは冗談じゃない。足の爪から頭の髪先一本まで全てが己の物だと主張したいくらいなのに、勝手に触られてはたまらないのだ。 更に舌を深く絡ませながら、諏訪は抵抗を失った朔の体をソファに押し倒す。暗い色の布地の上に散らばる赤茶は、隊室という場所で行為に及ぼうとしている背徳感を一層露わにしていた。 散る際まで共にありたいと願う * * * * * * * * * * ウオオオオオオオ疲れたあああうぇーい↑みたいなテンションで書きました。なめててすみません。でも楽しかっつぁよ!!!!!!うん!!!!!!!! 秋花様、如何でしたでしょうか。諏訪さん出番少ねえ!と憤りを覚えた場合は至急ご連絡下さい。頑張って直します…!! あーーー恋愛してみたい。 しっかりしてるよね!!とかよく言われるけどお姉ちゃんっぽい!!とかよく言われるけど私別にやることはやるだけだし実は末っ子だし。甘やかしてくれる彼氏欲しい………すっごい包容力あるできればがたいの良い人…………… ハッ レイジさん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 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