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二次創作/夢
泥濘の窓T
attention
宗教、歴史に関する話が頻出しますが、これは事実を参考にしただけの二次創作です。

















「人が鬼を食えばどうなるか、知っているか。知らないだろうな、本来ならば有り得ないことだ…鬼は捕食する側で、人は捕食される側。この摂理は早々崩れはしまい――だが、鬼の意思が其処に介在したならどうだ?

それが真実であるとして、お前はどうするだろう」


知らないはずなのに、どこか懐かしい声がする。穏やかでありながら底無しの沼の如き音は、吟うようにその先を紡いだ。


「おお、懐かしいお前、愛おしいお前。今はどのように成長したのだろう、美しい瞳の輝きはそのままか?新たに名を得たのか、ならば私も…いや、幾つ年月を重ねても嫉妬はするものなのだな。
よもやこのような島国でおぞましいモノになってしまうとは思わなかったが、これもまた一興。差し出せる選択肢が増えたことは、私にとって願ってもないことだったよ」


空気が揺れた。いや、この表現は正しくないかもしれない。その揺らぎはどこか湿り気を帯びていた。ゆらりゆらりと微睡みに浸かるかのようなこの空間は、水で満たされていると言えよう。蓋をされたような違和感のある耳に届くのは、何かが流れる低い唸りだけである。
しかし声の主が喉を鳴らすように笑いを漏らしたのを、女はしっかりと感じ取っていた。己が何処にいて、どんな状態で、その声を聞いているのかも分からないと言うのに。起きているのか眠っているのか、それすら知らぬまま、女は透明な海月のように音といううねりをすり抜けた。


「あの男は私を駒として覗き見もしていたようだが、舐めすぎだ。見ているからこそ、見たもの全てが真実であると思い込む(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。元は私が何を生業としていたかを知らぬわけでもあるまいに…そうして足元をすくわれ、絡め取られ、喚きながら崩れていくんだろう。目に浮かぶようだ」


それはそれは愉快そうに転がる渦だった。その楽しそうな声音のおかげで、女は目が回りそうなほど踊らされるはめになった。とはいえ、女は海月。ただ音の生む潮流に身を委ねるのみである。


「ああ滑稽な!!あやつは知らぬのだ、生命というものの本質を!!ああなんと哀れ、哀れ。奪い取るしか知らない、与えられることを知らない、涙ぐましい輩よ。学ぶこともせずにいるから、私がこうして笑っていることも知らないままだ。そして―

― ×× のことすらも、知り得ぬまま」

「だが、 ×× の存在こそ誰にも知られてはならない。――が求め―――か近しい――しれない、」

「そ―――過できな――」


一部分だけ、音が乱れる。そうして徐々に遠ざかってゆき、終いには静寂だけが取り残された。随分と騒がしい隣人であった。しかし寂しいとは思わない。あそこまでつらつらと話し続ける方が奇特なのだ。女は海月。今日もぷかぷか、実体無き体を翻して漂うのである。





「 ×× 、私のパンドーラ…私の幸福の子。
私と会うその時まで、君の手に抱えたその箱は開けてはいけないよ」





* * * * * *





「…触診では問題なさそうですね。では篝さん、両腕を上にあげてください。目一杯いってみましょうか…そう…はい、大丈夫ですよ。下ろしてください」

「…ふむ」


女―篝楪(かがりゆずりは)は言われるがままに両腕を上にあげ、違和感がないかどうかを確かめる。全身の切り傷や肉が抉られていた左肩も、傷痕以外元通りだ。専用に用意された機能回復訓練も段階毎に難なくこなし、今ではこの怪我を負う以前の訓練内容と同等のものを実施している。体のなまりを矯正するには、やはり普段通りが一番であった。
蝶屋敷の女主人―胡蝶しのぶは、女の椅子を回転させて背中までじっくりと観察している。上弦の参・猗窩座との激戦は、こちらの辛勝で終わったと言えるのだろうか。最たる功労者の一人であるとお館様が名を上げた篝は、一定期間は病床の人であった。しかし世知辛いことではあるが、鬼の首魁が生きている限りは再び戦場に立って貰わねばならない。相手方主戦力の首を獲れはしなかったものの、大きな損失なく生き延びた者であればこそ、それは尚更のことだった。

もういいですよ、と大人しく背を晒していた所に声がかかる。肩から落としていた上衣を羽織り直して前を向くと、胡蝶が篝の緩い胸元をきっちりと整えて満足そうな顔をした。そこに特段会話はなく、何ら違和感もない。つまりは友人という距離の近さがなした、一つの日常風景である。


「痛みは無さそうですね。傷口も痕は残りますが、しっかり塞がってます。筋が張っている感じはありませんでしたか?」

「いや、それももうありません。全快、と言えるのでしょうね…礼を言います、胡蝶殿」

「気持ちが良いほど何処にも問題ありません。こう言うのも何ですが、あなたは此方の指示にしっかり従ってくれる患者の鏡のような方でしたから!それはもう、ええ」

「…褒められてるのですか、それは……?」

「ふふ…隙あらば盗み食いに脱走に無理な鍛練にと騒がしい方々も過去には一定数…いえ、なんでもありません」


言葉の端々にとげが生えているような語り口に、女は開きかけた口を静かに閉じた。仮の弟子や馴染みの柱…そういった面々がその問題行動を起こしていたような気がしたのである。勿論これは気のせいではなく、正にその通りのことが蝶屋敷では起こっている。
聞くかどうかは分からないが、今度言って聞かせねば―ただでさえ仕事の多い胡蝶に負担をかけているのだ。そんな友人の一助になればいいと、篝は思い浮かぶ面々になんと告げてやろうか思いを馳せた。すると、こほんと仕切り直しの咳払いが耳に入る。


「後は体を仕上げていただけば出立の許可を出せます。篝さんは足の骨が折れていましたから、そちらを重点的にやってください」


ここで女は、おやと内心首を傾げた。体に違和感はない。訓練も通常通り、胡蝶本人からのお墨付きも得ている。だというのに、出立許可ではなく訓練内容について言及されているではないか。先程は閉ざした口を、疑問をぶつけるべく開いた。


「分かりました…と言いたい所ですが。一つ質問よろしいですか、胡蝶殿」

「ええ、どうぞ」

「…私には伝達されていない次の任務内容があるようです。私が知っているのは、東京を離れた任務であるということだけです。お聞かせ願えますか」

「篝さんならそう言うと思ってましたよ」


にこりといつも通りに胡蝶は微笑む。差し出された手に握られていたのは、明らかに軍の管轄である秘匿情報―東京と神奈川の詳細な地図であった。


「またえらいものが…いえ、出所は聞かないでおきます。お館様は、その…謎多きお方ということで」

「ええ、それは懸命な判断かと」


一つ息を吐き、胡蝶は眦に鋭さを滲ませる。ここからが本題…そのことを理解した篝の背には、自ずと力が入った。
そもそも、鎹烏によって任務の伝達をしていないこと事態が異様だ。明言されたことはないが、人から人への伝達は漏れる可能性がある。鬼に食われたり、不慮の事故に合ったり、考えられる最悪の事態は様々だ。情報戦―その名が示す通り、伝達は戦。不確実な手段より、より確実性の高い手段を選ぶのは当然のことである。そのため、普通の群れに紛れられる鎹烏が伝達のために教育され、主な連絡手段とされているのだと―少なくとも、篝はそう思っていた。


「事前に鎹烏から得た情報は、東京を出た単身の偵察であること、詳細は次の連絡を待つこと…これでよろしいですね?」

「その通りです。故に、ここで機能回復訓練を行いながら相棒の訪れを待っていたのですが…何故か詳細を胡蝶殿から聞くことになろうとは」

「ええ、私も何分初めての事でして少々戸惑いはありますが…お館様直々に" 篝楪の完治後は蝶屋敷に十日間留め置くように "との伝達がありました」

「…成程、次の任務は余程用心深く当たって欲しいと。怪我は完治したとはいえ、常日頃行っていた訓練はまだ再開したばかり」

「さすが篝さん!察しがいいですねえ。任務に当たっても問題ないことは大前提なんです。ただ、最善の状態に整えてから任務に心してかかれ、と。煉獄さんではなくあなたが適任であると、お館様も煉獄さんご本人も判断しています。
受けていただけますね?」

「元より断るつもりはありませんでしたよ。しかし煉獄殿もそうお考えとは…知りませんでした」


つまりは、重要度の高い任務が己に回ってきたということだ。柱が請け負えば…と思わないでもないが、そうもいかない。近辺に滞在し手が空いていそうな柱は僅か三人。その内胡蝶は蝶屋敷の主人として多くの患者を抱えているし、どうやら他にも極秘で抱えた任務があるようだ。近場にいたはずの宇髄はというと、弟子三人を連れ立って遊郭へと向かってしまった。残るは療養を終えた煉獄なのだが―…煉獄は、今はお館様の命を受け自邸にて待機という状態だ。この機会に体を休め、今の視界に慣れた上で新たな戦い方の模索を、とのことである。
実を言えば、煉獄は先の任務で脇腹以外にも猗窩座から攻撃を受けていた箇所がある。それは左目であった。幸いにも視力を失うことは無かったが、夜目が効きにくいという弱点を持つことになってしまったのである。勿論剣技に曇りはなく、炎柱としての実力は健在だ。しかし鬼の特性を考えれば、任務から遠ざけるのも無理は無かった。当たり前のことだが、鬼は夜にしか現れない。そして今回の任務もまた、煉獄にとってはひどく酷な場所であることは間違いなかった。


「―洞窟?」

「正しくは地下礼拝堂、ですね。耶蘇教徒…彼らはキリスト教徒と自称しているようです。まだ幕府があった頃に、迫害から逃れつつ信仰を深めようと彼らが造ったものだそうです」

「…聞いたことがある。イエス・キリストなる者を信奉し、隣人を愛するよう説くのだそうだ」

「その地下空間は、まるで土竜の穴。人の手で少しずつ掘り広げられ、幾つもの通路と部屋が存在するのだとか」

「…地下へ潜り込むのに光は目立ちすぎる。信者として潜り込むにも、あの見目では……確かに煉獄殿には難しい任務ですね」


まさか潜入だというのに松明を持ちながら彷徨くわけにもいくまい。つまり、身一つでやり遂げねばならないことは確実だ。そうなると、目に不安を残す煉獄に任せる選択肢は消える。
そこで白羽の矢が立ったのが自分な訳である。篝とて静謐な動きに自信はあれど、常に暗闇にいるとなると気が滅入りそうだ。それにしても、奇妙な場所へ行かされることになりそうだ。一度たりとも触れたことのない異教徒の根城へ、よもや足を踏み入れることになろうとは。人生何があるか分からないものである。


「まずこの地下礼拝堂は、全体像が掴めていないんです。どこに通じているのか、部屋は幾つあるのか、どれくらいの規模なのか…それこそ入ってみないことには分からないでしょう」

「入り口すらも把握していないのですか?」

「いいえ、そこは調べがついています。隠の方々が懸命な周辺調査をしてくださったようで…此処です」

「神奈川の…横須賀?こんな所に地下礼拝堂があったのか」

「外来のものは総じて海からやって来る。道理でしょう?ここにある町の人の多くが、キリスト教徒であると思われます。迫害からの逃れ者の集まりとでもいうのでしょうか」

「…?いや、待ってくれないか胡蝶殿」

「はい?」


篝は自身を決して教養深い人間であると思っていないが、御師様から学んだ全ては知識として身に付いていることを自負している。教えられたその中に、今回の件との矛盾を感じた。

―可笑しいのだ。何故なら彼らは、最早隠れる必要が無いのだから、逃れてくる必要すら無いというのに。


「今上天皇……いや、違うな。確か先の明治天皇の六年目辺りだったか…定かではないのですが、いわゆるキリスト教の禁教令は解かれたはずでは?隠れることなく、堂々と己の信仰するものを述べることが出来るのに、何故彼らは…」

「それがこの町を調査せねばならない理由の一つです。始めから整理していきますので、よく聞いてください」


胡蝶曰く、その町は元々海沿いで交易が盛んなこともあり、人々の往来は多かった。町に人が入ってくることはあっても、出ていくことはそうそう無かったそうな。それもそのはず、海は資源だ。運路だ。荒く揉まれることはあれど、人々にとっては輝き廃れることのない宝であった。

そんな町の異常な所は三つ。
まず一つ、何かに追われるように人が入り続けるのに対し、町の規模は大きくならない。加えて住居が増える様子もない。
さらに一つ、隠れる必要が無いキリスト教徒たちが、未だ地下礼拝堂へ足繁く通っている様子があること。
重ねて一つ、地下礼拝堂には「預言者」がいて、人々を教え導いているとのこと。これは鎹烏による偵察によって得られた内部情報である。


「そもそもこれはキリスト教…では無いのかもしれないな。
キリスト教を騙る似非宗教、その元締めが鬼である可能性が高いとお館様はお考えなのですね?」

「そうです。そして、往来が多いからこそ発覚しなかった行方知れずの人々の総数…恐ろしいことに、我々の調査だけでも五百は下らないでしょう」

「………この案件、本当に私が行ってよろしいので?」

「お館様は是非頼みたいと仰せですよ。
…本当に難しい任務であるからこそ、あなたの大局を見る審美眼を買っているのです。上弦の参との戦いで被害を最小限に抑え、炎柱を生還させたあなたを!必ずや正しい判断を行い、帰還してくれると――私も、信頼しています」


菫色が滲む美しい眼差しは、凛と軽やかな音を錯覚させた。それを正面から受けた萌黄色は、驚いたようにゆるりと揺れ、やがて弓形にしなる。


「友人冥利につきますね」

「ええ、頑なに柱への昇進を断る偏屈者ですけど、大事な友人ですから」


―そう、私はここに帰ってくる。
託してくれた人、信じてくれた人、信じている人、先を見届けたい人、色々な人が己の背を支えていてくれることを、篝は知っていた。何より、笑顔の裏に怒りと涙と苦しみを隠してしまう友に、これ以上の重石は必要なかろう。

大丈夫。何より叶えたい願いの為には、追い付きたい背中を掴む為には、首魁を倒さねばならないのだ。その時まで、命も、刀も、信念も、何人にも折らせはしない。鬼舞辻無惨の最期こそが、篝楪にとっての始まりなのだから。

始まる前に、終わってたまるものか。
























「おお、なんと!もしや近くにいるのか?いやしかし、ここまで鮮明な心界は初めてだ…お前、海月などどこで知った?海など目にしたことも無いだろうに」


海月はありもしない首を傾げようとして、ゆるりと水中で弧を描いた。女は海月、海月は女。しっかりと感覚はある。己を撫ぜる柔らかな潮流には、覚えがあった。興味深そうに海月をつついてくる声の主には、実体はない。見渡す限りの透明な青だ。だがその者は海月に触れることが出来たし、声もすぐ傍から聴こえていた。
はて、目の前にある透明な揺らぎは何だろう。一頻り眺めてみて、通り抜けを試みる。ところが透明な壁があるようで、通り抜けられない。どこにぶつかったのかは分からないが、声の主は驚きに満ちた笑い声を上げた。


「はは、これはこれは!好奇心の塊なのは変わらんか、懐かしいお前。姿は見えなかろうが、今ぶつかったのは私だ。見えずとも、此処に在るぞ」


以前はひどく冷たくて、滑稽でたまらないと言いたげな音だったというのに、何があったのだろう―…海月はふわふわゆらゆら、遊回する。まるで正反対、甘ったるくて温かに溶ける音色。いや待て、以前とは何のことだろう。それでもどこか、覚えている。知っている。なんだか嬉しくなって、己を包んでいた温もりにわざとぶつかりにいった。斜め上にぴょこぴょこ。


「こらやめぬか、はは、ふふふ…!お前は飽きない奴だな」


些細な悪戯はふんわり包まれて押さえ込まれてしまった。これは掌だろうか?お椀を持つように支えられているが、足部分が両手に挟まれていて動かせない。これではちょっかいが出せないではないか。抗議のために手首と思わしき辺りをこしょこしょしてみるも、楽しそうな揺れが伝わってくるだけだった。

あなたが嬉しいと、私も嬉しい。私が嬉しいと、あなたも嬉しい。どうして?


「ふ、ふ…知りたいか?ならば私を―――せ、た―えそれが―――――――いだとしても」


知りたい、私が悲しいと、あなたも悲しい?ねえ、姿を見せて、ねえ、声が聞こえないよ…ねえ……………

あなたは一体、私の何?





* * * * * *





ざわめきに満ちた雑踏の中で人にぶつかってしまうのは、もう当たり前なのだと諦めた。通り過ぎていく人々も、ちょっと肩が当たった位では気に留めることすらしない。何とか出店と出店の隙間に体を滑り込ませ、一息つく。そんな女の履いていたおろし立ての革靴は、少し擦り切れてしまっていた。それほど人の往き来が激しいのである――此処、横須賀は。

靴の綻びを気にしてしゃがみこみながら、探っていると気付かれぬよう注意深く人々に目をやる。中には軍服の青年も多くいて、軍港に程近い場所であることを再確認させられた。とはいえ軍と事を構えるつもりもなく、目的も彼らではない。魚を売る出店の声掛けが賑わいの中で響いては消えていく。他の町と比べて何か違和感はあるだろうか?
ひとまずは宿を取ろうと女は隘路から通りに入り、目的地へ向かおうとした。とその時、腰元を軽い衝撃が襲う。


「わっ!ごめんなさい!」

「おや、急ぎかな?一つ落ちているよ」


振り返ってみると、両手いっぱいに柑橘系の果物を抱えた十歳くらいの男の子が立っていた。ぶつかった拍子に落ちてしまった果物を小山の上に乗せてやると、慌てた表情をしていた男の子はにっかりと笑って言った。


「ありがとうお兄さん!このままだとまた落としてしまいそうだし、お兄さん一つ貰ってってくれよ」

「いいのかい?では有り難くいただくとしよう。足元には気を付けて行くんだよ」

「うん!俺、急ぐからこれで!」


走り去る後ろ姿は、雑踏に紛れてすぐに見えなくなった。行き逢いの僅かな交流だったが、己を見上げてきた無垢な瞳の煌めきに、篝は温かさと懐かしさを覚えた。かつて御師様の元に集った愛しい家族は皆年下であったため、幼い子供には優しく接したくなる。
ふと鼻をくすぐる芳しい香りは、掌の中の果物。丸く大きく実ったこれを、あの少年は一体誰に渡すのだろうか。遠くでは、子供達の笑い声と駆け回る音が聴こえる。


「…ん?」


ふと思い返せば、この町に入った頃から十五にも満たない子供の姿を多く見かけていた。近くに学校でもあるのかもしれないが、情報収集は後でも良かろう。白衣を翻せば、背中の竹刀袋がカチャリと音を立てる。小さな贈り物を落とさないように転がしながら、篝は目当ての宿屋へと足を運んだ。




「まあ、まあ、これは旅のお方!東京から遠路遥々ようこそいらっしゃいました。丁度お部屋が一つ空いてございますよ」

「それは良かった!実はここで三軒目でして…やっと腰を落ち着けることができます」


仕立ての良い着物に身を包んだ女将と思しき老婆は、にこやかに篝を出迎えた。蝶屋敷から移動に移動を重ねてやっと辿り着いた目的地だが、道中何も無かった代わりに宿を取るのに大変苦労するはめになった。何事も円滑に進むなんていうことはそうそう無いようだ。やはり女将で間違いなかったのか、老婆は奥に控えていた女中に部屋の支度をするよう指示を飛ばしている。
とりあえずは夜まで体を休ませることが出来ると思いながら、篝は靴を脱ぐために腰を下ろすことにした。すると、傍らに置いた果物がその丸さ故かころりころりと己から離れていく。


「おっと、危ない危ない」

「あら旦那様、その果物とっても良い香りですねえ」

「そうでしょう。この果物をたくさん抱えた優しい少年がおりまして、親切にも私に分けてくださったのです」


伸ばした手でしっかりと掴み、今度は動かないように荷の上に置いて固定した。その果物を目で追っていた女将は、離れていても感じる柑橘類独特の爽やかで甘い香りに目を細める。少年のことを思い返して笑顔になりながら、篝は今一度その香りを鼻腔に満たした。その横で少年の話を聞いていた女将は、その途端何かに思い当たった顔で口に手を当てるような仕草をする。


「…あらまあ、もしかして」

「?」

「旦那様、その果物―…」

「あっ!あの時のお兄さん!!」


女将が気の毒そうに口を開いたその時、聞き覚えのある声を背に浴びた。まだ靴を脱ぎ終えていないため首だけで振り返ると、そこには話に上がっていた張本人があんぐり口を開けて立っていた。果物をくれた、例の少年である。


「お兄さん今日ここに泊まるの!?俺と一緒だね!ねえ後で遊びに行っていい?」

「やあ奇遇だな少年。私はいっこうに構わないよ…女将さんの許可が下りればね」

「こら真備津、お客様の前だ。行儀よくなさい」

「あっ…ごめんなさい、おばあ」


慌ただしく謝罪をし、篝には後でまたと叫ぶように告げた彼は、顔を覗かせていた通路の奥へと姿を消した。その一部始終を見ていた女将は、仕方なさげに溜め息をつく。それから少年の無礼を篝に詫び、部屋への案内をしてくれた。女将の話によればどうやら二人は親族らしく、真備津という名の少年は女将の妹の孫であるという。訳あってこの宿に間借りして住んでおり、普段から人付き合いが少ないので良ければ相手をしてやって欲しい…そう言って女将は頭を下げた。

少年自身も外から来た男―篝楪は女だが―に興味津々なようであった。篝が部屋の片隅に荷物を置いていると、襖の向こうから入室を求める少年の声が聞こえる。どうぞと声を掛ければ、思いがけずきちんとした所作で少年は篝の部屋に足を踏み入れた。感心した声で言葉を投げ掛けると、少年はまたしてもにっかりと笑って返した。


「歳の割にしっかりした子だな」

「おばあ…ここの女将にしつけられたんです。言葉はいくらでも変えられる、ただ行動は心の内が表れる。だから普段から正しい所作をすることで、心を鍛えなさいって」

「…良い方じゃないか、女将でなければ教育者に向いているだろう。
さて少年、自己紹介をしよう。私の名は篝楪、君は?」

「俺は瀬峰真備津!真備津って呼んでください」


それからというもの、東京に憧れがあるらしい真備津からの質問の内容は、殆どが東京の町並みや食文化についてだった。途中から敬語を忘れて夢中になっている姿は、先程とはうって変わって年相応の少年そのものである。ころころした笑い声が部屋に満ちるのが楽しくて、篝もつい熱心に話をしてしまう。家族を一度に失ってからこうも心穏やかに寛いだのは、久々の事かもしれなかった。


「へえ!凄いなあ、篝兄さんはカツレツを食べたことがあるんだ!どうやって作るのか知ってる?俺にも作れるかなあ」

「いや…どうだろう?どうも油をグツグツと高温に熱して、そこに肉を入れるんだそうだ。油がはねると火傷するわ床は焦げるわで大惨事らしいぞ」

「そっかあ…じゃあおかあには食べさせてあげられそうにないなあ」


おや、と篝は真備津の言い方に引っ掛かりを覚える。今でこそ厨は男も活躍する場となっているが、年端もいかない少年が母に料理を振る舞う状況とはどういうことなのだろう。


「真備津、君の母上は何か病でも患っているのか?君はまだ厨に慣れるような年頃には見えないが…」

「ああ…うん。実は俺一人で此処に世話になってるんじゃなくて、おかあも一緒なんだ。だけどおかあ寝たっきりで、おとうは死んじゃってるし。だから近くの山に行って果物いっぱい取ってきたんだ!美味しいもの食べれば元気になるっていうもんな!」

「そうだったのか…すまない、踏み込んだことを聞いてしまった」

「いいんだ、謝らないでよ!俺こそ篝兄さんに謝んなきゃならないし…」

「どういうことだ?」


深々と頭を下げると、真備津は慌てて顔を上げさせた。優しい子だ。心細いだろうに、それを感じさせないよう振る舞っている姿には感じ入るものがあった。それはそうと、真備津の言う謝らなければいけないことの中身が気になる。先を促せば、気に病む必要が無いほど笑える話だった。


「俺さ、美味しい橘がいっぱい生ってるって聞いて山に入ったんだ。見渡す限り同じような果物がいーっぱい実ってて!嬉しくなって抱えられるだけ持ってったんだ。篝兄さんにもあげただろ?
でもおばあに割ってもらって味見したらびっくり!苦いし酸っぱいしで食えたもんじゃなかったね。実は枳(からたち)っていう別物だったってわけ。だからごめん、あれ食べられないんだ」


真備津の目線の先には、荷物の傍らに転がる一つの果実がある。それは間違いなく己があげたもので、優しいお兄さんがまだ口をつけていなかったことに安堵した。


「ふふ、柑橘は見分けが難しいからなあ…でも大丈夫、気に病む必要はない。私は君の気持ちが嬉しかったし、きっと君の母上も同じだろうさ」

「へへ…そうかなあ。それならいいなあ」


照れながら首の後ろをこする所はなんとも愛らしい。しかしなんとも奇妙なことだ。こんなに芳醇な香りで人を誘うというのに、人の味覚には合わないなんて…とんだ罠に引っ掛かった気分である。そうしみじみ考えていると、女将が女中と共に二つの膳を携えてやって来た。いつの間にやら、もう夕暮れ時のようだ。


「旦那様、よろしければ真備津と共に食事してやってくださいませんか。こんなに楽しそうな姿、久々でねえ」

「願ってもない、私もまだ話し足りなかった所です。真備津、君は構わないかな?」

「勿論!でもおばあ、おかあにもちゃんと食べさせないと」

「今日くらいこのおばあに任せなさいな。旦那様だっていつまでも居るわけではないんだ、甘えられる時に甘えておきなさい」

「…うん」


どうやら真備津の母上は介助せねば食事も難しいらしい。その役割はきっと、真備津自ら担っていたのだろう。つくづく健気な子である。せめて今だけでも楽しい時を過ごして欲しい―篝は話の種を記憶の引き出しから取り出しつつ、湯気の立ち上る膳を腹に収めるべく箸を取った。























「…え?」

「おかしいですよねえ。あそこ、本当なら全部橘の木の筈なんですよ、だから坊(ぼん)に教えてやったっていうのに」


―さて、時は夜。
真備津が話していた山というのが、実は例の地下礼拝堂の入り口に程近いことに気が付いたのは身支度を整えてからだった。とはいえ真備津はもう自室に戻ってしまったし、話を聞くのは明日でも良いだろうと判断して、篝は玄関に向かった。そこで入り口を掃除していたのが、女将の夫で宿の総支配人である男であった。情報収集も兼ねて世間話に付き合うこと数分、篝が枳の話をすると、総支配人は心底不思議そうな顔で驚きの事実を述べた。冒頭に戻る。


「木というのは育つのに何年もかかるというし、おかしいと思って植え替えられた形跡を探しましたよ。だけど昔雷で打たれた裂け痕もそのまんま…ただ実の種類だけが変わってしまって、私たちは橘を食べられなくなってしまったという訳ですわ。私なんか、腹が減ったらあそこの橘ばっかり食ってましたけどねえ」

「…本当に、不思議なことですね」


―間違いない、鬼だ。
木に生る果実だけが変化するなんて尋常なことではない。普通では有り得ない力が働いた(・・・・・・・・・・・・・・)としか思えない。とは言っても、一体鬼は何が目的で橘を枳に変えたのだろうか。いや、目的など無いのかもしれない。何かの過程で生じた変化である可能性もある。
早急な調査が必要と判じ、篝は会話を切り上げて森へと向かった。町の調査はまた不十分かもしれないが、最も重要な情報は地下礼拝堂の内部にこそある。

―…行方知れずの人々の総数…恐ろしいことに、我々の調査だけでも五百は下らないでしょう

友人の声が脳裏に響く。まるで油断してくれるなと、警告するかのようであった。夜間ともなると、あれだけ賑わっていた通りも人影は少ない。酔っ払いが何人か千鳥足で歩くのを尻目に、篝は足を速めた。

しばらく大通りを道なりに進むと、前方に森が見えてくる。真備津によれば、枳を取ったのは山の中腹辺りだということだ。しかし近付くにつれ、山が結構な大きさであることが分かる。その名は津見台山。かつては港の見張り台として使用されたほどで、それなりに高さのある山だった。これはのんびり進んでいたら到着する頃には朝になってしまう。闇に紛れた方が目立たず、偵察の成功率は上がるのだ。
周囲を目視で確認し、耳を澄まして気配を探る。人が近くに居ないことを確かめた篝は、跳躍して街路樹を足場にすると、音もなく木々の枝から枝へと駆け抜けた。





* * * * * *





「…ここか。確かに見事な実りっぷりだ」


見渡す限りの果実、果実、果実。たっぷりと身が詰まっていることを予感させる橙は、その重みで二つ三つと揺れて枝をしならせていた。これが全て、枳なのか。食べられないとは勿体ない…なんて、過去にその日暮らしをしていた篝は、残念に思いつつ実に触れる。香りだけは満点だというのに。
枳に囲まれた篝は、地下礼拝堂の入り口へ向かう前に己の刀であることを試そうとしていた。竹刀袋に隠していた刀は、人が居ないためいつもの腰元に落ち着いている。鞘から刀身をゆっくりと覗かせ、鋒(きっさき)を地面へと向けてそのまま下ろしていく。やがて刃は土の中へ姿を隠し、中腹まで来た所で動きを止めた。


「……葉の呼吸―弐ノ型、蔦柳」


地中の鋒が下へ下へと伸びてゆく。「蔦柳」は、篝お得意の距離を取って事を優位に運ぶための技である。鋒から葉の刃を呼吸により伸ばし、しなやかな鞭のごとく振るって相手を切り刻む。これを目にした恋柱―甘露寺蜜璃は、自分と揃いだと大層興奮したそうだ(厳密に言えば刀自体が伸縮しているわけではないので、決して似通っていても同じではないのだが)。
そんな遠距離攻撃は、実は索敵にも向いている。柔軟性に富んだ柳はどんな場所でもするりと潜り込むため、水や土、家の中はとりわけ相性が良い。気配を探る鍛練こそ欠かせないものの、自身を危険に晒さず状況を把握できる術があることは、間違いなく強みであると言えよう。


「!…空洞がある」


土を割るように進んでいた刃先に、負荷が掛からなくなった。そこから壁伝いに伸ばしてみる。ぐるりと一周すると、対角にさらに空洞があった。通路のようだ。そうして探り探りで先へ伸ばしていくが、遂に限界を迎えた。これ以上距離が広がれば、技を維持できなくなってしまうのだ。

(ここまでにしておくか。しかし…把握できただけでも部屋は四つ、それぞれ最も幅の広い通路に面しているが、分岐している通路もある。ここまで大規模となると―)

―もしや、この地下空間は山全体に及ぶのでは?
暗闇に聳え立つ津見台山の中では、木と木の間を通り抜ける音が業々と鳴り響いている。それが嫌な予感に拍車を掛け、事実だと肯定しているような気がした。

事前に得た情報によれば、礼拝堂の入り口は山の北側にある小さな寺にあるという。そこには水の枯れた井戸があるが、取り潰されることなく蓋がされただけの状態なのだそうだ。"そこから奥に響く風の音がする"と隠の報告にはあった。蓋で隠されていた井戸内部には梯子があり、これで下に降りるのだろう、とも。
寺の地下にキリスト教の礼拝堂とは可笑しな話のようだが、実はそう珍しいことでもないと篝は理解していた。木は森に、人は人混みに、宗教は宗教に―…仏教の見た目をしていれば、そうそう露見するものではない。寧ろ最適な隠れ蓑であった。

身を隠すため、さびれた小さな寺の内部に忍び込む。奥には優しげな顔で赤子を抱く、観音像が置かれていた。―慈母観音だ。それを視認して、お誂え向きなことだと篝は小さな笑いをこぼした。慈母観音像は、いわゆる隠れキリシタンが聖母マリア像の代替として信仰していたものである。寺に置かれていても何ら不思議ではないが、柔らかに前を見据えるその像の木肌は柔らかく、真新しい。床が所々傷んで抜け落ちている寺と比べると、明らかに合っていない。元々寺には無かったものなのだろう。
とその時、外から複数の気配が近付いて来ることを察知した。息を潜めて戸の隙間から辺りをうかがうと、井戸の前でその気配の持ち主は足を止める。荒々しく息を吐いている大人が二人、余程急いで山を登ってきたようだった。男と女の二人だが、夫婦なのだろうか?男の背には、ぐったりと手足を投げ出している女児がおぶられていた。


「あなた急いで!山茶女(さざめ)、ああしっかりして!!もう少しよ、もう助かるわ!!」


涙混じりで男を急かす女は、ガタガタと音を立てて井戸の蓋を外す。山茶女と呼ばれた女児の喉からは、ぜえぜえとひどい音が響く。ごろごろという音も聴こえてきて、篝は察してしまった。―あの女の子はもう助かるまい、肺に血が溜まってしまって満足な呼吸が出来ていない、と。現に男の背には女児が吐き出した血がべっとりと付着しており、量が多すぎて滴らんばかりになっている。


「山茶女は俺が抱えたまま行く、お前は先に下りて下で梯子を支えるんだ!さあ、早く!」

「…っ分かったわ、早く、早く―
――医祖様(・・・)にさえ、お見せすれば!!」


女に続き、男も子を落とさぬよう気を付けながら井戸の中へ慎重に入っていく。梯子が重みにしなって揺れていたが、それもやがて動きを止めた。地下の気配を追えなくなってから、篝は井戸へと走り寄る。幸いにも月明かりで底の様子が分かったが、下までの深さは然程の物ではない。下手に臭いをつけて潜り込む訳にもいかないと、ちらりと血にまみれた梯子を一瞥した女は、瞬きの間に地上から姿を消した。





* * * * * *





「…ああ医祖様!!この子を…山茶女をどうかお助けください…!!」


湿った嘆願の声は、ほの暗い地下にじわじわと染みて消えていく。
意外なことに、地下には壁に火の灯った蝋燭が備え付けられており、足元の心配をせずとも先へ進むことが出来た。二人の通った後には血痕があったため、容易に調査対象の元まで辿り着くことが出来たのは幸運と言うべきだろうか。消え行く灯火を囮にしているような心苦しさがあって、篝は僅かに眉をひそめた。

気配は消えかけのもの―山茶女という子だろう―が一つ、男と女の二つ、そしてもう一つ。己の影が相手に見えないよう細心の注意を払いながら、通路の脇に体を滑り込ませる。夫婦の背中と、その向こうに白い布の掛けられた台が見えた。その上には女の子が横たわっており、傍らにひどく背の高い男が立っている。丁寧に鼓動を確かめている姿は、まるで蝶屋敷の女主人のようだった。
容姿は整っている。朱色の腕まである手袋に覆われているように見える手は、よくよく見れば肌と一体化しているようだ。袖の無い首詰め襟の衣は、大陸の物と同じような作りに見える。切れ長の目蓋から覗く瞳は、あらゆる夜を集めたかのような深い色合いであった。藍にも紫にも黒にも見える、不思議な輝きだ。行方不明の人の数を思えば下弦もしくは上弦の鬼かと思ったが、何も記されていない瞳を見る限りそうではないらしい。一方、瞳とは対照的な亜麻色の髪は、金飾りで一纏めにされていた。背に揺れるそれは、晩夏の稲穂のように美しい。


「医祖様、あなたは子の病ならば何でも治すとお聞きしました、どうか…どうか娘を助けてやってください…!」

「……成程、肺に血が溜まっている…そもそも肺に穴が空いているようだ。このままでは夜を越えられまい。
さて、二つ選択肢があるが…聞くか?」

「医祖様、時が惜しいのです!俺も妻も、覚悟ならとうに出来ております!!この子が助かるならば、それ以外に望みはありません…!!!!」


悠長に構えている姿に業を煮やしたのか、遂に男は鬼の足元にすがり付き、すすり泣きを始めた。猶予があるのなら、履き物すら放り捨て、足の裏を傷だらけにすることなど無かった筈だ。女の子をこの世に繋ぎ止めている糸は、蜘蛛の糸の如く頼りない。
喚き散らしたい思いを必死に堪える二人の背中は、ぶるぶると震えていた。鬼の眼下に晒された首はひどく無防備であり、いつでも手を下せる状況にある。手を刀の柄に添え、篝は事の行く末を見守ることにした。


「そう嘆くな、お前たちの選択によって子は助かる。必ずだ」

「!!っ本当に…!ありがとうございます、ありがとうございます…」

「ああ…!ああ……!!山茶女、良かった、良かった……」


鬼は膝をつき、男と女の手を握って誠意ある約束をする。彼らは感極まったのか、喉の奥で言葉を詰まらせながら大粒の雫を膝に落とした。その背を撫でてやっていた鬼は、暫くしてから静かに立ち上がる。


「さ、施術の時間だ」


―その瞬間、うわん、と空間が歪んだ(・・・・・・・・・・・)。
反射的に抜刀した篝は、抜き身の刃を鬼に向ける…が、そこに亜麻色の男は立っていなかった。視界に映るのは、いつの間にか倒れ伏している夫婦の姿だけだ。
肩に温もりが触れ、頬を優しく朱色の指先が伝う。体が言うことを聞かない(・・・・・・・・・・・)―冷や汗を流す篝の背後から深緑に煌めく刃の背を抑えた男は、うっそりと笑って耳に顔を寄せた。


「やはり近くに居たな。分かっていたよ、私のお前」




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