二次創作/夢
とある彼女の騙し愛。6(笠松/夢)
゛側にいたいよ…っ゛
話し声が聞こえて、とっさに隠れた。
自分ですら忘れていた女嫌いの理由は、どうしようもなく彼の胸を締め付けた。
―いつだって、側にいた。
それが当たり前だと思っていたのは、彼女をちゃんと見ていなかったのは、紛れもなく自分だったのだ。
(俺は―…)
「…だってさ、―――笠松」
「!」
…気づいてたのか。
話しかけたという事は、出て来いということなのだろう。
笠松は、意を決して扉に手をかけた。
―どうして、ここに。
信じられない、と言いたげに、朔はその瞳を丸くする。その拍子に、涙が数滴頬を滑り落ちていった。
森山はおもむろに立ち上がり、扉から未だ手を離さない笠松に、一言囁きついでに肩を叩いて去っていった。
゛上手くやれよ゛
(悪いな、森山)
「ゆ、ゆきちゃ―…」
泣きはらしたその瞳が、痛々しい。でも、それ以上に――…
「お前なあ、ふざけんなよ。俺が、いくら男っぽいからっつって、「女」であるお前と一緒に居られたのは……!!!」
―愛しかった。
自分を心から求めて、自分のために口調も見た目も全て変えてしまった、そんな彼女が。
朔だって、おしゃれやらなにやらしたい年頃だろう。それなのに、自分の側にいるためだけに。
気づいた途端に、もう止めることなど出来なかった。いつもの本音を隠す癖なんて、くそくらえである。
「 お前のことがっ、好きだからだよ!! 」
―そう、多分、ずっと前から、俺はお前が好きだった。
美しく光るその黒い眼が、再び見開かれてから、ふにゃりと目尻が下げられる。
「う、うそだあ…っ だって、ずっと一緒に居たのに、そんな仕草一度も無かったじゃない…っっ」
ボロボロと涙を流し続け、顔を真っ赤にしながら、朔は言った。
「言うの、遅いよ…、幸ちゃん」
―幸ちゃん、なんて呼ばれるのはいつ以来だろう。
そういえば、自分も長らく彼女の名前を呼んでいなかったかもしれない。
「わり、…朔」
゛朔!ほら、泣いてないで行くぞ!゛
懐かしい昔がよみがえり、朔は嬉しそうに目元を細めた。
「ゆきちゃん、」 「…何だよ」
少し照れたかのように口をとがらせ、笠松は返事をする。
「幸ちゃん、幸ちゃん、」「だから、なん…」
――大好き。
ふわり、と花が咲くかのような柔らかい笑みに、笠松は動きを一度止めた。
少し置いてから、首の後ろをかきながら頬を染める。
「…お前なあ…」 「…ふふ」
ムスッとしてから、朔に向かって再び呼びかけた。
「朔、」
「なあに、幸ちゃ…」
不意に優しく肩をつかまれ、視界を肌色が占領する。
目を伏せた彼の顔と、唇にかかる温かい吐息、柔らかい感触。
驚きながらも頬を赤く染める彼女に笑いかけて、彼は言った。
「俺もだよ、ばか」
「せええんぱああいいぃお帰りなさいっスうう」
涙と汗を撒き散らしながら抱きついてくる黄瀬を抱きしめ、朔は笑った。
「うん、ただいま!」
―あれから二ヶ月。全身打撲と多量出血のために長期入院を余儀なくさせられた朔は、つい一週間程前に学校に復帰したばかりだった。
黄瀬とはテスト週間の関係もあり、実に二ヶ月ぶりの再会を果たしたのである。
「ほーら、黄瀬!離れないと岸川の彼氏様に蹴られんぞー」
「嫌ッス…二ヶ月ぶりのセンパイ…俺だけ見舞いに行かせてもらえないし…」
「まあ、黄瀬はモデルだから女子が群がるしな…」
「っスね!!」「ですね」
小堀の言葉に早川も中村も賛同したため、黄瀬は更にふてくされて強く抱きつく。ミシミシと音が鳴りそうな状態に、さすがに朔も音を上げた。
「い、痛い!黄瀬!!」
「センパイまで俺を否定するんスかあ゛あ゛」
「そうじゃないだろ、とりあえず離せ」
スパァンッ、と中村に頭をはたかれ、渋々ながらもその巨体を離す。
そして、まじまじと朔を見つめ、こう言った。
「一応聞いてたっスけど…髪も伸びたし口調も変わったし、本来のセンパイに戻った途端にこう、なんか…」
「…何?黄瀬」
ねえ?と言い周囲へ問いかける黄瀬を尻目に、今度は中村が口を開いた。
「まぁ、今度は男の呼び出しに気をつけて下さいね」
「えっ」
『え?』
朔の反応に、黄瀬と小堀が反応する。まさかと思い中村がその真意を問うと、
「えっ、と…二回くらい…」
―復帰して二週間足らず、その間に2件も告白がくるとは。
痛む頭を抱えながら、中村は朔の肩をポン、と叩いた。
「…気をつけて、下さいね」
「まあまあ中村。そこは彼氏がなんとかしてくれるだろ、あの女子の件も片付けてくれたことだし。」
森山のその言葉に、朔は笑みを返す。
―実は、笠松は、その女子へ想いには応えられないと正面切って言ってきたのだ。
と、そこへ我らが主将…笠松の声がかかる。
「練習再開するぞ!戻ってこい!」
その声に元気よく応えて戻っていく部員を眺めていると、彼女も声をかけられる。
「行くぞ、朔」
「―うん!」
自然と、二人の手が繋がる。笑みを交わして、体育館へと歩を進めながら、笠松は朔に言った。
「今日も頼むぜ、マネージャー!」
そんな彼の言葉に、彼女も弾んだ声で返事をする。
「―任されました、キャプテン!」
―とある彼女と愛し合い。―
(何故岸川は仕事をしとるんだ?)(え?)(お前はあと三日は安静だと言っただろう)(えっ、ちょ、監督ー!)(…監督も意外と過保護だな…)
* * * * *
風呂場で思い付いた。
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