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二次創作/夢
とある彼女の騙し愛。3(笠松/夢)
「なあ…遅くないか?」「ああ…」

ざわざわとバスケ部員が話すのは、ただ一人のマネージャー、朔のことであった。
いつもは主将の笠松よりも早く来て、自分達を朝の挨拶と共に笑顔で迎えてくれるのに。一体、どうしたのだろうか。

「なあ笠松、お前なんか知らないのか?」

森山の問いに、笠松は顔をしかめた。

「いや…でも昨日もふつうに過ごしてたから何も変わったことはないと思うんだが…。」

一番彼女に近しい者が知らないとなると、最早お手上げ状態である。
彼女に「バスケ部の良心」と呼ばれていると全く知らない小堀は、
うおーーっっ!!センパイ何処っすかーーーっっっ!!!
と叫んでいる早川を宥めながらも、心配そうな顔をしている。
スンマセンっ!遅れたっス!!と走り込んできた黄瀬は、いつものごとく主将に蹴り飛ばされていたが。

それほど、珍しい事が起こった朝。

森山と同じクラスの朔は、朝のホームルームが始まる直前にやってきた。いつもなら交わす何気ない一言も、今日は視線すら合わないので交わされることはない。
そして話しかけるタイミングを失ったまま、午前中が早足で通り過ぎていった。











「なーに?朝あれだけ言われても来るなんて、貴女も大概バカなのね」

「…来いと言われたから来ただけだ」

今日の朝練は、この女のせいで出られなかった。どうやらこの女、同学年の者らしいが、自分は全く知らない。ただ、向こうは一方的にこちらを知っていたようである。「笠松くんにへばりついているじゃまな女」とかなんとか、言っていた気がする。

しかし、あんなに朝早く(六時半くらいだろうか)に学校へ来て待ち伏せされるとは、思いも寄らなかった。この人も、結構バカな気がする。

「で、今回は何用?」

「アンタ、マネージャーやめなさい」

はあ?と間の抜けた声をあげるこちらを、茶色く染めて脱色した髪を弄びながら、相手は鋭く見てくる。
階段の柵に寄り掛けていた体を持ち上げ、しっかりと彼女と向き合った。

「自分はマネージャーの仕事をしっかりとこなしているし、選手に必要以上に近づこうともしていない。
…君がそんな事を言う意味が分からない」

「っそんなの、笠松くんの側にいるための口実でしょ!?あなた邪魔なのよ!なんなの、幼なじみって!その口調もバカにしてるの!?」
昼休みだが、この女が人の居ないところを指定してきたせいで、誰も居ない廊下に叫び声が響く。

「バカになんてしてない。元からこんな口調だ」

キッパリと告げると、目の前の女は更に騒ぎ立てた。

「嘘よ!私知ってるもの、貴女が突然口調変わったことくらい!笠松くんが女嫌いになってからすぐのことよ、そんなの、笠松くんの側にいるためだとしか考えられないじゃない!!」

―口の中が乾き、心臓が忙しなく動き始める。

何処で、それを。

そうつぶやくと、少し落ち着いた口調で、
「あなた達と小中学校が一緒の友達が居るのよ」

と、言った。

(ああ…そういえば、新野さんと言ったか。そんな人もいたかもしれない)

突然黙り込んだこちらに、彼女が再びまくし立てる。終いには、肩まで掴んで揺さぶってきた。

「ほらっ、やっぱりそうじゃない!アナタ、私以外の笠松くんが好きな子の事だって、バカにしてるわ!
ズルいのよ、自分一人だけあの人のそばに居られるなんてっ―」


「うるさいっっ!!自分だって、こんな―…!!!」

パンッと強く彼女の手を振り払う。
相手の目が見開かれ、自分も少なからず驚きながら、自分の体が傾くのを止められなかった。

(ああ、しまった…)

―ここ、階段だった。

けたたましい音が続き、身体を激しく打ち付ける。頭から血が流れ出すのを感じ、我ながら危ない状態だと認識した。

階段の上にいる彼女がへたり込む姿が、かすんだ視界越しに見える。

「ぃ、いやあああああああっっっ!!!!!」

甲高い叫び声を聞き流しながら、暗くなる世界にあらがうことなく、目を閉じた。

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あきゅろす。
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