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二次創作/夢
蜘蛛の罠に絡まる胡蝶(ワートリ(短))




「は、離して!」

「おーっと、静かにな」

「大人しくしろよ?朔」


朔は、肩と腕に感じる温かさにただただ困惑していた。

普段より早めに業務を終えて上機嫌に歩いていたため、周りに気を使っていなかったせいだろうか。いや、そもそも背後から突然襲われることなんてそうそうないのだ。彼女が抵抗らしい抵抗をする間もなく捕らえられてしまったのは、ある意味仕方がないことだった。

きっ、と自分を背後と横から拘束する人達に鋭い目線を向ける。何の意図があってこんなことをしているのかが全く分からなかった朔は、飄々とした表情で悪びれもしていない二人に冷たく声をかけた。


「何かしら…当真くん、冬島さん」

「何って…」

「思い立ったらすぐ行動、だよな」

「…何を言っているのかさっぱり分からないわ」


顔を見合わせて理解できない会話を交わすものだから、余計に朔は頭を痛めることになる。腕を掴んでいた手ははずされていたが、その代わり両肩をそれぞれに拘束されているために逃げ出せない。そのことが焦燥に似たいらつきを増長させることとなり、朔はその感情を隠さずに伝えた。

すると、これは意外だと言わんばかりに当真が片眉を上げる。冬島もまた、面白そうに口端を歪めるではないか。いやな予感がした朔は、思わず眉間にしわをぎゅっと寄せた。


「まさか朔さん、自分の言ったこと忘れたなんて…言わねえよな?」

「え」

「覚えてないのか?残念だな…じゃああの罰ゲームは」

「まさか…!」


忍田さんに、と冬島がそう続けた瞬間、振り返ってその口を手でふさぐ。むぐ、と言葉を遮られた彼は一瞬驚いた表情をするも、すぐに目だけで笑ってみせた。横にいた当真も、にやにやしながら成り行きを見守っている。
彼らの言わんとせんことが何となく分かった朔は、焦りを表に出さないよう気をつけながら口元に弧を描いた。


「罰ゲームについてはあれでお開きになったはずでしょ。
…それより、二人で私を落とそうっていうの?自分一人で行動しようとは思わないのかしら」


その彼女の言い分に、二人はおもむろに目を合わせる。
すると、冬島は未だふさがれたままの口元からその手をどけるも、掴んで捕らえたまま離さない。当真はその冬島の動きと連動するように、手に掛けていた肩をそのまま壁へと押し付けて逃げられないようにする。一人だけなら何とかなったかもしれないのに、と歯噛みをする朔を見て彼らは愉しげに唇を歪めた。


「俺らはさ、前も言ったけど朔さんが欲しいわけよ。でも周りに取られるなんてもってのほかなわけ」

「だったらいっそのこと俺らで囲んでからどっちかに決めてもらえばいいかなって話。
…ま、朔には選択肢なんて無いけどな」

「な、何言って…んぅっ、!?」


―囲むだなんて何を恐ろしいことを!

当然、そう感じた朔が抗議の声を上げようとする。しかし、それは当真の指によって遮られてしまった。
唇を割って入ってきた親指は節くれだっており、女性のそれとは違う。歯列をなぞったり舌を押したり。そうやって無造作に動くものだから、辺りにいやらしく水音が響く。


「…、!ん、んっ!!」

「おー、えっろいなぁ」


舌を二つの指で引っ張られ、なぞられ、裏側を擽られてしまえば、もう力は入らなかった。うまく呼吸もできず、潤む視界で相手を捉えながらただ与えられる刺激を享受するしかない。
終いには冬島が掴んでいた朔の手を舌で舐め上げたものだから、遂に足に力が入らなくなってしまった。


「おっと。まだへばらねえよな、朔さん?」

「…こっちも忘れるなよ、一人だけ仲間外れなんて寂しいだろ?
手には色々神経が通ってるからなあ…気持ちいいだろ」

「ふ…っん」


崩れかけた朔の体を当真が受け止めるが、その悪戯な手は止まらない。冬島の行為もさらにエスカレートし、指より更に敏感な手の平へとその舌は移動していた。
口内に留めきれなかった唾液が口端から零れ、顎を伝って朔の胸元へと流れていく。開かれたシャツの襟部分に痕を残して、それは双丘の谷間へと落ちて消えた。その冷たさに体をびくりと震わせながら、目尻に溜まった涙を流すように朔は目蓋をおろす。

その様子を見て満足したのか、当真は彼女の口内から指を引き抜く。冬島も舌で刺激するのをやめ、手の平に音を立てて口づけてからぱっと解放した。


「…いいねえ」

「こういうのが見たかったんだよ。やべぇな、やっぱり朔さんめっちゃタイプだわ」


息を荒げて壁伝いにずるずると腰を下ろした朔の頬は、隠しようもないほど赤い。それどころか耳や首までほんのり上気している。いつも赤いルージュが光る唇は、唾液によって更に艶めかしい輝きを放っていた。涙の溜まった瞳を縁取る睫には、小さな雫が乗ってきらきらと主張している。
彼女の全てが男を誘う何かを醸し出していて、当真も冬島も態度には出さずとも、思わず喉を鳴らさずにはいられなかった。


「…も、何なのよ、二人してっ」

「いやあ、最初は恥じらってる所が見たい、てくらいなもんだったんだがな」

「なー。でも、煽ったのは朔さんだぜ?自分の発言には責任もってくれよな〜」


確かに、バードキスくらいでは恥じらわない、落としてみせろ、みたいなことは言ったかもしれない。しれないのだが、ここまで不味いことになるとは彼女自身全く想定していなかった。迂闊なことを言った過去の自分を叱咤したい気分に襲われた朔は、深くため息をつく。

―それ故か、自分に合わせてしゃがんでいた当真に気付いて反応するのに彼女は遅れてしまった。


「…は、ん!っんん」

「、」


突然遮られた呼吸は、目の前の男が原因だ。反論の言葉さえも飲み込んでしまう深い深いキスは、この前彼女が彼に禁じたものだった。ディープキスは挨拶の範疇ではない。これを交わしてしまえば最後…関係が変わってしまうと知っていたから、駄目だと言ったのに。
前髪が長い割には後ろ髪は短い朔の剥き出しの項を撫でながら、当真は角度を変えつつ唇を寄せる。酸欠で苦しくて涙を流す彼女を、優しい眼差しで彼は見つめていた。そのまま視線を逸らさずに、何度も何度も執拗に朔の舌を絡め捕る。当真が体を離す頃には、彼女は再び壁に身を預ける羽目になった。


「も、むり…っくるしい、」

「お、悪いな朔」

「…?」

「次は俺の番だ」


当真が退いたかと思えば、今度は冬島の番だと主張されて朔は顔を青ざめさせる。明らかに嫌がっている彼女に構わず、彼は笑いながら口づけた。
当真の時とは少し違い、上から覆い被さる形で完全に朔の体を拘束する。両頬を手で包んで固定して上を向かせ、自らねだっているような姿勢にさせる隊長を見て、当真は良い趣味だな、と横から零した。


「ん、…ふ、んく」

「、はぁ」


舌を外に出すように吸われ、二人分の唾液が朔の口内に溜まっていく。勿論冬島の行為は意図的にやっているものであり、苦しげに見上げてくる彼女を見たいという思いからのものであった。注がれるそれを懸命に飲み下していた朔だったが、先ほど同様口端から流れ落ちていく。その様を見て満足そうに目を細めた冬島は、唇を一舐めしてから顔を離した。

その際に二人の間に繋がった糸は、どれだけ二人が長く唇を重ねていたかを示していた。


「ん、ご馳走さん」

「や〜隊長あんたほんと良いわ。眼福ってやつだな」


ぼんやりと二人が交わす会話を聞き流しながら、朔は熱く火照る顔を冷まそうと深呼吸をする。ここで流されてしまえば、なあなあで先へと事を進められてしまうに違いないからだった。


「…もう、良いでしょ」


口元を懐から出したハンカチで拭き、何とか体を持ち上げる。睨むように相手を見やれば、やはりと言うべきか二人ともいやらしい笑みを浮かべていた。彼らにとってはこれは手を出した範疇には入らず、前章の前章だとでも言いたいのだろう。
厄介な人達を焚きつけてしまった、と内心頭を抱えながら、朔は従兄の事を思い浮かべた。今、純情なあの人がとても愛しく思えて仕方ないのだ。


「ま、これで意識しただろ?俺らが本気だって」

「誰も疑いの言葉なんてかけてないじゃない…どうせやってみたかっただけなんでしょ、あなた達」

「おー、朔はよく分かってんなあ。その余裕そうな表情を崩したかったのは確かだ」


賛同の意を示しながら、冬島は人差し指を朔へと指し向ける。やはりそうかと呆れる一方、朔はその向けられた指の意味が分からずに訝しげな顔をした。
その指は顔の前から唇、首元へとゆっくりと移動し、最終的に左胸…心臓の前で止まる。そこで再び口を開いた冬島の顔はひどく真剣で、朔は思わず息を飲んだ。


「でもな、言っただろ?俺達以外の奴にやるなんてもってのほかだってな。
強引にでもこういうことやっときゃ、周りなんて目に入らなくなるだろ」

「本気も本気ってことだな。覚えとけよ、朔さん」
























本部長―忍田真史は、デスクワークで凝り固まった肩を解すように回しながら通路を歩いていた。飲み物でも買って一休みをしてから、明日の分の執務も片付けてしまおうと考えていたのだ。
設置されている自販機に小銭を入れてコーヒーのボタンを押すと、ガタンと音を立てて目当てのものが落ちてくる。それを屈んで取ろうとした時腰に強い衝撃を受けた彼は、体勢を整えられずに目の前の鉄の塊へと頭をぶつけた。


「……朔?」

「…」


こんな事をするのは一人しかいないと分かっていた忍田は、振り返らずに腰に腕を回す人物へと声をかける。しかし、公共の場でこういう行動を取るのも珍しかったため、その声は疑問を含んだものとなった。


「どうしたんだ、何かあったのか」


幸いなことに、彼らが今いる場所は滅多に人の通らない奥まった通路である。それなら構うまいと思った忍田は、抱きついてくる従妹をそのままに横のイスへと腰掛けた。短く切られた髪の毛を撫でながら再び声を掛けると、朔はがばりと顔を勢いよく上げる。


「真史さん、あの…」

「ああ」

「キス、していい?」

「…はっ?」


思わず忍田は、罰ゲームを疑って辺りを見回した。しかし、こちらをじっと見つめてくる朔の眉はハの字になって切実さを醸し出している。どうやらそういう類ではないらしいと察した彼は、出来る限り平静を保って聞き返した。


「…いつもはそんなの聞かないくせに、一体どうしたんだ?」

「ん、あの…キスっていうのは頬とかじゃなくて……口にしていいかしら?」

「な、にを言ってるんだお前は…!」


何がどうしてそうなったのか、忍田は頭を抱えたい気分になった。あれだけ言い聞かせたというのに…とある意味ショックを受けている従兄を見た朔は、慌てて訂正した。しかも、それはそれは聞き捨てならない方向へと。


「何て言うのかしら、えっと…あ、そう!消毒!!消毒してほしいの!!そうじゃないと思い出しちゃうの」


よ、と彼女が言い切る前に、忍田は未だ張り付いていたその体を肩を掴んで強く揺さぶった。


「消毒…?どういうことだ、朔……!!」


全部話せ、とその瞳が強く語っている。あまりの眼光の強さに身を竦ませた朔は、恐々と口を開く。次々と紡がれる新事実は、忍田の顔を険しいものにしていった。


「…お前が罰ゲームと称してキスをしていたのには今は目をつぶろう。だが」

「…」

「そういう風に相手を挑発するなんて何を考えているんだお前は…!!」


確かに、彼女の挑発が原因で結局は二人に襲われる(過剰表現ではない)羽目になったのだ。ぐうの音も出ない朔は、しょんぼりとうなだれて反省した。

そんな従妹を見つめながらため息をついた忍田は、怒りと同時にわき上がった想いを今更ながらに自覚していた。
正直、キスで挨拶をするなと言い聞かせていたのは自分のために他ならない。他の者に触れて欲しくない、という深層心理が現れ出た故だったのだ。年の差もあった為、兆候はあっても気付かなかったのだろう。

しかし、今回の件ばかりは見過ごす訳にはいかない。やはり、彼女だけは譲りたくないのだ。
意図せずして朔は二人のみならずもう一人にも火をつけてしまう結果となったのだが、この時彼女は全くもって気付かなかった。



―更に説教される、とびくびくしながら縮こまっている彼女は、知らないだろう。



この後、忍田に二人に負けるとも劣らないくらい深く長いキスをされることも、

その流れのまま告白をされることも、

結局は三人から激しいアプローチをされることも。



















蜘蛛の罠に絡まる胡蝶










* * * * * * * * *


ワートリの企画最終の第九弾でした!皆さんリクエストありがとうございました〜!!
今回は詳細リクエストが無かったので、勝手に短編の忍田さん従妹と冬島隊の続きを書かせていただきました。

ど、どなたかがひっそりとあだるてぃ需要あるって言ったから…(震え声)

すいません、嫌だなって思ったら言ってくださいね!むしろもっとやれって方はひっそり教えてくださいね!!居ないだろうけどな!!!!!



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