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二次創作/夢
とある彼女の騙し愛。2(笠松/夢)
「はーいあと一本!ラスト気張ってこー!」

『おーっ!』

タイマーを見ながら部員に声をかける。タオルやスポーツドリンクの準備、練習の準備、時間管理等々、海常高校のバスケ部マネージャーは今日も忙しい。

練習を終えた部員を横目に、スコアをボードに書き込む。すると、ボードに自分以外の影がかかった。

「よっ、岸川。やっぱりお前仕事速いな。助かるよ」

「森山…無駄な口たたいてる暇あったらもう一本どうだ?」

いやいや、それはマジ勘弁してください岸川様!
焦ったような表情で深々と頭を下げてくる森山に、思わず笑いが漏れ出る。

「冗談冗談!ほら、ドリンク」

ほい、と森山にドリンクを渡すと、素直にサンキュー、と礼が返ってきた。どう致しまして、と良いながらボードに再び目を向けようとすると、何故か森山の顔がズイッと近くに迫ってきていた。

「…う、うわっ!?近っっ!!!」

「―うー…ん…んんん、っっおしいっ!!!!!」

「はっ?」

なんだこいつは。

ジロジロ人の顔を眺めておきながら、゛おしい゛とは一体どういうことだ。
そんな気持ちが顔に出ていたのだろうか、再び森山が口を開き、こう言った。

「いや、ショートヘアにしてもその髪は短すぎるだろ?せっかく中性的な顔立ちをしてて整ってんだから、のばした方が絶対に良い!そしてその男口調どうにかならないのかっ!?」

そしたら完璧俺の好みなのにっっ!!!

悲壮感漂う表情で何を言い出すかと思えば…失礼にもほどがある奴である。

「またその話?お前も懲りないな、森山…自分はこの髪型も口調も気に入ってる。問題ないじゃないか」

「そうは言っても女子だろ!?なんかオシャレとかさあ…」

あーあーうるさいうるさい。

そう言って、書き終えたボードを提出するため、監督の元へ向かう。
まったく、いつも同じ事ばかり…何か他のことは言えないものか。
年中女の子のこととバスケのことしか頭にないあの男が、「残念なイケメン=残メン」と呼ばれるのも頷けるものである。

「監督、スコアボードです」

「ああ岸川、すまんな。後は戸締まりとかを頼む」

「はい、わかりました。」

武内監督なボードを渡し終えたら、残る仕事は―…

「あ、岸川。悪い、今日も居残るわ」

――…海常の主将、笠松幸男に付き合うことだけである。
「おー、了解!じゃあ違うタオルとか用意する」

「ん、頼む」

所詮、二人は幼なじみといった関係であって、多くの言葉を交わさなくても大体は相手の言いたいことがわかる。
今日も相変わらず交わす言葉が少ない二人を横目で見ながら、森山はシュートを打った。

(゛海常の主将が唯一話せる女子゛ねえ…。)

女子への極度の苦手意識により、笠松が話すことの出来る女子や女性は極僅かだ。
彼だって告白は受けるし、自ら女子に話し掛けなければならない時だってある。しかし、そのたびに顔を真っ赤にして口ごもってしまうため、会話が成立しないのだ。
そんな中、ただ一人。学校内で話せるのが、昔から共に居るという―彼女、岸川朔なのである。
笠松は(ムカつくことに)モテる男なので、気になる男がよく話す女子だと捉えられるのが、彼女でもあった。

―ただ、男らしい口調に、ベリーショートと言っても差し支えない程短く切られた髪型。
そんな言動も見た目も女らしさの欠片もない彼女を、ライバル視することはあまりないらしい。周囲の女子は、「男子っぽいから笠松くんと話せるのよ」と、歯牙にもかけていないようだった。

それでもやはり、二人には幼少から共に育ったという長い過去がある。極々まれに、色々と勘違いをした奴が現れるのだ。

(今のところ、その心配は無いみたいだけど―…要注意だな)

二人のことが気になって仕方がない森山は、結局はどうしても二人が好きで好きでたまらなかったのである。










ふと、帰り道で笠松が口を開いた。

「あ、そういえば…」

「ん?何?」

「またお前の家、誰もいないのかよ」

彼の言うとおり、我が家には私が居るとき以外、あまり明かりは点かない。親が共働きな上、夜勤にも出ているからだ。

「あー…まあ」

「飯どうすんだ、食ってくか?」

「いや、カレーかなんかあったと思うからそれでも食ってるよ」

「そうか。」

…じゃ、明日も頼むぞマネージャー

―任せろキャプテン!

互いに軽く手を挙げ、隣同士の家に入る。相手の扉を閉める音を聞いた後、彼女―岸川は軽くため息をついた。

「疲れた…」

荷物を床におろしていると、携帯が光っているのに気がつき、表示を見てみる。

「森山…?」

なんだ、と思って本文を開いてみると、たった一行の簡潔なメールが目に飛び込んできた。

゛その口調止めてみたらどうだ?゛

「…」

パタン、と携帯を折りたたみ、ソファーに全体重を預けて横たわる。

「―好きで、あんな口調はしてないわよ…」

少し低めのアルトボイスに見合った口調が、朔の口から流れ出る。しかし、彼女のその短すぎる髪型には、その口調は似合わなかった。

「ご飯いいや…寝よう」

ノロノロと体を持ち上げ、二階の自室へと階段を上っていく。
静かな家の中には、彼女が出す音しか反響しなかった。

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