二次創作/夢 溺惑の成れの果て(特別隊員番外編・If/三輪と付き合う/サイ様) にやにや。 にこにこ。 …くすり。 様々な笑いに囲まれて、思わず三輪は机を叩いた。場を包む生ぬるい空気と話題を変えたかったのである。 「…言いたいことがあるなら言え」 「いやあ〜! 遂になあ〜秀次がなあ〜〜」 「その間延びした話し方をやめろ…!!」 「いや、でもあの高倍率の人を見事射止めたんですから!」 「そうだな。三輪、良かったじゃないか」 自隊の隊員たちは依然として笑顔のまま、そう続けた。米屋はいつもの如くであるが、古寺はともかく奈良坂はその雰囲気に合わない弾けんばかりの笑顔である。それがどこか空恐ろしく感じて、三輪は顔を背けた。 「…別に其処まで騒ぐ事じゃない」 「何言ってんだよ秀次、大変だったんだぜ!?周りの人達抑えんの」 「ああ…風間さんどころか本部長と沢村さんまで出て来るとなると… 凄かったですね…」 「セコムはともかく、太刀川さんとか荒船さんも騒いでたりそもそも接触させないようにしようと画策してたり、な」 思い返してみればきりがない。 それくらいの障害を乗り越えて我らが隊長は意中の人を手に入れたのだから、体を張って協力した彼等が満面の笑みを浮かべるのも仕方がないことであった。 それを三輪自身もよく理解していたので、しみじみと語る彼等を前にして気まずそうな顔をする。 「…礼を言う」 「えー?俺達に礼を言ってる暇があったらさ」 「可愛い彼女に会いに行ったらどうだ」 絞り出すような声で感謝を伝えると、変わらず笑顔の米屋と奈良坂がそう言った。まるで、訓練の後に彼女と会う約束を見透かしているかのような言い草である。 ひとつ溜め息をついて立ち上がった三輪は、荷物をまとめて出入り口へと向かった。 「男見せろよ秀次!」 「報告待ってるぞ」 「頑張ってくださいね!」 隊室を出る際に背中に浴びせられた野次には反応を示さない。うっかり返してしまえば、あれもこれもと追求されるからであった。 ―心臓が激しく動きすぎて最早心停止を引き起こしそうだ。 朔は右手に感じる温もりをやんわりと握りながら、そう思った。 三輪と彼女が交際を初めてから一週間が経とうとしていたある日、二人は肩を並べて帰路を辿っていた。付き合ってしまえばあれよあれよと事を進めてしまうカップルも多い中、交際状況は「清い」の一言で済んでしまうのがこの二人だった。 この時になっても手すら繋いだことの無かった彼等は、朔の家付近まで来て、やっと互いに勇気を出したのである。 「み、三輪」「岸川さん」 同時に口を開いた二人は顔を見合わせ、先を促すように互いを見つめた。暫く気まずいながらも甘い雰囲気になった後、ようやく三輪が二の句を告ぐ。その表情には、どこか高校生らしい照れが潜んでいた。 「…手を、繋いでも」 「…ああ」 ゆっくりと朔の右手と三輪の左手が重なり、指が絡まる。 俗に言う恋人繋ぎというやつであったが、二人はそれを意図してはいなかった。故に内心でガチガチに固まってしまった初々しいカップルは、手を凝視したまま動かない―否、動けなかった。 「っか、帰ろう、三輪」 「…」 「三輪?」 やっとこさ絞り出した声は、どうやら恋人に届いていないようである。不思議に思った朔は、その横顔を覗き込んだ。と、その瞬間繋いだ手を強く引かれる。当然のようによろめいた体は、三輪に受け止められて事なきを得た。驚きで状況が把握できていない朔だったが、すぐに我に返ると顔に熱を昇らせた。 (ち…近い…っ!) 未だに右手は彼に捕らえられたまま、しかもいつの間にやら背中にあいている方の腕が回されているではないか。その時、彼女は彼氏に間違いなく抱き締められていたのだった。 三輪が顔を髪の毛にうずめるせいで、後頭部からうなじにかけて温かな吐息が朔にかかる。そのなんとも言えない感覚に背中が粟立ち、彼女はさらに頬を赤くした。 「三輪っ、人通りが少ないとは言え…外なんだぞ…?」 「…すみません でも、抱きしめたくなった。岸川さんは…嫌ですか」 「〜〜っ ……い、やではないが…!」 すると、今度は両の腕でしっかりと抱きしめられる。自分も彼の首に顔をうずめる形となった朔は、羞恥に堪えきれなくなって目を閉じた。恐る恐る手を伸ばして、意外としっかりしている背中に回す。申し訳程度にその学ランの生地を掴めば、彼女を包む腕の力が多少強くなった。 ―恥ずかしい。恥ずかしいけれど、温かい。幸せだなあ。 風が体温を奪っていく中、二人で温もりを共有する幸せが、確かにそこにあった。その事がかけがえのないものに思えて、朔は笑みをこぼす。 「…好きだよ、しゅーじ」 「っ!」 「えっちょ、! 待って!ちょっと待とう!」 小さな小さな告白は、彼女の口から無意識に出たものであった。それをしっかりと拾った三輪は、抱きしめることで充足していたはずの欲が一気に跳ね上がったのを感じる。我慢できずに勢い良く体を離して顔を近づけた彼は、白い手によってその先を阻まれたのだった。 …人を煽っておいてお預けか。 恨みがましい目線でそう訴えかける三輪を見た朔は、真っ赤に熟れた果実のような頬のまま目をさまよわせる。それでも猶見つめてくる恋人に観念して、口ごもりながらこう言った。 「し、知っての通り私は一人暮らしな訳だが…その、 家でなら好きなだけすればいい。外は、嫌だ」 その後の三輪の行動は、下手をするとトリオン体の時よりも迅速だったかもしれない…と、彼女は後に沢村に語ることとなる。 溺惑の成れの果て * * * * * * * * * リクエスト企画第三弾でしたー! サイ様、リクエストありがとうございました! いやあ…私もついこの間まで高校生だったとか…笑える……ははっ 在学中にこんな恋してみたかったですねー。でも部活のメンバーと過ごすのがすごく楽しかったんで、結局は無理だったと思います。ズッ友。 なんか恋人出来ないまま突然結婚とかなりそう。容易に想像出来ちゃうとかな…それな…? こんな初々し過ぎるカップルでしたが、実際こんな奴ら居るんですかね。 私は地面しか見てなくてすごい早足だったとき、先輩カップル(手を繋いでる)のド真ん中を通過したことがあります。む…無意識だよ!! この話を部活メンバーにしたら、「マンガを体現する女…それが○○(←名字)なのね」と感心されたり笑われたりしました。解せない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |