二次創作/夢
おまえのせいで放課後が憂鬱
「…じゃあ、今回の体調不良は久々に体を使った反動ってこと?」
「そうみたい。日常的に体を動かしてたら問題ないんだけど…久々だったから」
一息ついて膝を抱えると、人使くんが紅茶の入ったマグカップを渡してくる。
おお有り難い…んだけどこの一週間で人使くんなんか通い妻化してないか?気のせいか?
湯気の立つそれを息を吹きかけて冷まし、少しずつ口に含む。熱すぎると火傷するのだから仕方ないが、冷まさないといけないせいで猫舌ではない人よりカップを空にするのが遅くなるのは少々もどかしい。現に、人使くんは何食わぬ顔で紅茶を半分以上飲んでいる。はやくね?
内心文句を垂れながら頑張って飲み下していると、横に腰掛けていた彼が不意にぐるりと部屋を見渡した。
「部屋を見る限りは二人分の家具とかそろってるみたいだけど…」
「ああ、お父さんのこと?」
言わんとしていることを理解してそう聞き返すと、神妙そうな顔をして心繰は頷く。その様子におかしさを感じながら、朔は口を開いた。
「この一週間会わないから不思議に思ったんでしょ?そんな気にしなくても、お父さん警察官だから飛び回ってるだけだよ」
「…警察官?」
「驚いた?」
目を丸くして復唱する心繰を見て、朔は思わず笑いを零した。確かに、今までの話ではそんなことは一切触れていないため、驚くのも無理はない。
「暫くは休職してたんだけどね。私が外に出るようになってから、また復職したの」
―朔、寂しい思いをさせるかもしれない
―お父さんまた警察官やるの?
―今度は、お母さんや朔みたいに狙われちゃう人たちを助ける部署に志願したんだ
―ふぅん。忙しいんだね
―ああ、忙しいなあ。全国を飛び回らなきゃいけないんだ。年に数回しか帰ってこれない。でも、朔に勇気をもらったんだ。私も、自分に出来ることをやりたい
―…私、一人じゃないから大丈夫だよ。師匠たちだって居るし、学校で友達もできたよ
―そうか?なら、安心だなあ
―お父さんは寂しくない?
―寂しくないって言ったら嘘になるけど、私も大丈夫だよ。気持ちはいつだって朔と一緒にあるからね
「―立派な、お父さんだよ」
「…そっか」
満足げに目を細めて笑う友人に、彼もまた口元を緩めた。
離れていても、年に数えるくらいしか会えなくても、確かに二人は繋がっている。いろんな家族の形があるんだな、と心繰は思う。いつもは思わないのに、何となく家族に会いたくなった。
「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」
「ん、分かった」
空になったマグカップを流し台に持って行って洗おうとする心繰を無理やり玄関へと向かわせ、靴を履かせる。
「お客様に洗わせるわけにはいきませーん」
「そのお客様が紅茶煎れたんだけどね」
外まで出て見送ろうとすると、ここでいいよ、と言われる。文句言いたげな顔を隠さないで見上げると、呆れたような視線が返ってきた。
「君部屋着のままだろ。
来たときも言ったけど、あんまり無防備なのはやめた方がいいよ」
そういえばそうだと思い至るが、最後の言葉は只のお小言に聞こえて耳が痛い。一週間似たようなことを言われ続ければ、耳に蛸ができるという言葉も納得できるものである。
「はいはい、じゃあまた明日ね」
「……まあいいや。うん、また明日」
明らかに自分の忠告を受け入れる気のない朔に少し眉をひそめたが、心繰は玄関の扉を開けて外へ踏み出す。
明日どうせ学校に来るんだから、そこでまた色々と言ってやろう。
そう思いながら、彼は帰路を辿っていった。
「おはよう朔、実に一週間と1日ぶりだな」
「…オハヨウ」
なんで下駄箱の前でスタンバイしてるんだお前は。めっちゃ怖いぞ轟…なんなの……しかも会ってない日数数えてんのかよ。
「今日は逃げないで話してもらうぞ」
「別にこの一週間逃げるために休んでた訳じゃないし…」
しっかりと腕を掴まれていては逃げられるはずもない。放してもらわなければ教室に向かうこともできないので、自分の腕を掴んでいる轟の手をよけて、ため息をついた。
「…昼に説明しにいくから。クラス全員に全部の話はしないから、詳しく聞きたいなら放課後に時間ちょうだい」
「…分かった」
いつもよりあっさりと離れた轟に安心して、背中にかけられた言葉には反応せずクラスへと向かう。
「―全部、隅から隅まで話してもらうからな。後悔するんじゃないぞ」
もうすでに後悔している場合はどうすればいいのか…放課後に質問責めになることを予想した朔は、苦い笑みをうかべた。
おまえのせいで放課後が憂鬱
(おはよ、朔)(あ、人使くんおはよう)(なんか疲れてない?)(やっぱり分かる…?)(だてに一週間世話してないよ)
((いつの間にか名前呼びに…!?))
* * * * * * *
新幹線内で書いた作品第一弾。新幹線でたっぷり盗電(充電)してきたよ!!(良い笑顔)
次はおそらく怒涛の轟ターン(多分)
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