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二次創作/夢
君はドーナツホール











絵馬ユズルは、肩を怒らせて本部の通路を歩いていた。

(絶対におかしい、なのに何で…!)

師匠である鳩原が隊務規定違反でボーダーから姿を消し、同時に二宮隊も連帯責任でB級に降格したのだ。ユズルからしてみれば、二宮隊などどうでもいい。今気にすべきは鳩原のことだ。
しかし誰に聞いても詳細を知らず、二宮隊の面々も口を閉ざしている。鳩原が何の理由もなく違反などするものかと周囲に訴えた所で、口さがない人たちは何処にでもいるものだった。根付の名前で発表された今回の件は、ボーダー隊員の広く知る所となっている。詳細は重要機密として秘匿されているらしく、それがより人々の想像を掻き立てた。

やれあの狙撃手(スナイパー)はいつかやると思っていただの、あんなのを隊に入れていた二宮に見る目が無いだの、好き勝手の言いたい放題。
ユズルはそういう声を拾う度に気持ちがザワついて、むしゃくしゃして、どうしようもなく叫びたくなった。けれど、自分にはどうすることもできない。鳩原がいなくなったのは事実であり、その詳細を知るための力も無い。出来ることと言えば、根付に繋いでもらうようお願いをしに何度もメディア対策室へ足を運ぶくらいだった。それも全て断られている。


「ユズル」

「!カゲさん…」

「ちょっと来い」


隊室で項垂れていたユズルに声を掛けたのは、隊長の影浦だった。どこへ連れて行かれるのか分からないまま、その背中を追う。辿り着いたのは、防衛任務で使われる仮眠室だった。中の人物から入室許可が出ていたのか、影浦はさっさと中へ入っていく。慌てて後を追ってユズルも入室すると、そこには寝台に腰掛けた絲がいた。


「志島先輩…!」

「や、ユズル」

「い、今まで何処にいたの!?探したのに、大変なんだ、鳩原先輩が」

「ユズル」


ユズルは、この数日ずっと姿を探していた絲に縋り付く。絲は鳩原と最も仲が良く、鳩原を師匠として以降は二人に可愛がられてきた。鳩原に何かあれば絲が黙っているはずがないと、ユズルは必死に駆けずり回ったというのに。
影浦の呼び掛けに口を止めて、ユズルは隊長を仰ぎ見た。その表情はいつも通りのようでいて、どこか固い。


「志島なら全部知ってる」

「え、」

「コイツ学校来てなかったんだよ。大方取り調べでも受けてたんだろ」

「じゃ、じゃあ!鳩原先輩が何で居なくなったのか知ってる!?俺、誰に聞いても、」

「ごめん」


は、と息が止まる。絲はユズルの頭を撫でて、静かに目を閉じた。箝口令が敷かれてるんだという言葉を耳にして、ユズルは顔をぐしゃりと歪める。


「なん…っ何だよ、それ…!鳩原先輩は完全に見捨てられたってこと!?何なんだよ!ねえ!!」


ドン、とユズルは握った拳を絲の肩に打ち付けた。二度、三度と繰り返し、もう一度と振りかぶった所で影浦がその拳を受け止める。


「もういいだろ」

「…っ、くそ……」

「…ユズル。私が君に教えられることはほんの少しだけど、知りたい?」


ぐしゃぐしゃにかき混ぜられた髪の隙間から、わずかに潤んだ瞳が覗いた。それを見つめて絲は問い掛ける。ズ、と鼻を啜ったユズルはゆっくりと首を縦に振った。
それを見た絲はスマホを取り出し、メモ帳アプリを起動する。誰も言葉を発さない。絲がフリック入力をする様を、ユズルも、影浦も、ただ見つめるだけだった。

〈私が教えられることは二つ〉

〈鳩原が隊務規定に違反したのは5月1日の夜、そこから私は共犯の疑い有りとして暫く本部に留め置かれてた。これが一つ〉

そこでユズルは、やっと絲の状態に気が付いた。換装していない絲の目元にはうっすらと隈があり、いつも綺麗に纏められている髪も毛先が絡まっている所がある。時間帯に関係なく、何度も呼び出されては話をしていたのだろうか。今自由に人と会えているのは疑いが晴れたからなのだろうが、未だ仮眠室にいるそれなら理由も納得がいく。

〈もう一つは、今回の箝口令について〉

〈司令は“許可無しに今回の件を広めるなら重い処分を下す”と言ってた〉

絲が続けて打った文字を追って、影浦とユズルは同時に目を見開いた。つまり、許可さえあれば詳細を知るチャンスはあるということだ。それがとんでもなく高い壁であることは確かだが、今まで上層部と相対していた絲が言うのであれば確実な話だ。
ユズルはいてもたってもいられなくなり、ありがとう先輩!と叫んで慌ただしく仮眠室を飛び出していく。そんな部下を呆れた顔で見送り、影浦はボリボリと頭を掻いた。その隣で、絲は画面の文字を一括削除している。本当なら少しも漏らしてはいけない情報なのだ。念には念を押す必要がある。

ドカッと寝台を揺らして腰掛けた影浦は、何故か絲の上半身を自分の体で押してくる。あまりにもグイグイ押されるので、絲は抵抗する間もなく影浦を上に乗せたまま倒れ込んだ。


「グァ…細そうなのに意外と重たいんだが…」

「るせェ、寝ろ」

「いや寝てほしいなら潰すなマジでグエエ」

「ハッ貧弱」

「腹立つぅ!重てえ!!」


眼下のトゲ頭には、相変わらず数値が埋もれている。いや、これは刺さっていると言った方が良いんだろうか?いつも激しめの主張をしてくる数字だが、今日の所は動きが控えめだ。
押し退けようとするのも疲れるので、腕をぱたりと落とす。影浦は未だ動こうという意思が無いようで、ひたすら絲の胸骨を圧迫していた。お前一応そこ胸やぞ。痛え。


「…あの調子だと突撃かましそうだから、ついてってあげてよ」

「言われなくてもそうすらあ」

「そりゃ何よりだ。はよ行け」

「…チッ」


おい舌打ちした?舌打ちしたよな?と詰め寄ると、影浦はそれをスルーして立ち上がる。次来る時その隈消してねえとまた潰す、と言い残して去っていったが、普通にそんなのは御免である。大人しく寝ることにしよう…と目を閉じた所で、歌川の見事な寝かし付けの手腕を思い出した。色々と酷いので影浦は寝かし付け選手権ワーストに違いない。そんなことを考えて、ちょっと笑いながら眠りに落ちた。

―目が覚めたら影浦隊はB級に降格していた。


「そんなひどい即オチ二コマある!!!!!!?!!?」


そーだよなあ!?と同意する仁礼を前に、絲は冗談抜きで顎が外れるかと思った。だってお前、たったの数時間じゃん。何やらかしたの。しかも聞く所によると、ユズルではなく影浦が原因というではないか。当の本人はしれっとした顔であ?とメンチを切ってくるが、お前の話をしてるんだよ。おい。そこで小さくなってるユズルを見ろっての。スッキリした顔やめろ。頭の上の数字もご機嫌に踊るな。


「あー、個人ポイント無くなったわ」

「え?まだ何かあるの?」

「あはは、カゲってば8000ポイント剥奪だって」

「アホの極みなんかマスタークラス陥落どころの話じゃないんだけど?????というか、ゾエといい仁礼といい動じなさすぎ」

「いやー、なあ?」

「まあねえ」

「「いつかやると思ってた」」

「何なんだ…なん…ほんとに……」


こちらも一応箝口令が敷かれたらしいが、同時期に二つの隊が降格処分を下されるなんて異常事態だ。仮眠室から出てみれば、その話題で周りは持ち切りである。何事かと影浦隊の隊室に飛び込んだ所、皆勢ぞろいで布団のないコタツ机を囲んでいるではないか。緊張感の欠片もなかった。今はもう諦めて影浦の横に体をねじ込み、一緒にハッピーな粉をまぶした例のヤツをボリボリ食べている所だ。粉うめえ。シャブってなきゃやってらんねえわ。


「で、何がどうしてそうなったの?」

「…俺のせいだ。考えなしに突っ込んでったから」

「ちげえわ、俺がただ単にあのクソ狐にムカついて殴っただけだ」

「ユズルを見てくれって意味で送り出したのにお前が暴れてどうすんだ馬鹿!!」

「あーうるせーうるせー」

「ハァ…つまり根付さんにユズルが特攻かけて、根付さんに何かしら言われて、それに何故かカゲが腹を立ててぶん殴ったってこと?」

「多分そうだと思うよ。キレてる時のカゲ、すごい良い拳なんだよねえ」

「ったくよー、もっと上手くやれよなー!」

「蛮族しかいねえ……怖……………」


隊長が隊長なら隊員も隊員なのか。仁礼の頭の上には仁王立ちする2万1000の数値が存在感を放っているし、北添の肩にはふくよかだけど筋肉質な5万9000の数値がゆらゆら揺れている。未だ染まり切っていないのはユズルしかいないのでは?絲は一人しっかりと反省するユズルの頭を撫で、お前はこうなってくれるな…と念じた。
ユズルの肩にいる5万7000の数値は表情と同じようにどこかしょんぼりとしている。いつもならある一定の所でやめてよ、と手から逃れようとするのだが、それすら無いようだ。うーん、重症。


「で、テメェの処分はどうなんだよ」

「え、突然の飛び火」

「お?なんだなんだー、絲も何かやらかしたって?カゲのこと言えないじゃん」

「人聞きが悪い!!ちょっとコントロールモニターを無断で弄っただけだし!!」


自分から話を逸らそうとしたのか、それとも絲だけ何も言わないのは無しだと言いたいのか。影浦は、絲があえて言わずにいたことに突っ込んできた。仁礼は絲のことを時々やらかす者だと思っていて、それを心待ちにしている所がある。今回も隊長の言葉に目を輝かせてウリウリーと弄ってきた。思わず反論すると、俯いていたユズルとハッピーなおやつを貪っていた北添の驚いた瞳が勢いよく絲へと向く。ソ…と目を逸らすが、影浦が逃してくれなかった。両肩を押さえ付けられて尻がミ゛チミ゛チ地面に食い込んでいる。容赦してくれケツが千々に割れてしまう。


「え、先輩そんなことしてたの」

「意外だねえ」

「ウ゜ッその目は私に効く」


この場に水上がいたら「お前ほんまイコさんに似てきたな…」と言われそうな反応をして、絲はがっくり項垂れた。机に頬を付けていると、仁礼を筆頭に皆でつむじをぎゅむぎゅむ押してくる。ウオオやめろォと片手を彷徨わせていると、まだ己より小さめの手が触れた。ユズルなら許すか…。
ちらと影浦を見ると、頬杖をついたままこっちを見ている。フンと鼻で笑いながら頬を潰され、はいはいと受け入れた。全く、ユズルの気を晴らすにしてももうちょっとなんかあるだろ。


「で、その無断使用の罰はなんだったの?」

「ゾエに聞かれたら答えざるを得ない…」

「んだよ、俺でも教えろや」

「ウ゛エエ押すな頬抉れるァ」

「で?」

「……開発室の出入り二ヶ月禁止……………」

「あっ絲萎れた」


我ながらシワッッシワの顔をしている自覚がある。周知される類の罰ではないが、絲にとっては効果覿面の処分だった。本当なら同期間研究用トリガーの貸出禁止というのもあるのだが、流石にこれを言っては鋭い人には鳩原のことがバレてしまう。確かに何の罰も無いのは示しがつかないというのはあるだろうが、絲は影浦隊の隊室なのを良いことに駄々をこねた。


「ヤダーーー!!!まだ鉛弾(レッドバレット)の全データ取り終えてないのに!!!!」

「そこなの?」

「ズレてるんだよ、コイツは。罰を受けること自体何とも思っちゃいねえ」

「反省してねーじゃん。ウケるな!」

「エン…エン……」

「先輩泣いてる?」

「ナイテナイ……」


引かないで受け入れてくれるの超愛した。そしてユズル優しい。ためらいがちに頭に触れる手は、ゆっくりと往復して髪の毛を乱さないようにしてくれている。デキる男ポイント10000ポイント加算されたわ。これは傾国の男フラグ。
うつ伏せになって沈黙していると、段々眠くなってきた。喚いた後に眠くなるなんて、もしかすると自分は赤ちゃんだったのかもしれん。くっつきそうになる目蓋と格闘していると、脇の下に手が差し込まれてみょーんと持ち上げられた。ア゜ーご無体な。


「オイ、寝んだったら転がっとけ」

「ウイ…」

「すごい伸びてる。猫みたい」

「ユズル、今の絲なら撫で放題だぞお!レアだから撫でとけ」

「うん」


ずるずるとこたつ机から引き摺り出されて、仁礼セレクションのクッションに周りを固められると眠気がより強くなった。モフ…フカ…と手で綿の感触を確かめているといやに周りが静かな気がしたが、もう目が開きそうにない。ふわりと体を温かさが包んだ所で、絲はぐっすりと眠りに落ちた。


「…寝た?」

「寝たね」

「撮れ高バッチリだぜ!光さんのカメラワーク流石だなー、ふふん」

「あのクソ犬にだけは流すなよ。俺にデータ寄越せ」

「あ、ゾエさんも」

「……俺も欲しい」

「よーしよし、野郎どもそこに並べ」


厚切り食パンクッションに身を預け、目玉焼きブランケットを羽織って眠る絲の姿からはマイナスイオン効果を感じる。少なくともそう信じている影浦隊の面々のスマホ内には、気を抜いた絲の激レアショット用フォルダがある。その存在を知る者はごく少数であり、もし日の目を見ることになったら戦争が起きるのだが…今の所それはない。極稀に流出することもあるらしいが。


「とはいえ、今回はマジでアレだったね。志島ちゃんってばすごいゆるゆる」

「いつも通りだけど電池切れるのも早い」


フムと解析する北添に対し、ユズルは同意の言葉を返す。皆思う所は同じようで、仁礼もしょーがねー奴らだなーと両手で頬杖をついた。


「ま、聞かない方がいーんだろ?カゲ」

「というか喋れねえよ。放っときゃなおるわ」

「いつもどーりやってけばOKなんでしょ。ならそれでいいじゃん」

「B級なったけどな!」

「うるせ」

「…」


隊長は理解ある隊員にフン、と返す。そんなやり取りを見ている中で、ユズルは少し軽くなった肩に気が付いた。ずっと気を張って、怒って、焦っていたからだろうか。隊の皆と騒いでいる内に、黒い感情のトゲが取れて暴れるのをやめたようだった。もちろん上層部に思う所はあるし、鳩原を貶すような物言いで己をあしらった二宮に対する怒りはある。
けれど、ずっと矢面に立っていたであろう先輩を労る時間くらいあったって良いだろう。鳩原と共に色々と手ほどきをしてくれた、大好きな先輩だ。恥ずかしくて口にはできないが、絲が辛い時に寄り添えるのならそれに越したことはなかった。

ユズルは絲の隣にしゃがみ、また頭を撫でる。いつも見上げるばかりの人が安心して目を閉じているという事実は、ひどく心が満たされた。きっとこの人は、鳩原といた自分を捨てない人だ。そういう人が居るのなら、ユズルは少しだけ穏やかでいられると思った。


まさか動画や写真を撮られまくっていたとは知らないまま、絲はすっきりした目覚めを迎える。知らぬが仏。
気晴らしに歩こうとユズルを誘うと、妙にぺかぺかした数値を携えた光や北添に見送られた。少し謎。ちなみに影浦は休日の親父みたいな恰好でテレビを見ていたため、特に見送りとかはなかった。いや良いんだけどさ…。


「お、ここにしよ」

「初めて来た。人全然いないね」

「諏訪さんセレクトの一人になりたい人のための隠れ処スポットだよ。あと5つはある」

「諏訪さんはなんでそういう場所ばっかり知ってるんだろ…」

「静かにコーヒー飲んだりタバコ吸ったりして虚空見つめてると、いい感じに頭の整理ができるって言ってたよ」

「虚空」

「ボーッとできる場所ってことじゃない?」


自販機の前に立ち、ユズルの方へ振り返る。お金を入れて手招きすると、ユズルは慣れた手付きでサイダーのボタンを押した。訓練終わりに餌付けしてた甲斐があったな。このナチュラル甘えん坊は私が育てました。イェーイピースピース。
自分は甘い物の気分だったので、ミルクたっぷり!と銘打ったカフェオレを選ぶ。備え付けのソファに腰掛けると、ユズルの左隣には空間があった。いつも鳩原が座っていた所だ。


「…志島先輩はさ、納得できた?」

「組織の人間としてはね。上からの命令は従うのが基本だよ」

「そっか」

「うん」


人の気配はなく、ユズルの手にするサイダー缶からはパチパチと泡の弾ける音がする。確かに考え事をするにはもってこいの場所だった。


「鳩原のさ、」

「!」

「…鳩原の居なくなった理由。多分ユズルと私の考えは一緒だよ」


はっきりとその名前を口にすると、ユズルは弾かれたように顔を上げる。その表情から察するに、根付からその名前を不用意に口に出すなとでも言われたのだろうか。そんなのはちゃんちゃらおかしいと、絲は吐息混じりに笑った。


「語ることすら許されないなんてことは無いでしょ?そんな阿呆みたいな話、ある訳が無い」

「志島先輩…」

「確かに私達は置いていかれたよ。何も言わずにあの子は去った。…もしかしたら私達との思い出も置き去りにしていったのかもしれないね」

「…」

「でも私達の中には残ってる。あの子との思い出が今も変わらずにある。その積み重ねの上に私達はいる(・・・・・・・・・・・・・・)」

「…、忘れろって言われたんだ。関わらない方が身のためだって」


苦しげな独白に、絲は柔らかに否定の言葉を返す。


「過去を振り返ることすら許さない傲慢さなんて、到底受け入れる必要のないものだよ。あの子含めての過去全てが今の私を形作っているんだから、それはつまり私を否定することに他ならない」


我慢しなくていい。確かにあの子はここにいて、私達と同じ時間を共有したのだ。それは紛い物では無かったことを、私達が一番知っている。


「だから黙らない。語ることもやめない。思い出すこともやめない。これは私達に与えられて当然の権利だ」

「、うん」

「あの子の犯した罪とはまた別物だよ。気負う必要はないんだ」

「…」

「あの子の名を出すことを恥じるな。胸を張ればいい…何も悪いことはしていないんだからね」

「、…っ、うん……!」


鳩原が汚点(・・)だなんて思おうとしなくていいのだ。そう告げた絲は、俯き涙を流すユズルの手から缶を抜き取って己のカフェオレと共に横に置いた。肩を抱き寄せて、背中を撫でる。静かな慟哭を聞きながら、服が握り締められてくちゃくちゃになるのも構わず目を閉じる。

―あーあ、馬鹿な奴だよほんとに。帰ってきたらどうしてやろう。

課題を期日内に提出できなかったのは初めてだし、パウンドケーキは未だ二宮隊の冷蔵庫に眠っている。思い返すだに、綿密なスケジュール管理がされていたのだろう。自分が気が付けたのは、わざと鳩原が痕跡を残していったからだ。
上手く逸らされた「また明日」、雫を垂らす蛇口、不自然なほど綺麗にされた隊室。そんなほんの少しの違和感。


「馬鹿だねえ」


お前が居なくなって泣くのは一人じゃないっていうのに。











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