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二次創作/夢
雄弁も時に疵











「ね、生駒さんは志島ちゃんのことどう思ってるんです?」

「ん?なんや犬飼、お前志島ちゃんのこと狙っとるんか?俺は許さへんで」

「どういう立場から物申してんだテメェはよ」

「俺の目が黒い内は物理的にバリケードになったる」

「それはさぞ鬱陶しいだろうなァ…」

「あはは」


ところ変わって弓場隊with犬飼テーブルでは、隣の状況を把握した犬飼による生駒への探りが始まっていた。しかしあっちこっちと話を右往左往させることに定評がある生駒は、見当違いな方へ思い至ったのかビシィッ!と箸を犬飼に向ける。その隣の弓場は呆れた顔でその箸を手ごと下げさせる一方で、向かいで笑う隠岐はむしゃむしゃと生駒が育てたネギ塩カルビを貪っていた。一筋縄じゃいかないな…と内心苦笑し、犬飼は尚も言葉を続ける。


「いやいや、そういうんじゃないですよ。俺もあの模擬戦観てたんですけど、志島ちゃんと生駒さん息ぴったりだったじゃないですか!どういう関係なのかなーと」

「え?俺ら息ぴったりやった?ほんま?超嬉しいわぁ弓場ちゃん聞いた?なあ聞いた?息ぴったりってことはハートキャッチもできてまうで」

「うるせえなお前は肉でもキャッチしてろォ!
…犬飼は知らねえのか。生駒と志島は師弟関係だろォが」

「弓場ちゃん冷たい…」

「ほらイコさん、肉ですよ肉。ミートキャッチしてください」

「これ炭やんか。俺の育ててたカルビは?どこ?」


生駒はキャッキャと喜びながら友人に詰め寄ったが、弓場は片手で迫りくる真顔を掴んで押し退けた。扱いが雑だが、彼らからすればいつも通りの光景だ。肝心の問いには弓場が是を返したので、犬飼はやっぱりなという顔をする。一捻り効かせてあったとはいえ、弧月の構え方も旋空の放ち方も生駒そっくりだったのだ。あれで生駒に教わっていないと言う方が無理がある。じゃれ合う生駒隊二人を横目に犬飼が一人納得を深めていると、隠岐がタレを絡ませた肉を白米に乗せながらのんびりと零した。


「まあその師弟関係っていうの、イコさんは頑なに認めてないですけどねぇ」

「え、どういうこと…?」


他者からは明らかに師弟関係と見做されているのに、当の本人が認めていないとはどういうことだ。犬飼は向かいで真剣にネギ塩カルビを焼き続ける生駒に目を向けた。その視線に気が付き顔を上げた生駒は、数拍置いてスッと目を逸らす。


「…俺にまだ師匠の称号は早いんや……!!」


まだ名乗れん!!そう力強くダンッと机に拳を打ち付けた衝撃で、丸まっていたカルビが解けてネギが網の底へ落ちていった。俺のネギ!!と悲鳴が上がる。自分でやったんだろ…と弓場は冷めた眼差しを向けた。生駒の発言に目を点にした犬飼は、疑問符を浮かべたまま隣の隠岐に尋ねる。


「…つまり?」

「イコさんは“カワイイカワイイ志島ちゃんの師匠を自分みたいなのが名乗れるんか!?”ってずっと言うとるんですわ」

「俺は女のコとおったらアカン顔やろ」

「面倒臭ェ奴だな」

「弓場ちゃん突き放さんとって」


無駄にキリリとした顔でのたまうものだから、何だか気が抜けてしまった。傍から聞けばどうでもいい理由だが、本人に言わせれば大事なことなのだろう。犬飼にとっては割とどうでもいい。師匠は師匠じゃん。自ら名乗りを上げるまで師匠じゃないって何?
とはいえ、我らが隊長からするとチャンスといえばチャンスだ。なにせ絲の師匠の席は一応空いているということになるので。そう思って視線を飛ばすと、何となく話を聞いていたらしい鳩原、そして二宮と目が合う。面白いことにショックを受けて固まっていた二宮は、すっかり通常通りに回復していた。なんとも現金なことだ。分かりにくく一喜一憂している上司が面白すぎて、犬飼の腹筋はそろそろ六つどころか八つくらいに割れるかもしれない。ひとまず誤魔化しついでに肉を頬張ってみた。


「そっかーお肉美味しー」

「唐突に話雑になってません?」


何なんやろこの人、と隣の後輩から怪訝な眼差しで見られても面白いものは面白いのだ。楽しい方に転ぶならそれがいい。とはいえ、少し気になることもある。絲のセットを見る限り、メインとサブどちらにも射手(シューター)トリガーが無いことだ。二宮が気にかけるとなればてっきり射手(シューター)一択だろうと踏んでいたのだが、絲の何がそんなに琴線に触れたのだろう?絲は影浦ほどあからさまではなくとも犬飼のことをあまり近付けようとはしないので、その辺りの事情はよく知らないのだ。
まあそれはおいおい教えてもらおうと頭の隅に片付けて、犬飼は意気揚々と肉を頬張る。口の中で蕩ける脂はくどさを感じず、いくらでも食べられそうだ。隊長からのお使いも済ませたし、アシストもした。後は焼肉を楽しむだけである。となれば、涼しい顔でモリモリ網の上の肉を掻っ攫っていく後輩をいかに躱すかが目下の課題だった。自分のアシストの効果が割とすぐに表れるということを、この時の犬飼はまだ知らない。

さて。
二宮隊がアイコンタクトしていることなど露知らぬ絲はと言うと、微妙な雰囲気になったのを察知した東と会話を続けていた。食事をすればその為人(ひととなり)が分かるとはよく言ったもので、東への警戒心や恐怖は時を重ねる毎に少しずつ和らいでいる。そのおかげで奇声控えめのスムーズな会話が出来ていた。これぞ焼肉効果である。


「チームには向いてないと言っていたが…実際にやってみて何か変わったか?」

「うーん、目まぐるし過ぎて考えてる暇は無かったですね…。なんとも言えないです」


東からふと飛んできた問いに、絲は不自然にならない程度に目を逸らす。あまり突かれたくない所だったからだ。
誰も知り得ないことだが、絲は視覚的にやかましい数値の人とは真正面から対峙しないように立ち回っていた。模擬戦で言えば、嵐山がその筆頭に当たる。なにせキンキラピカピカミラーボールだ。集中力が削がれるどころの話ではない。主張が強すぎるのだ。奇襲や戦闘スタイルを活かす意味合いで生駒と場所を入れ替え(スイッチし)たものの、その判断には個人的な事情がガッツリ入り込んでいる。


「乱戦の時ほど地力や対応力が試されるものだけど、初めてにしては良く出来てたと思うけどな」

「いえ、あれはイコさんが味方だったから出来たんです。初対面の弓場さんとだとあそこまで上手く行かなかった、というのが私達の見解ですね」

「なるほどな、そこは確かに新しい隊を組む時によく議題になる話だ。“慣れている人間と組む方が躓きにくい”っていうね」

「ああ、確かに連携という点では意思疎通が図りやすい方が良いですよね」

「選択肢の一つとしては悪くない。ただ慣れている人間を入れたからって、各々の力が最大限発揮されるかというと…話は別だな」

「確かに」


自分が目を向けてこなかった隊の構成に関して聞くのは、案外楽しいものだ。それでチーム結成を決めるかと言われたらNO一択だが、戦い方に関する世界が広がったことは確かである。こういう話ができるなら今度は自分から東さんに教えを請いにいくのもありだな、とのんびり構えていると、ふと東がすっかり忘れていたという様子でこう言った。


「ああそうだ、今回の模擬戦は上層部と一部正隊員が観戦する形式だっただろ?そこに二宮と犬飼も同席していたんだ」

「ホ」


なんて?????
だから今日二宮達も呼んだんだが今更だな、と東が笑う。絲はあまりの衝撃から肉を箸から滑らせてしまった。それをあわやお陀仏という所で鳩原が素早く茶碗を差し出し回収していく。自分が食べるはずだった肉を鳩原が食べていることにも気付かず、絲は頭の上に大量の疑問符を浮かべていた。


「…??」

「その様子だと観戦形式に至るまでの経緯も知らないんだな?えーっと何から説明したものかな…まずオペレーターに武富っていう子がいるんだ」

「ハァ」

「その子が熱心にプレゼンしてきた企画が“ランク戦実況・解説システムの導入”なんだけど、これが中々興味深くてね。一度模擬戦をやって本番さながらに試してみようという話になったんだ」

「フム」


東の言っていることにカクン、カクンとロボットのようなぎこちなさでか細い返事をする友を横目に、鳩原は皿の上に残った野菜をさらえてご飯に盛る。まあ知らなかったらそういう反応だよなあと思うし、知らない所で二宮や犬飼に見られていたと思うと怖さがある。口止めされていた手前何も言えず申し訳ないと思っていたが、それはそれとして絲の動き面白いなあと友の横顔を眺めた。完全に他人事故の傍観である。


「それで実況に武富が入って、俺と二宮が解説を担当したんだ。犬飼は話を聞きつけて来てたから解説に巻き込んだんだが、中々上手かったぞ」

「ウ゛ェ…」

「!?どうした気持ち悪いか?」

「いえ何でもないです」

「それなら良いんだが…
まあ元々模擬戦をやろうと考えていた所に誰を選ぶかっていう問題があってね。ちょうど実力も見てみたかったし、志島みたいな起爆剤があると面白くなると思って」


だから志島に声を掛けたんだよ、と東は続けた。途中二宮と犬飼の名前が出て露骨に反応した絲だったが、なんとか取り繕って今の話を自分なりに噛み砕いていく。

―新システムの導入。
それに関しては前々から声高に主張している子がいると聞いていたし、今の概要だけでもボーダー全体の戦力増強という面でかなり有効性が高そうだと感じる。戦闘技術の手本の観戦、多対多の乱戦への慣れ、戦術の共有、解説や実況による分析。どれをとっても重要であり、形さえ出来上がればすぐにでも実施したいはずだ。ボーダーは特にそういう点でかなり柔軟な対応が可能である。
しかし、試験をしてみなければ導入には辿り着けない。確実に運用するには、問題点を洗い出すためのプレチーム戦を行う必要があった。ここまでは理解できる。何もおかしいところは無い。無いのだが。

行儀が悪いのを承知で肘をつき、こめかみに手を添える。頭痛持ちではない筈なのだが、なんだか頭が重いような気がしてきた。


「………その試験のメンバーに私をわざわざ組み込む必要性ありました…?起爆剤とか言ってましたけど」

「ああ、俺が志島の動きを見てみたかったのもあるんだけど」

「俺がお前を東さんに推薦した」

「エ゜ッ」


しばらく沈黙した後、恐る恐る東に尋ねると横から二宮が割って入ってくる。これには流石に驚いて、絲の喉はキュッと狭くなった。イルカみたいな鳴き声が出た。

(二宮さんに推薦される理由って何!?いや、そん…心当たり何もないが!!?)

いや本当にこの人、どうした?と困惑し、絲は何故か満足げに体を揺らす値を肩に乗せた男を呆然と見つめる。それはまたどうして…と口からぽろりと言葉を零すと、二宮はむしろお前が何を言っている?みたいな顔で真面目に返事をしてきた。


「お前が隊を組みたがらない理由は知らんが、そのまま埋もれさせるのは惜しい。そう思ったからだ」

「いやあの」

「お前にとっても悪い話ではなかっただろ」

「はい、まあそうなんですが…」

「何か不満でもあるのか?」

「いや…いやいや、あのですね!?」


もうここまでくれば、いつもの手合わせの中で二宮が絲をいたく気に入ってくれたという事実は理解できる。二宮は威圧感強めの態度で語る堅物天然マンだが、尊敬できる人だ。それは確かだし嬉しいは嬉しい。しかし大前提として、大事な部分が抜けているのだ。そこだけは言っておきたかったので、絲はひときわ大きな声を出して二宮の口を止めさせた。いつになく感情を顕にする絲に、隣のテーブル含め全員がおや珍しいと視線を向ける。


「…?なんだ」

「二宮さんが私を買ってくれてて、それで推薦したのは分かりました。そこは嬉しいです。
でも一つ言いますとですね?私、推薦のことも新システム導入のための模擬戦だったってことも何一つ知らされてないんですが(・・・・・・・・・・・・・・)!?」

「えっ」

「え…」


走る沈黙。


「マジかw二宮さんマジかwwww」

「伝達漏れってか?」

「いや、何というか普通に騙し討ちなんとちゃう…?」

「それで志島先輩あんなに動揺してはるんですねえ」


そしてその後、隣のテーブルからはどやどやと野次のような感想が飛んできた。犬飼は少し前に堪えて消え去ったはずの笑いに襲われ、目に涙を浮かべながら仰け反っている。弓場と生駒は微妙な顔をして何とも言えない雰囲気を醸し、肉を貪っていた隠岐は流石に空気を読んで箸を置いた。
つまり、絲以外のメンバーは皆上層部の視察や実況・解説があることを承知で参加していたということだ。別に知らなくても戦闘はできるが、事前に知っているのと知らないのとでは心持ちが違う。


「…俺はてっきり二宮から話を聞いているものだと…。実際どうなんだ?二宮」

「伝えていないのはわざとです」

「わざとなんですか!!?」

「これはひどい」


困惑顔の東が隣を窺うと、スンとした顔の二宮が何も悪いことはしていませんが?という態度で真相を告げた。あまりにひどいカミングアウトに絲は最早立ち上がっているし、生駒は絲の心中を察して一人口に手を当てている。そこへ、あの…と声が掛かった。声の方を見ると鳩原が控えめに挙手をしており、絲に向けて取り敢えず座りなよと促す。確かにそれもそうだと思い、絲は素直にそれに従った。


「実は私、二宮さんに口止めされてて。何一つ教えられてないとは思ってなかったけど」

「まさかの根回し済み…」

「いや二宮さんなりに理由はちゃんとあるんだよ?“衆人環視を嫌う志島のことだから、事前に模擬戦の形式について知らせると実力が発揮できない可能性がある”って」


―ま…間違ってねえ…!!
二宮が腕を組みながら肯く斜め向かいで、絲はガクリと肩を落とす。だからってそんな騙し討ちをしたままでここまで引っ張る訳があるか。鳩原曰く、二宮は絲の実力を存分に発揮してほしかったらしい。そのため注目されている事実を隠したのだそうだ。ここまで聞いて、絲は底のない脱力感に襲われた。不器用が過ぎるし、その経緯を何故自分で語らないで鳩原に語らせているのか分からないし、ネタ明かしがすごく雑。こんな所でド天然かまさないでほしかった。
とは思っても絲には二宮を責められない。自分を思ってのことだと理解できてしまったので。しかし、そこに水をさすのがこの男である。生駒はにょっきりと身を乗り出し、二宮に向かってこう言った。


「二宮さん、それはちょっとキツいんとちゃいます?思いやりに満ちた優しさが反転してアクロバティックアタック決めてしもてますよ。女のコはそれはもう丁寧に扱わな」

「テメェははっきり言い過ぎだ生駒ァ!!」


スパァンと弓場が生駒を勢いよく叩く。小気味よい音が個室内に響き渡り、余韻を残して消え去った。絲はその生駒の言葉で自分の中の好感度が爆上がりしたのを感じたし、実際生駒の肩上でそれ良くないよ…と言わんばかりに体を揺らす数値は8万4000になっている。一度に1000も上がったからか、ティリーン☆と音を立てて数字はレベルアップしました!と言わんばかりに飛び跳ねて回った。常であれば「音鳴るの!!?」とツッコミを入れていただろうが、生憎今の絲にそんな余裕はない。むしろワァカァワイイー!と和んですらいた。心の健康って大事だね。
一方の二宮は気にかけている後輩が疲弊していることに気付くことはなく、生駒の言葉に少し首を傾げて二拍ほど置いてからうんと一つ頷いた。


「そうか」

「エッ何の納得…?」

「あー…なんだ、志島。騙し討ちみたいになって悪かったな。俺もよく確認をしておくべきだった」

「いえ……これはもう善意の玉突き事故ということにしておきましょう、ほじくり返しても誰も幸せになれません」

「そ、そうか」


二宮の端的な返答に一同が困惑する中、東が二宮の分も含めて絲へ謝罪の言葉を掛けた。この件に関しては東自身巻き込まれたようなものなのに、なんとも律儀なものである。東の頭に座る20万の値はシワの寄ったマシュマロのように少し萎れていた。互いのためにも、もうここでこの話は打ち切りにしてくれと絲は静かに首を振る。試合の祝勝会のはずが、どうしてこんなにしんみりした空気になってしまったのだろうか。ひとまず絲は鳩原に二宮の手綱を握っててくれと懇願することを決めた。絶対に頷かせて見せるからな…。

各々満腹を訴えた所で、すっかりお開きの雰囲気となる。東がスマートに値段を見せないまま席を立ったので、皆それに甘えてぞろぞろと店の外へ出た。辺りはすっかり真っ暗で、長いこと店に居座っていたことが分かる。鳩原は二宮が、絲は生駒が送ってくれるそうなので素直に言葉に甘えることにした。
東に礼を言い、それぞれ帰路に着く。生駒も隠岐も本部の宿舎区画に住んでいるので、向かう先は一緒だ。そのため絲は生駒隊に挟まれる形で夜道を歩くことになった。


「しかしあれですねえ」

「ん?どうした隠岐」

「いや、そんな大した話やないですけど。志島先輩が妙に気負ってそうな感じやったのも、東さんが自分のために人集めてくれたーって思っとったからでしょ」

「うわ鋭い」

「何やそうやったん?俺全然気付かんかったわ」


てっきり生駒に話しかけているものだと思っていたら、隠岐が話題にしたのは絲のことである。しかもそれが的を射た指摘だったので、絲は素直に驚いた。生駒は生駒で、志島ちゃん真面目やもんなあと漏らしている。


「よく気付いたね」

「だって先輩、戦闘中はあんまりお喋りせえへん人やんな。今日は通信でぎょうさん話せて楽しかったですけど」

「なるほどそこでバレたか」


確かにチーム戦とはいえ多弁だったかもしれない。フリーの駒として動いていた隠岐へ話しかけるのがほとんどだったので、そこで違和感を覚えたのだろう。よく気が付くものだ。
ふと前を見ると街灯の先にコンビニの看板を見つける。そういえばルーズリーフがもう無いんだったなと思い至り、隠岐と生駒に断ってから絲はコンビニの扉をくぐった。外で待つ二人は手持ち無沙汰に夜空を眺めてみたりする。星を数えるのに早々に飽きた隠岐は、あ、そういえばと声を上げた。


「イコさん、そろそろ腹くくった方がええですよ?」

「えっ唐突に何?俺誰かに闇討ちでもされるんか?」

「いやぁ…このままだと志島先輩が二宮隊に引っ張り込まれると思うんですわ」

「志島ちゃん引っ張るて…何やそら」


生駒は隠岐の発言の意味が読み取れず、ムムッと眉間に皺を寄せる。そんな生駒に対し、隠岐は焼肉屋での二宮隊と絲の絡みを思い返した。二宮は生駒程でないにしても絲の手合わせに付き合っており、今回のような気の回し方をする位には絲を気に入っている。そして鳩原は仲の良い友人、犬飼は絲へ自ら絡みに行く同級生と行った所だろうか。辻がチームメイト以外でまともに話せるのは絲くらいなものらしいし、オペレーターの氷見は性格的に絲と気が合いそうだ。これは由々しき事態なのだと言い募れば、生駒も真剣に捉え始めた。


「確かに仲良さそうやったなあ」

「分かります?二宮さんがあそこまで露骨に気に掛けるなんて、天変地異みたいなものやないですか」

「天変地異てお前」

「なんやコソコソやってましたけど、二宮さんは完全に志島先輩の師匠の気でいますよ」

「エッそうなん!!?!?」


生駒と弓場は気付いていなかったようだが、隠岐はどこかきな臭い犬飼を注視していたからか二宮隊の動きにいち早く気が付いた。生駒が尊敬されていることにショックを受け、一方で生駒が師匠を名乗っていないと知り途端に機嫌を持ち直す。犬飼と鳩原の動きでそんな二宮の様子を把握した隠岐は、これは先手を打たないとマズイぞと思った訳である。


「せやからはよ腹くくって師弟関係認めて下さいよ。志島先輩も弟子って認めろー言うてましたやん」

「そんな…二宮さんなんて勝ち目あるんか…!?いやでも旋空は俺が教えたし……」

「これで先輩の来る頻度が減ったら、イコさんマリオに叱られるに決まっとりますよ?マリオ、先輩のことめっちゃ好きやないですか。イコさんも寂しいんとちゃいます?」

「ホンマやわ…想像するだけでめっちゃ悲しなってきた……」


ガーンと勝手にショックを受けた生駒は、うんうん唸って葛藤を始めた。男としてのプライドと戦っているのだろう。正直、隠岐は絲と最も親しくしている隊は自分たち生駒隊であると思っていた。だって用事がなければほぼ毎日生駒と手合わせするために隊室へやって来るし、その時室内にいるメンバーと親睦を深めている。今では水上の簡易将棋セットで白熱した将棋崩しトーナメントを行うくらいだ。これで仲良くないなんて言わせない。隠岐は絲の交友関係がそこまで広くないことを知っていたし、親しい人の中に己が組み込まれていることに優越感を覚えていた。
だから、この立ち位置を奪われたくないのだ。他の隊員も同様なはずなので、隊長には是非とも頑張ってもらいたい所存である。


「すみませんお待たせしましたー」

「志島ちゃん…不甲斐ない男でスマンな…!!」

「えっ何の懺悔?
とりあえずこれ嫌いじゃなければどうぞ。私からの戦勝祝いです」

「優し……うま……」

「秒で食べてる」


ガーッと開いた扉から姿を現した絲は、開口一番懺悔する生駒に困惑しながら少し高めのチョコを渡した。コンビニでも取り扱っているブランドチョコだ。
はいあげると差し出されたので、隠岐も生駒に倣って有り難く受け取る。手のひらに納まるそれを見て、何故だか感慨深い気持ちになった。絲は基本ドライな人なので、関心が無ければ何のリアクションも起こさない。そういう人に細やかな優しさを与えられると、嬉しいし優越感も抱きたくなる。

絶対に二宮隊には渡さへん。特に何か気に食わない犬飼先輩。そう決意を新たにした隠岐の頭の上では、体を大きく見せようとしているのか数字が胸を張るような体勢になっている。じゃれ合う隊長と先輩を横目に、隠岐は手に持つチョコを熱で溶かさないよう注意しながら鞄に仕舞った。
―二宮隊との決戦は案外近くに迫っている。











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