[携帯モード] [URL送信]

二次創作/夢
踊る数値大捜査線混迷中








生駒から次が最後やな、ちゃんと紹介したるわ!と名前を教えられた隠岐という後輩だが、以前から惚れたらアカンで…身を滅ぼされる…!と警告されている。なので、ここまで言われるということはイケメンなのか?とある意味警戒していた。烏丸の時のようなイケメンフラッシュは浴びたくなかったので。ところが実際に会ってみると、思ったよりも控えめだなと感じたのが正直なところだった。


「どうも、隠岐言います」

「どうも。志島です、よろしく」

「よろしゅう、志島先輩。俺のことはお好きに呼んでもろて」


確かに4万7000という数値は光を放っているが、烏丸のようにビカビカと見る者を刺すような輝きではない。どちらかというと陽だまりに近い柔らかな光で、ずっとその光を浴びていると段々暑くなってきたな…と感じるようなものだ。とはいえイケメンはイケメン。烏丸との違いはと言えば最初からイケメンッッ!!と主張している光か、こいつイケメンか…イケメン…やっぱりイケメンだな!?と遅効性の毒のような効き目の光かというだけのことである。どっちもどっちだな、と絲はふにゃんと柔らかに揺れる数字を眺めつつイケメンパワーを浴びた。イケメン言い過ぎてゲシュタルト崩壊起こしそう。


「確かにイケメンだ。モテるな」

「やっぱ志島ちゃんもそう思う?」

「そんなことありませんて、モテませんよほんまに」

「いや…謙遜する辺りがモテるな…」

「うむ」


なにせ一つ一つのパーツがずるいのだ。泣きぼくろに少し緩さを感じさせる口元、柔らかな瞳。関西人はキツいイメージを抱かれがちだが、それを払拭するようなのんびりした口調はギャップばっちりだ。これは女のハートを掴むに違いない。生駒も大きく頷いている。


「いい?隠岐、その顔で普通のこと言ってもその辺の耐性がない女は良いように捉えるから。日頃の発言と夜道の女には気を付けな」

「えっ怖…」

「何?隠岐刺されるんか?」

「イケメンとはそういうものです」

「俺イケメンやなくて良かった…!」


生駒もカッコイイけどなあと思ったが、それを口にするとものすごく詰め寄られそうだったので絲は何も言わないことを選んだ。隠岐がイコさんカッコええですよ、自信持ってくださいと言っていたのもある。


「恋する女は時として獣よりも恐ろしいんだよ…」

「志島先輩も?」

「え?」

「いや、先輩も恋したらそんな風に熱烈になるんかなーって」


ちょっと興味あるなあ、なんてのたまう男を思わずガン見してしまう。絲はイケメンの恐ろしさを垣間見た。隠岐は目線を合わせるようにスッと身をかがめ、少し首を傾けてこちらをうかがっている。サンバイザーの隙間から覗く目元はやんわり細められていて、その瞳には猫のような奔放さがチラリと見えたような気がした。コイツ…こういう言動で女を落とすタイプだな…!?と確信を抱き、もすんとそのもっさりした頭に手刀を落とす。イテ、と言いながら体を起こした隠岐だが、さしてダメージを受けたようには見えなかった。


「そういう言動だからな!!」

「ホンマやぞ隠岐ィ!!」

「ええ、今のは普通に興味あって聞いただけですやん」

「仕草が女落としに来てる!!」

「そうやぞ隠岐ィ!!この世の女皆彼女にするつもりか!!」

「二人してめっちゃ言うてくる」

「このイケメン!!」


ちょっと強めに言わないと駄目なやつだと判断した絲は、コラ!!と隠岐を咎める。合いの手を入れるように生駒も混ざり始めると、隠岐の数字が少し肩を落とすようにほにょん…と小さくなった。しょんぼりしてるように見える。隊長の言葉だけで効果てきめんでは?とちょっと吹き出しかけたが何とかこらえ、絲は興奮気味にイケメンイケメンと隠岐を罵る(褒める)生駒をどうどうとなだめた。フンフンと鼻息荒い暴れ牛・生駒は、絲に肩を押さえられてスンッ…と一気に大人しくなる。数値がキャッとじんわり赤くなっていたので、ああ照れてるんだなと理解した。下手な女子より純情だなこの人。

まあ正直な話、隠岐に今のと同じことをランク戦ブース付近ででもやられたら社会的に殺される予感しかしない。陰口後ろ指嫌がらせとボロクソだった数ヶ月前を思えば、絶対に避けたい未来だった。イケメンの影響力は怖いのだ。適度な距離を保たねばと内心頷いた絲は、高校一緒らしいけど学校でも本部でも不用意に会わんようにしとこ!!と今後の付き合い方を決めた。


「ほんと…な?よく考えて行動しな?気があると勘違いした女の暴走モードはやばいぞ?な?」

「なんか真に迫る言い方ですねえ」

「実際やられた経験があるから言うとんのやぞ、先輩の言うことは心に留めておかんかい」

「…大丈夫だったんです?」

「良い子!!大丈夫だよ!!」

「ホンマです?」

「ほんまほんま。でも嫌な思いはするからそういう言動は好きな人とか親しい人だけにしとこうね!!」


詰め寄る絲を面白い人やなあという雰囲気で見ていた隠岐だったが、ポロリと悲しき過去を漏らすと心配そうな顔で気遣う言葉をかけてくる。すげえ良い子!100点!と遠ざけようとした己を申し訳なく思いつつ、これで勘違い女が減ればな…とも思った。何もないのが一番。


「ちなみにどんなことされたんです?」

「え?まあ陰口でアイツ調子乗ってるだとか遊んでるだとか、はたまた呼び出されて誰それに近付くなーとかそんなもんだよ。
多分ここに色恋が混じるともっと面倒だから、先輩からの忠告は覚えておいて損はないと思う」

「ウワ…そんなんチビってまうやんか…俺イケメンやのうて良かったわ…」

「まだ言うてはるんですか?イコさん」

「イコさんまじでブレないな…」


生駒の肩の上の数値はブルルッと身震いしている。大袈裟な反応をすることが多い生駒だが、本心からそう思っていることは数字の様子を見ればよく分かった。裏表がない人は見てて安心するな、とその様子に気分が和む。
すると、そんな絲を眺めていた隠岐が声をかけてきた。


「志島先輩」

「ん?」

「先輩が言いたいことはよう分かりました。でも先輩も無理せんようにしてくださいね」

「ああいや、今はそん」

「ハイ、約束」

「ナ゜」


わあ心配してくれる優しい後輩だあ!とはしゃぐ間もなく衝撃で体が跳ねる。隠岐の小指が絲の小指を掬い取り、キュッと絡めてきたからだ。約束のおまじないーとにこやかに喋る後輩の肩上で、数字がぽやぽやと光を放っている。その光に混じって小さなハートが舞っていたのだが、絲は正直それどころではなかった。


「―いやそういうとこォ!!!!」


その場で絲の心の叫びを浴びた生駒は、あれは分かり達人やったな、と後日述べたという。やかましいわ。
やはりイケメンは発光する上、勘違い女量産機だから近づいてはならないと絲は学んだ。彼らが嫌いとかいうわけではないのだが、心の安寧を保つためには知り合いくらいの距離がちょうどいいのである。

ンヘェと何かと厄介なイケメン後輩ズを頭から追いやっていると、ふと廊下の先が騒がしいことに気がついた。なんだ?と歩を進めてみると、一人の男子を三人の女子が囲っているのが目に入る。仲良しグループかとも思ったが、どうも男子の方の様子がおかしい。ムムッと目を凝らすと、彼の頭上では6万4000の数値が赤く点滅しながら回転していた。エッ回転するの!?ギュインギュインしてるが!?と初めての光景に驚きを隠せないでいると、回転する数字の上に更にもう一つか細く光る文字に気が付いた。

(H、E、L、P…えっHELP?あれ数字だけじゃなくて文字も出せんの!!?)

初めてのことが重なり過ぎて逆に怖い。しかし背中しか見えない男子はへっぴり腰でどこか弱々しく、耳まで真っ赤だ。とりあえず助けるか…と一歩踏み出そうとして、彼の纏う服に既視感を覚えた。見覚えあるスーツだ。あんな隊服着るの二宮隊しかいねーだろ、というカゲの言葉が頭に過る。じゃあ多分彼もそうなんだろうなと当たりをつけ、自販機の影に身を潜めて大きく息を吸った。


「二宮隊の方いませんかー!!!」

「えっ、!?」

「至急集合せよと二宮隊長が言ってまーす!二宮隊の方はすぐに隊室へ向かってくださーい!!」


二宮隊の方ー!と再度声を張り上げながら、チラリと様子をうかがう。男子はというとワタワタ手を振りながら後退り、残念そうに声を上げる女子たちへ軽くお辞儀をして走り去っていった。どうやら助け舟にうまく乗ってくれたらしい。大人しいタイプの子なのかな…と思いつつ、握っていたスマホから犬飼とのトーク画面を呼び出す。

(慌てて隊室に飛び込んでくる黒髪男子くんいるかもしれないけど、招集は嘘だからって伝えといて…っと)

特に心掛けているわけではないが、一日一善を実行すると気分がいい。名前も顔もよく知らないが、達者に過ごせよ…と絲は上機嫌にランク戦ブースへと足を進めた。悲しいかな、これもまたフラグである。強く生きろ。






[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!