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二次創作/夢
踊る数値大捜査線








―気のせいじゃなかった……!!

考えてみれば王子の数値もなんか鱗粉みたいなキラキラが舞っていたのだ。烏丸の数値が人間みたいに踊ってるのも真剣に考えるべきだった。王子のエフェクトは本人が醸し出すキラキラ王子オーラかと勝手に思っていたが、そんな訳がない。なんだよキラキラ王子オーラって。普通は人からそんなものは出ないし見えない。

通常通りを心掛けつつ、目の前の生駒―ではなくその頭上の数値をチラリと見る。ゴーグルをした生駒はキュッと口を引き結んでいて表情が分からないのに対し、8万2000の数字はわあいわあいとぴょんぴょこ跳ねている。心が幼女なんだろうか。数字からぽこぽこと可愛い花も生み出されてその周囲を舞っている。頭痛が痛いぜ…みたいな気分に見舞われた絲は、ひとまず生駒との初コンタクトを思い返すことにした。

ことの始まりは、諏訪セレクトの人が少ない通路で一息ついていた時である。
新人というよりは実力者という見方をされるようになった絲だが、絡まれることはほぼ無くなったのに初期の癖が未だに抜けず、人目を忍んで休憩を取ることが多かった。この日もいつも通りひっそりと休憩しており、さてこの後はランク戦ブースにでも行こうかなと顔を上げる。すると、曲がり角から己を見つめている存在に気が付いた。赤と黒が特徴的な隊服、オールバックの黒髪、首にかけられたトレードマークのゴーグル。誰がどう見ても生駒達人その人だろうという顔が壁から半分だけ見えていた。こちらと目が合っても微動だにしないので、内心何だこの人…怖…と思いつつ声を掛ける。


「あの…生駒さんですよね?」

「!!!!」


絲としては何も変なことは言ってないのだが、声を掛けられた生駒は何か大きな衝撃を受けたように体を揺らした。そして恐る恐るという様子を隠さず、何故か中腰で片足ずつスススと壁向こうから姿を現す。


「俺のこと…知っとったん…!?」

「まあ有名ですし、旋空弧月のログとかよく見させてもらってます」

「ハァッッ!!」


聞かれたことに素直に返しただけで大袈裟に仰け反るのはどういうことなのか、絲にはサッパリだった。ハァッッて何だよ。かめはめ波でも食らったかのような動きをしているのが気になって仕方ない。私は無意識に波動を放てるようになってしまったのだろうか。


「認知…されとる…!!強くてヤバいカワイコちゃんに!!」

「ありがとうございます…?」

「お礼言われた!!カワイコちゃんに!!」


温度差がひどいし話が進まない。なんとも愉快な人だが、本題は一体何なのか早く教えて欲しい。そう思った絲は、口元に手を当ててハッ…とした顔をしている生駒に何か私に用があったんですか?と尋ねてみた。


「そう!俺、志島ちゃんに用があんねん!よう分かったな!!」

「いや、あんなあからさまに覗かれてたら誰でも分かりますよ」

「ヤバイ」

「え?」

「即座に突っ込んでくれる…俺達相性最高なんちゃう…?
第一印象から決めてました」


スッ…と静かに体を90度に曲げたかと思えば、片手を真っ直ぐ前に差し出してくる。とりあえず握手すると、キャッと乙女のように肩をすくませて喜んでいた。滅茶苦茶面白いけど本題に入れていない。口の端から漏れる笑いを堪えながら私にどんな用が?と再び尋ねると、ああそうそうと腕組みをした生駒が答えた。


「あんな、スーパーウルトラキュートでトリガー性能把握に余念がない期待の新人・志島ちゃんにしか頼めないんやけど」

「私の肩書き長くないですか?まあはい、続きどうぞ」

「ウン。弧月と銃使(つこ)てるのって今んとこ志島ちゃんだけなんよ」

「そうでしたか?まあ確かに珍しい組み合わせですかね。弧月かスコーピオンにプラスで射手(シューター)トリガー入れる人が圧倒的ですし」

「せやろ?今な、旋空弧月をどうにかこうビョーンとのばそうと頑張っとるんよ」

「ビョーンと」

「ビョーン。
銃手(ガンナー)の射程圏外からシュパーと攻撃できたらええなと思っとるんやけど、どうせなら弧月の特性も分かってる人と練習したいやん?」

「シュパーと」

「シュパー」


妙な効果音が気になるが、つまりは攻撃手(アタッカー)に対して有利を取れる銃手(ガンナー)への対策として新技を色々と試したいという話をされているのだろう。これを己に話すということは、その新技開発のために協力を求められていると見て間違いないはずだ。最初から純粋な銃手(ガンナー)相手に手の内を晒すより、まだどこにも所属していない新人相手に訓練した方が実際にランク戦で投入した時のインパクトと効果は絶大である。何より自分にもメリットがあるので、断る理由は無いなと絲は即座に了承した。


「なるほど、話は分かりました。私は生駒さんの相手をすれば良いんですね?」

「えっ」

「私としても旋空弧月の使い手として名高い生駒さんの技を間近で見れるのは願ってもない話です。
ただぺーぺーの私ではポイントを根こそぎ取られるだけなので、模擬戦という形でも良いですか?」

「めちゃ話が早い…!えっほんま?ええんか?」

「もちろん。その代わり私にも少しだけ旋空弧月のコツ教えて下さいね」

「教えるぅ!むっちゃ教えたる!!」


早速行こか!!俺のことはイコさんでええで!!と、何故かゴーグルを装着しキメ顔で歩き出した生駒の後ろに続く。最初は不審者かと思ったけどぞんざいに扱わなくて良かった…と胸を撫で下ろしていると、視界の隅で何かが蠢いていることに気が付いた。ん?と少し目線を上げると、生駒の肩上にある数値がモゾモゾ震えている。


「ぇ」


二度見どころか三度見したが、間違いなく8万2000の値がうふうふと嬉しそうに身をよじっていた。よくよく見ると立体的で奥行きがある。唖然としているとぴょんと一つ大きく跳ね、生駒の頭に飛び乗って屈伸するように伸び縮みを繰り返しているではないか。


「、?」

「志島ちゃん、三番ブースでええ?」

「アッハイ!  …??」


生駒が振り返るのに合わせて数字もきゅるりんとターンしているので、視線が忙しなく動いているのが自分でもよく分かる。いやでもこれは仕方なくないか?と混乱を極める絲の思考に更に情報を付け加えるかのごとく、今度は数字の端がぷくりと餅のように膨らんだ。今度は何だ!?と見守っていると、そこからポンと可愛らしい花が生み出されていく。それは数値の周りをふわふわ漂い、いかにもご機嫌ですといった雰囲気を醸し出していた。当の本人―生駒はといえば、真顔でブースの利用予約を端末で行っている。落差が酷くて風邪を引きそうだった。

(ええー…!?)

そして冒頭に戻る。
王子や烏丸の時はスルーしたり気のせいだと思ったりしていたが、どうもそうではないらしい。こんなに数字が感情豊かになることある?と思ったが、そもそも普通は誰にも見えていない値だ。何が起きてもおかしくはないのかもしれない…と自分を納得させるしかなかった。だって考えても分からんものは分からん。

衝撃の事実が判明してからというもの、絲はより注意深く周囲を観察してみることにした。すると色々と気が付くことがあった。それは「値が万超えの人の数字が大抵の場合感情表現をしている」こと、また「人によってフォントが違ったり色が変わったり様々なケースがある」ことだ。

例えば生駒の手引きで知り合った生駒隊の面々だが、それはまあ濃かった。何がってそれぞれのキャラもだが数値の自己主張も強いのなんの。関西圏からのスカウトが大半と聞いたが、そういう素質が無いと駄目だったんだろうか。
まず最初に会ったのは水上だった。同い年やから知り合っといて損はないやろ!という生駒のキメ顔気遣いによる出会いである。


「ああ、アンタが例の。どーも、ウチの隊長がお世話になってます」

「はあ、これはご丁寧に。お世話してます?」

「ちょいちょいちょーい」

「何ですかイコさん、間違っとらんでしょ」

「いやそうなんやけどな?そこやなくてな?自分ら同い年やん?他人行儀すぎん?」

「それもそやな。志島ちゃんて呼んでええか?」

「オッケー、こっちは水上って呼ぶわ」

「砕けんの超早いやないかーい」

「楽しそうだなイコさん…」

「こういう人なんや」


ぽんぽん飛び交う会話の合間にしっかりと水上の数値を確認していた絲だが、シレッとした顔の割に数字の方は分かりやすくてちょっと安心していた。生駒と話すと明らかにそちらを向いて頷いたり色が変わったりしているのに、絲と話していると途端にスンッ…と無になって静まり返るのだ。これが好感度の顕れってやつだろうか。絲は特にそれに対して思うこともなく、むしろ心の有様を顔や態度に全く出さないポーカーフェイスぶりに感心していた。ちなみに値は9万8000なので、あと少しで影浦に並べる。ぜひ頑張って欲しいと勝手ながら密かに応援することにした。
次に会ったのはオペレーターの細井だ。あまりに生駒がマリオちゃんマリオちゃん言うので、絲もマリオちゃんと呼ぶことになってしまった。本人は満更でもなさそうだったので、絲はそのままにしている。


「志島ちゃん、こちらかわいいかわいいマリオちゃんやで」

「どうも、噂はかねがね。志島絲です」

「なんの噂!?イコさん変な紹介はやめて言うたやろ!!」

「大丈夫、かわいくて有能なオペっていう自慢話をイコさんから聞いてるくらいだから」

「あの…なんかスミマセン…」

「志島ちゃん、礼儀正しいマリオちゃん可愛いやろ?」

「そうですねえ」

「ちょぉ!!」


素直に反応してくれる年下の女の子が新鮮でついつい生駒にノッてしまったが、本当に可愛い。これは生駒さんも可愛さを言いふらす訳だ…と納得した。だって怒り方が既に可愛い。ポップな字体の数値も感情と連動してうっすらピンクになっており、端っこからぽこぽこと汗の記号が出てきている。ちなみに値は1万4000。オペレーターでも当たり前のように万超えしてきたので、絲はちょっと震えた。


「マリオちゃん、私のことは好きに呼んでね」

「えっと、じゃあ…絲先輩って呼ばせてもろてええですか…?」

「モ!…チロン」


少し恥ずかしそうな様子でこちらをうかがってくる細井に胸を打たれ、その勢いのまま変な返しをしてしまった。そんな絲に対して分かり達人…みたいな顔で深く頷いてくる生駒は少しうっとおしさがある。その肩の上で同じように体をくねらせている数値にも多少イラッとした。視覚情報のやかましさが二倍。
挨拶を済ませた細井と今度お出かけしようと話を弾ませていた所、生駒隊三人目が登場した。南沢海である。あれ!?知らない人いる!!と隊室の扉を開けるなり元気に飛び込んできたので、おっと水上とは大分タイプ違うな?と絲は思った。なにせ頭の上に存在する数値が誰!この人誰!俺興味津々ッス!!と言わんばかりにぶるんぶるん揺れながら身を乗り出しているので。


「はぁー、成程!じゃあ志島先輩はイコさんの新技実験体ってことですね!」

「いや言い方ァ!海失礼やろ!!」

「愉快ポテンシャル高いな…」


口を開けばこの騒がしさ。言葉のチョイスが斜め上を突き抜けている上、コラ!と細井に叱られてもまるで堪えた様子がない。しかもこの騒がしさからは想像できない3万8000という数値の高さ、色々な意味で生駒隊にぴったりの人物である。


「そういえば俺買ったジュースどうしたっけ?」

「いや知らん。アンタ入ってきた時何も持ってなかったで」

「ええっどこやったんだろ?探しに…あ、志島先輩!今度俺ともランク戦してください!それじゃあ!」


結局南沢はドタバタ入ってきてドタバタ去っていった。コメディアンの素質があるかもな…と絲は元気なポメラニアンを見ている気分で見送る。終始申し訳無さそうな細井には気にしてないよの意を込めてぽん、と肩に手を置いておいた。壁に同化していた生駒は元気ええやろ?と自慢げな雰囲気を醸しながらサムズアップしている。無視するのもあれなので、頷きだけ返しておいた。満足げだったので良しとする。

次に紹介されるのが生駒隊最後の人か、どんな子かなあとのんびり構えていた絲だったが、ある意味ラスボスみたいな後輩が来るとは考えてもいなかった。その後輩に良くも悪くも振り回されることになるとは、この時の絲は予想だにしなかったのである。








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