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二次創作/夢
高いのは戦闘力か顔面偏差値か






「やあ!君が志島チャンだね?」

「ヴァッ誰この王子みたいな奴!?」

「正しく僕は王子だよ、王子一彰。よろしくね」

「えっ…何…怖……」

「アハハ」

「いやアハハて」


人目につきにくいと諏訪に教えてもらった通路の片隅でコーヒー片手に一息ついていると、視界が眩しい顔面で占領された。混乱のままに声を上げた絲は、跳ねる体もそのままに勢いよく後退する。しかし背後は壁だったので、後頭部を強かに打ち付けて終わった。突然のダイナミック自己紹介に痛みと恐怖で言葉を失っていると、ごめんごめんと目の前の男は微塵も申し訳ないと思ってなさそうな笑顔で軽い謝罪を口にする。ちなみに同年代だから気軽に王子って呼んでねとも告げられたが、そんなことは聞いていない。


「この前スミくんから君の話を聞いてね、会ってみたいと思って探してたんだ」

「はあ、そうなんだ」

「女子に敬遠されがちなカゲくんとも親しいみたいじゃないか!一体どんな魔法を使ったのか是非知りたいね」

「いや、確かに仲は良いかもしれないけど…それも私が勉強の面倒を見させられてるってだけだよ?その代わりお好み焼き奢ってもらってるギブアンドテイクって感じの」

「チームメイトでもないのにそこまでの仲の女子はハルニレくらいしか知らないよ。君はいわば突然現れた例外みたいなものさ」

「うん、そっか…?」


まあ確かに影浦は柄が悪い。けれど、別に人格がひん曲がっている訳ではない。人より多少気が立ちやすい所があるが、別にそんなに気になる程でもないのでなんとも思っていなかった。そこをさぞ愉快ですといわんばかりに掘り下げてくるこの王子という男、犬飼とは別の意味で厄介なニオイを感じる。何せ口を挟む間もないマシンガントークだ。そもそもハルニレとは誰だ?頭上にクエスチョンマークを幾つも浮かべていると、王子はああそうだ!と掌に拳をぽむりと軽く押し付けた。


「これもなにかの縁だし、あだ名を付けないとね!」

「いやどんな縁?故意の衝突事故みたいな縁ってこと?」

「何がいいかな…志島絲…しじまいと…し…いと…」

「話聞かないなこの人」

「シートン…うん、シートンにしよう!」

「は?」

「じゃあシートン、今度はクラウチも連れてくるよ!今度同年代で集まるのもいいかもね!」

「え…?なんなん…?テロ??」


動物記を作ってそうなあだ名を勝手に付けて去っていく様はいやに爽やかである。キラキラしたエフェクトをふりまくその肩上には5万5000の文字が煌めいていた。
絲は彼がなんの為にわざわざ会いに来たのか何も理解できなかった。もしこれが犬飼からの遠回しな嫌がらせならあの面を吹き飛ばしてやりたい気持ちになったが、多分なんのこと?とか言ってはぐらかされそうな気もする。影浦が犬飼を毛嫌いしている理由が少しだけ分かった。イマジナリー犬飼ですら普通に腹が立つからだ。犬飼は己の預かり知らぬ所でヘイトが高まっていることなど知る由もない。なにせ今回は完全なる冤罪なので、これに関しては泣いてもいい。

絲はもう二度とこんなテロ受けたくないと心から思っていたが、悲しいかなそれはかなわぬ夢である。この王子襲来以降、犬飼から話を聞きつけた同年代がワラワラと会いに来るからだ。しかも軒並み数値が高い奴らばかり。どうも気を利かせた犬飼が人が少ない所で捕まえろと伝えているらしく、未だ心無い視線や噂話にさらされてはいない。しかしその配慮ができるならもう少し人数調整をしろと絲は切に思った。あのお喋り野郎のことだから行く先々で自分の話をしているに違いないと考えていた絲だが、それに関しては大正解である。これは有罪。

やがてその突撃☆期待の新人訪問の波は同年代から幅を広げることになる。なんか個人面接みたいになってないか…?と頭を抱えたが、今の所心臓に悪い以外の実害は無いのでまあいいかと思うことにした。実力者と知り合って自分の戦術の幅が広がるのは願ってもないことである。それに同じ高校のオペレーターとも仲良くなったため、ハブられたことによる灰色の高校生活は色を取り戻しつつあった。その点だけは犬飼に感謝している。オペレーターも隊に所属しているとチームメイトへのやっかみやら嫉妬やら色々あるのだと聞き、お互いに仲間意識が芽生えたのも良かった。こういう時の女の結束は強い。
と思ったものの、そうも言ってられない事態に見舞われた。


「あ、あなたが例のレアキャラの志島先輩ですか」

「ア゜」


その男を視界に入れた瞬間、わあイケメンだあなんて思う暇もなく絲は冗談抜きで衝撃で目が潰れるかと思った。なにせ眩しい。発光している。烏丸と名乗った後輩の頭上で燦然と輝くその数値は、太陽顔負けの閃光を放っていたのだ。というか眩しすぎて万超えなのは分かるが具体的な数値が読めない。
初めての経験に愕然としていると、ハッと頭に過ぎったのは国近に聞いた太刀川隊のモテモテ後輩くんの話である。烏丸京介はとってもイケメンでボーダー内でも屈指の人気を誇るガチ恋勢量産機、かつ実力もべらぼうに高いという話をへえーなんて呑気に聞いていた過去の己の頭を叩きたい気分だ。まさか多数の乙女に恋されててイケメンだからこんなことになってるの!?数値が目を焼き殺しに来ることある!?なんて慄きつつ、そっと片手を目の前に翳して薄目で初めまして…とひとまず挨拶をしておく。挨拶は大事。


「なんか国近先輩に面白い人がいるよと聞いてたので、会ってみたかったんですよ。会えて良かったです」

「そっか、うん、それは光栄だな、うん」

「この前風間さんとの模擬戦でスパイダー導入して、スパイダーに弧月の柄引っ掛けて空中移動してたって本当ですか?」

「なんでそんなコアなとこピンポイントで突いてくるんだ君は?初対面だよね?」


イケメンにイケメンな台詞を言われてる!すげえ!と感動したのも束の間、この前の大失態をかました模擬戦について切り込まれて思わず心の声が漏れた。
烏丸が言っているのは、つい先日風間と絲が模擬戦を行った時の話だ。最近は力を付けてきた絲に対する陰口は鳴りを潜めており、あまり人が居ないという条件が整えば二宮や風間とランク戦や模擬戦をして教えを請うていたのである。有り難いことに二人共時間が合えば付き合ってくれるので、その胸を借りているという訳だ。そんな中で新たな戦術を試すことも多く、スパイダーでの空中移動はその一環だった。ところがどっこい、戦う敵のいない自己訓練であれば上手くいっても実戦ではそうもいかない。


「聞いた話ではスパイダーを切られて体勢を立て直そうとした所が運悪く川で、そのまま落ちたって」

「すごい切り込んでくる…なんだこの子…その通りだけど」

「志島先輩、打てば響くって感じで面白いッスね」

「ねえまさか私で遊んだ?ねえ?」

「はは」

「クソ!!面がいいな!!!」

「ありがとうございます」

「うん」


風間には発想は良かったが運がなかったと称された事件だ。掘り下げてほしくない所まで掘り下げてきやがった…と思っていると、スンとしていた顔に少しだけ笑みが浮かぶ。その破壊力たるや、世の女子が恋に落ちるのも理解できる眩しさだった。そういうギャップよくない。苦し紛れに褒め言葉を吐き捨てると正面から礼の言葉を返されたので、神妙に頷き返しておいた。コイツを好きになったら茨の道な気がする。無意識に魅力を振りまく小悪魔くんかな?


「とりあえず烏丸って呼ばせてもらうかな。一つ忠告しておくけど、世の中の女は君相手だと軽率に恋に落ちるから人をからかうのは控えるといいと思う」

「はあ。そんなことはないと思いますけど」

「あるんだよ」

「まあでも志島先輩は面白いんでたまに遊びますね」

「私で!?私で遊ぶってことか!!?やめろ!!!」

「やっぱ面白い人だな」


親切心で忠告したというのに、何故か自分で遊びます宣言をされてしまった。なんて後輩だ。即座にやめろと声を上げると、俺の目に狂いはなかった…と言わんばかりにウン!と満足げな顔で力強く頷いている。今度時間ある時にランク戦お願いしますね、と片手を上げてイケメンムーブ退散していく烏丸の背に、私で遊ばないならね!!夜道の女には気を付けな!!と絲は勢いよく言葉を投げ付けてから大きく息を吐いた。数値はビカビカに目を潰しに来るわ、その本人は容赦なくからかってくるわ、散々である。悪い奴ではないんだろうけど…と遠ざかる背中を見ていると、あれ?と一つの違和感を覚えた。


「なんか数値くねってないか…?」


先程よりも光がやや控えめになった数値が、まるでダンスするかのようにくねくねと波打っている。いや、あれはダンスというよりもウキウキした動きというのが正しいだろうか。鼻歌を歌い出しそうな上機嫌さだ。目を擦り、目蓋を上から揉む。再度視線を向けた時には後輩の背中は遠く、数値から放たれる光しか分からなかった。


「まあ気のせいか」







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あきゅろす。
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