二次創作/夢
恋愛論。2(宮地/夢)
「おお、岸川」
「今吉さん」
いつも通りの笑みをその口元に浮かべながら近づいてくる部活の主将に、彼女―岸川朔は口元をひくつかせた。
そんな微妙な表情の後輩に、今吉は部活でも噂の"いやらしい笑み"をさらに濃くさせながら、マネージャーである彼女の元へ歩を進める。
「傷つくなぁ、その顔。もうちょっと先輩をいたわることはできないんか?」
「‥」
「無言はやめてぇなww」
「…わざわざ昼休みに二年のフロアまで来るということはまた何か面倒ごとに違いないかと思ったので」
心底嫌そうに切り返す少女に、今吉は盛大に吹き出して笑う。
「ようわかったなあ!流石にワシと付き合うとるだけあるわ」
語弊の生じる言い方に、更に不機嫌な顔になるのが自分でも分かる。
「それを言うなら先輩後輩の付き合い、でしょう。私をあなたの恋愛事情に巻き込まないで下さい…あなた地味にモテるんですから」
先程までは幾分か温度のあった声音も、表情と連動するかのように冷たさを増していった。
「…つれないなぁ」
「つれなくて結構です!」
からかわれるのがどうも癪に障る男だが、これさえなければ普通にかっこいい部類に入るのだ、面倒なのは部活だけで十分である。
「…で、本題は何ですか今吉主将」
「ああ、せやったな。岸川マネージャー、校外にお仕事やで」
ほい、と何かをメモしてある紙を渡される。其処に書かれていたのは、全国常連の強豪校の名前だった。
(久々に厄介な類の匂いがする…)
「…偵察ですか?」
「いや?今回は練習試合の申し込みや。どうやらあちらさんの学校、ファックスがちょっと壊れてもうたみたいでなあ。申し訳ないが書類届けついでに挨拶も頼む、―と原監督の仰せや」
はああ、と大きなため息をつく。
実際、今までに何度も偵察や申し込みに他校へ行かされたことはある。
が、正直に言って今回はその通告が遅すぎる。普段ならもっと早い時点で伝えられるはずのそれが、主将がわざわざ昼休みを利用してまで今伝えに来たのだ。緊急の案件であることは重々承知なので、仕方なしに了承の言葉を返した。
「悪いな、岸川。ワシもあちらさんもまさかファックスが壊れるとは思ってなかったんよ」
「…しょうがないですよ、これも仕事なので」
そう言いつつも、若干膨らんだ頬が彼女の不機嫌さを表している。
「この仕事は急なもんやからなあ。ちゃんと終わらせたらご褒美に良いとこ連れてったるわ」
その言葉に、岸川はピクリと反応した。今までにも、デートだ買い出しだと言って連れて行かれたのは可愛らしいケーキ屋だったからである。
桐皇のバスケ部マネージャーは、一年の岸川、桃井と、二人ともかなりの有名人で、こう噂されることが多い―
…黒髪の方はクールビューティー系、ピンクの髪の方はセクシーキュート系だと。
しかし、そんな見た目とは裏腹に、朔は甘い物が大好きであった。
「…約束ですよ」
「悪いなあ、頼んだで」
不機嫌そうな表情はあまり変わらないが、声音に喜色がにじみ出ている。
今吉の中では、手懐けるまで少々時間が掛かったが、中々に可愛らしい後輩―朔を、休日に連れ回すくらいには気に入っていた。
ポンポンと軽く頭を撫でても嫌そうにしないあたり、自分もかなり頑張ったものだ、と彼は思った。
「じゃあ、私はこれで」
「ホンマにすまんなあ。あちらさんで用事終わったら今日はそのまま家帰ってええで」
「…はい。行ってきます、主将」
振り向きざまに目を細めてゆるり、と微笑む彼女に手を振り、今吉も来た道を戻っていく。
(…あかんなぁ)
基本、プライベートに人を踏み込ませるのは好きではない。しかし、たまたま通りかかったケーキ屋を見ると、どうしても後輩を思い出すのだ。そして気がつけば、別に甘いものが好きなわけでもないのに、店の扉をくぐっている自分がいる。
気まぐれで意外と感情の起伏が激しい上に、甘いものが好きな後輩。
(―…癖になってもうたかもしれん)
でなければ、いくら監督の頼みとはいえ、わざわざ昼休みを潰して違う階に来るものか。
そんな自分にどこかおかしさを感じて、彼はほんの少し口をゆがませつつ片手をポケットへとしまい込んだ。
「…ここかな?」
時は放課後、彼女は伝統を感じさせる趣の学校にまで来ていた。校門前にまでまわり、高校名を確かめる。
「…秀徳…うん、あってる」
校内には部活動をしている生徒たちが、それぞれ汗を流し、己の技を磨いていた。
遠くに聞こえる野球部であろう掛け声を背景に、朔は校門をくぐり、目的地を目指した。
(体育館は‥っと)
心なしか目線が痛い気がしてならないが、他校に来るときはいつものことなので、彼女は気にも留めずに歩いていく。
が、秀徳には訪れたことがないので、校内の構造が分からない。方向音痴ではないが、このまま有耶無耶に歩いていてはたどり着くものもたどり着けない。さてどうしたものか…と考えていたとき。
「あれ、おねーさんどうしたんすか?」
「!」
部活に向かう途中だったのか、大きなサブバッグを持っている男子生徒が声をかけてきた。他校の生徒が学校内に入り込んでいることからか、多少訝しげな顔をしている。
「ああ、私桐皇学園一年、男子バスケットボール部の者なんですが…試合の申し込みと挨拶に来たところ迷ってしまいまして」
相手が何年生か分からないので、丁寧に言葉を返すと、少年はおもむろに吹き出して笑い始めた。
「ブフッw
おねーさん俺より年上かと思ったwwww」
「…良いじゃないの、礼儀作法は大事よ」
彼が言うには、どうやら同い年らしい。確かにまだ幼さが後を引くような顔立ちをしているので、一年と言われたら納得である。しかし、その台詞に自分は老け顔なのか、と若干ショックを受けていると、そんな朔の勘違いに気づき、猶も笑いながら彼は再び口を開いた。
「んじゃ、行くか!」
―…体育館!
恋愛論。-秀徳編・上-
(俺、一年の高尾和成!気軽にカズちゃん(はぁと)って呼んでくれて良いぜ!!)(分かった、高尾。私は桐皇学園一年、岸川朔だよ)(総スルー!和成泣いちゃう!!!)(………(ウザイ…))
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オイ友人よ、書いてやったぞ満足か。
テスト一週間前だぞ…覚えとけよ……
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