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二次創作/夢
トリガーは引かないで―T:体育祭b




「私は、私がここにいる事を示すために勝ってきた!…死力を尽くさない奴に私がなんで真剣に取り合わなきゃいけないの?下らない!」

「…話はそれだけだ、悪かったな」


そう言って静かに去っていく紅白の頭を、命は憎々しげに眺める。

騎馬戦を無事切り抜けた心操チームは、途中から動きがぎこちなくなった。支配下からいつの間にか抜け出ていた尾白が、勝つために最後まで協力はしたものの不可解な現状を把握しようとしたからだ。心操と命は打算的な協力関係にあったので、追求を逃れようと昼休憩に入ってからさっさとその場を後にしたのである。クラスメイトはいくらか固まって昼食を済ませたようだが、その中に轟と緑谷、ついでに爆豪の姿も無かった。その事を特に気にしていなかった命は、一人暗い通路から出てきた轟に捕まり…冒頭に戻る。
話は簡単だ。轟は、緑谷出久を警戒すると共に得体の知れない存在として命のことも警戒していた。憎らしい男の顔を歪ませる―ただそれだけのために片方の力しか使わない事を己に課して。轟の事情は知らずとも、その態度が命には侮辱そのものとしか思えなかった。だって、スタートはどうあれ皆形振り構わずやっている。全力でぶつかることが礼儀ではないのか?ヒーローとは学生の内から全力を出さずしてなれる代物なのか?否、否、否!


「目が曇ってるよ、君。馬鹿じゃないの?」
「お前の都合を私達に押し付けるなよ」


俺が勝つ―緑谷にも、お前にもだ。そう言われた瞬間、サアッと清々しいまでに頭の中が冷え切った。轟の都合など知った事ではない。付き合う義理もない。ただただ、失礼な奴だと思った。命が言いたい事を全て言い放つと、轟は驚いた顔で話を切り上げて食堂の方向へと去っていった。食事もまだだというのに話しかけてきたのだろうか。だとしたら、無駄な揺さぶりにご苦労な事だと思った。


席を外している間に、どうも我らが八百万は峰田や上鳴に嵌められたらしい。己以外の女子は皆、何故か露出の多いチアの服装で決勝トーナメントの組み合わせ発表の場に集まっていた。さばさばした性格故に普段からよく話す耳郎の横に立てば、恨みがましい視線を頂いてしまった。


「ウチはこんな思いしてるのになんでアンタだけ……ずるい………」

「その恨みは是非ともあそこの戦犯に向けてほしいかな、耳郎ちゃん。それにね、私今変身…もといトリオン体だから生身に着せないと意味無いね。だってトリオン体で違う服構成したらトリオン体に着せられた服は抜け落ちるし。まあとりあえず私の体操服着ときなよ」

「…ありがと」


生身の時に脱いだ体操服の上着をたまたま手に持っていたので着せてやれば、耳郎はやっと人心地がついたようだ。峰田は八百万に引っ付いて障害物競争をクリアしたらしいし、なんだかもうヒーロー以前に人としてのモラルが欠落しているように思える。後で事細かに相澤先生に報告しようと心に決めていると、何やら前方が騒がしい。なんと、同じ騎馬だった尾白とB組の男子が棄権を申し出たのだ。予想出来得る展開ではあったが、本当にそうするとは意外だった。ちらりと意味深な視線を尾白に向けられるも、疾しいことは何もない。堂々と正面から見つめ返せば、ふいと視線は逸らされた。
二人の棄権が認められ、B組の二人が新たに繰り上がった所でトーナメントが発表される。繁栄命の初戦の相手は、クラスメイトの芦戸だった。


「命とかぁ!普通に強いカードと当たっちゃった」

「よろしく、芦戸ちゃん」

「うん!手加減無しだよ!」


明るく意気込む返事に、命は笑みを深めた。轟焦凍にはこれが足りない―そう思いながら。




* * * * * *




初戦、芦戸戦。
それこそ初めからインパクトは必要だと見込んで、体術と酸を武器に接近して来る芦戸の足元に罠を仕掛けさせてもらった。ここまで温存してきたオプショントリガーの解禁である。


「命、いくよ!」

「気持ちいい位真正面から来るねえ芦戸ちゃん!でもそこ、危ないよ」

「え?わああっ!!」


予選で出したのはただのシールドだが、今度は違う。半透明の何かをシールドとみなして避ける事なく最短距離で突っ込んできた芦戸は、先入観にしてやられることとなる。その板を踏み込むと、その踏み込んだ力の何倍にもなって跳ね返るのだ。ポーンと空高く舞った体は、綺麗な弧を描いて場外へと向かって落ちていく。
芦戸の身体能力がいくら高いとはいえ、個性的に空中での対処はしようもない。ただただ体を襲うであろう衝撃に備え、目を瞑るしかなかった。


「シールド」

「えっ?」


その体を受け止めたのは、半球状に形成された半透明の膜。クラスメイトを痛めつける趣味はないので、命が芦戸を守るために作ったものだ。地面すれすれでシールドに受け止められた芦戸は気の抜けた声を出し、恐る恐る下を見る。その瞬間シールドがパッと消え、芦戸は白線の向こうに軽く尻もちをつく形になった。


「芦戸さん場外!繁栄さんの勝ち!!」


審判のミッドナイトが高らかに宣言して、会場がワッと湧いた。観客席からは、命の個性が底知れないという囁きが聞こえてくる。一方で、芦戸の動きも良かったという声が上がっていた。
命は腰を下ろしたままの芦戸に近づき、手を差し伸べる。私は全力で迎え撃ったぞと言えば、ちょっぴり悔しそうな顔をしていた芦戸も、私も全力!とにこやかに述べた。立ち上がって二人手を握れば、会場には再び両者を讃える拍手が鳴り響いた。


*


2回戦、常闇戦。
常闇は轟や爆豪に比べてあまり目立たない方だと言えるクラスメイトだが、その実力は警戒に値する。何故って、彼の個性―ダークシャドウが普通にとても強いからだ。しかし互いに遠距離で戦っている内に、室内戦との違いに段々と気が付いてきた。屋外の今の方が、ダークシャドウは弱い。とはいえ、完全にダークシャドウを下せるかと言われれば、それは難しかった。
あまり威力を高めた攻撃をすると、再起不能どころか人生不能になりかねないからだ。これは勝敗を決める試合であって、本当の戦いではないのだ。ダークシャドウは強くとも、本体の常闇自身はそこまで鍛えていない。オーバーキルなのもダメだと、少々抑え目でなおかつ試合の勝敗を決められる攻撃をせねばならなかった。今使用しているのはアステロイド、火力は高いが真っ直ぐしか飛ばせない。集中砲火さえしなければ相手を致命傷に陥らせることもないので、命は一つ一つの弾を交互に撃ち込んでいた。しかし直線攻撃でしかないため、縦横無尽に動き回るダークシャドウからすれば避けやすく、単調なものと思われているはずだ。なら自分が行うべきは―


「アステロイド!」

「ダークシャドウ、避けろ!」

〈アイヨォ!コレクライナラ…アッ!〉

「ハウンド」


―視線誘導弾で、目標を確実に狙うことだ。
念のため常闇の前にシールドを張り、直接弾が触れないよう配慮した。豊富なトリオン量に裏打ちされた堅固なシールドは、ハウンドの勢いそのままに常闇の体を外へ押し出していく。ダークシャドウが慌てて主人の元へサポートに入ろうとした所を、常闇から目を離さないままアステロイドで攻撃する。それをたまらず避けている内に、主常闇はフィールドの外へ運び出されており、主人を助けることは叶わなかった。


「…見事。完敗だ」

「いや、強かったよ。またやろう」

「無論」

「良いわ青春ね…


*


準決勝、爆豪戦。
この戦いは鬼門だ。器用貧乏の己が才能マンと戦うなんて本当ならやりたくない。だが、ここは真剣勝負。やるからには本気でやると決めていた―特に爆豪には。しかしサポートアイテムも無い中、常闇戦での消耗が大きく響いている。そこで命は素直に現状を伝え、提案を吹っ掛けてみた。


「爆豪、悪いけどガス欠。残りの力全部君に撃ち込むからさ、これで倒されてよ」

「ア"ァ!?面白ェ…やれるもんならやってみろや……!!」

「それなら、準備はいいね!!
―アステロイド!!!!」


全身全霊の一撃

に見せかけたフェイント。会場内はアステロイドと爆撃のぶつかり合いで、凄まじい衝撃と風で満たされる。煙がもくもくと立ち込め、フィールド中央でぶつかり合った二人の姿は視認できない程になっていた。

〈二人とも威力スゲーことになってんぜ!!爆煙で何も見えねえが、一体どこに潜んでやがるんだァ!?〉

爆風が吹き荒れると同時に、即座に芦戸戦でも使用した半透明の板―グラスホッパーで爆発の上に飛び上がり、爆豪目掛けて飛び掛かる。強度を極限まで下げたスコーピオンを手に握り、胴体目掛けて薙ぎ払う…も、居ない。爆炎に紛れて回避したようだった。嫌な予感がして、咄嗟にアステロイドを周囲に浮かび上がらせる。すると、左腕が爆破の餌食となってしまった。爆豪の爆破と己のアステロイドが誘発してしまったようだ。肘から先が割れ落ち、トリオン体特有の断面が覗く。
煙を利用して死角からチャンスをうかがっていたのだろう、煙の向こうから突っ込んできた爆豪が、左腕の無い命の姿を見て眉をひそめ、一定の距離を取って着地した。


〈繁栄左腕取れたァァ!!大丈夫なのか!?〉

「もしかして心配してる?これトリオン体だし痛覚無いから大丈夫だよ」

〈大丈夫だったァァァァ!!スゲエ!!!〉

〈うるせえぞマイク…はぁ、エネルギーを体に纏うことで変身出来る。エネルギーは自分の体にも武器にも変換できる、それが繁栄の真骨頂だ〉

「ンな訳あるかァ!!気持ち悪ィんだよなんだその腕から出てる煙!!!」

「突然の罵倒」


苦笑しつつ地面に落ちた左手を拾い上げ、左肘から出したスコーピオンの先端に手を刺す。スコーピオンを収納するように縮めていけば、断面同士が繋がって見た目だけは元通りの体が出来上がった。
そう、これこそがサイドエフェクトのなせる技だ。「トリオン吸引体質」は、それこそ体のあちこちに討伐したトリオン兵が付着したり、味方の弾が何故か自分に向かってきたりと、色々大変なこともあった。ところがそれらを己のトリオンとして吸収できることに気が付いてから、このサイドエフェクトは真価を発揮したのである。勿論、他者のトリオンはエネルギー変換効率が悪いので、そうそう吸引することはない。しかし、今この世界でトリオン器官を有するのは命ただ一人だ。サイドエフェクトは、最早"副作用"ではなくなっていた。


「私のトリオンなんだから私に還元するのは当たり前、ってね」

「不死身かよクソが」


左腕の動きを軽く確認してから、命は再びアステロイドを爆豪目掛けて撃ち込んでいく。その一つ一つを器用なことに避けては爆破させてはと回避していく様は、まさに戦いの才能に満ち溢れているとしか言いようがない。ならばとアステロイドの予備弾を己の近くから爆豪近辺まで範囲を広げて誘爆を狙ってみるも、爆豪は瞬時に体を捻り、空中で方向転換をして浮遊する弾に被弾しないよう退避した。
そのまま爆撃の推進力で空中を飛び回りながら向かってくる爆豪に、命は距離を取る選択をした。離れようとした瞬間、右に目くらましの爆撃をされてすぐ左腕ごと体を引っ張られる。グラスホッパーで離脱しようとするも、爆豪の推進力も相まって空中で回転しながら地面に叩き付けられた。


「お前くっつける事は出来ても馴染むまで時間かかるだろ…丸分かりだ馬ァ鹿!!」

「相互理解が進んでるようで何より…いや苦しい苦しい」


ほんの僅か、左腕の動きが鈍いことを見抜いたのは流石としか言いようがない。上を仰げば、心底悪い顔で胸倉を掴み上げつつ顔すれすれの所に爆発をチラつかせる爆豪と、その背後に青い空。

―ああ疲れた、連戦はやっぱり向いてない。それに決勝はどうせ何か考え込んでる轟だし、頑張ったってどうせ屈辱的な試合が待ってるだけだ。大口叩いてトリオン兵とネイバーに包囲されて死んだあの時が、瞼の裏に蘇る。
―それでも、私今この世界を生きている。ここにいる。


「爆豪、これは嘘じゃないからもう一度言うけど…ガス欠。試合は終わりね」


バシュン、とトリオン切れと共にトリオン体が解除された瞬間、繁栄命の準決勝敗退が決まった。


「あとさ、決勝の相手…すごい腹立つと思うよ、あの様子だと。頑張れ」

「何で俺がテメエに応援されなきゃなんねェんだア"ァ!?」

「うるさいな…全方位威嚇マシンか君は……」








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あきゅろす。
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