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リンリン。
《はい、清原です。》
「久し振りだな。私だ。」
《ぇ………?なぎ、さま…?》
「そうだ。」
俺は煙管を吹かしながら、配線も電気も通っていない黒電話の受話器を握って答えた。
《ええぇぇえぇッ!?あ、お、お久し振りです。何年ぶりでしょうか…?》
「何年ぶりだろうか…。七十年位か?」
先程の情事が効いて、立っているのが辛くなり、壁に寄っかかりながら話す。
《その位ですかね…。うわぁ、すいません、今頃緊張してきました。》
苦笑したのが分かる。
彼奴にとって俺は、何時になっても畏怖と敬意をはらう対象なのだな。
「緊張等する必要無い。私はもう位など持っていないのだから。」
《位とか問題じゃないんですよ!私にとって貴方は永遠に尊敬する人なんです!》
一生懸命言う所なんかも何時になっても変わらない。
「そうか…。有り難う。」
俺が礼を言うと、息を呑んだのが伝わる。
《……………薙様。》
明るい声だが涙声。
「何だ?」
《帰って来て、下さい…。》
縋るような小さな声。
彼奴は俺が戻る事を強く望んでくれる奴だ。
今、世界がどんな状況かも全部把握している。
どんなに厳しいか。
どんなに辛いか。

だが。

「すまぬ。私は戻らぬ。もう疾うの昔に辞めた身。」

つい、昔の口調に戻ってしまった。

今は……。

今だけは……。

愛する人と、時間を共にさせ欲しい……。


もう少ししたら、いずれ俺が動かなければならなくなる。

そうしたら。

今の様にはいられない。

これは我が儘だ。



もう少し、

もう少しだけ

俺の我が儘を通させてくれ……。


《そう、ですよね…。すいません、変な事を言って。》
不安を悟らせまいと笑う。
「すまぬ…。」
俺は狡い。
それしか言わなかった。
《そういえば、何か用があったのでは…?》
「そうなんだ。実は───」




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