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聞いている方も相当堪えた。
自分の頭が冷えていくのを感じながら、今度は天侯さんの方を向く。
さっと両手を後ろに隠された。
だが、俺が見逃すがあらぬ。
無理矢理前に持って来て、その手を見る。
爪が食い込んだ跡に、血が流れていた。
「………貴方も手を大事にして下さい。怒るのも分かりますけど。傷付いた手で私を抱く気ですか?」
そう言って、傷を舐める。
ビクリ、と天侯さんが強張る。
だがそれを無視して舐め続けた。
全部舐め終わった時にはすっかり傷は癒えていた。
そして微かに寝息が聞こえる。
「寝てしまいましたね。」
天侯さんの手を離して、雄汰君を抱き抱えてソファーに寝かせ、毛布を掛ける。
泣き晴らした瞳を撫でる。
これで起きた時に腫れぼったい事は無いだろう。
しかし……。
今回は少し私情を挟みそうだ。
命を賭けてまで愛する人を守ろうとした立派で大人な同胞を、見捨てるとは…。
ユラリ、と無意識に神気が立ち上る。
ゴクリ、と後ろで息を呑む音で我に返り、神気を霧散させる。
「帰りましょうか。」
何か物言いたげな顔をし、首を降って止めた天侯さんに向かって言う。
ああ、と言う返事をすると同時に、その唇をふさいであげた。
驚いた顔が目の前に。
どんな表情も好きだな、と密かに心で笑いながら、唇を離した。
明日、薬を取りに来て下さい。
そう置手紙をして、病室を出た。
中では、安らかな寝息が二つ、静かな病室を満たしていた。
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