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6 立之山町七不思議、其ノ参
 立之山小学校の教室では、昨日とうって変わってマサが熱く語っていた。

 「いたんだよオニが! オレ、つまみ上げられたんだ!!」

 喚くマサを横目に、ダイチは白い目で「だって昨日はあんなに信じなかったじゃない」と訴えている。赤くてでっかい手がさぁ! こう、グイッて!! と、自分の赤いジャケットの襟首を摘まみ上げて再現しようとしていると、前の席に座っていたアマネがやれやれと頭を振って振り返った。

 「お言葉ですけどねマサカズ君、オニだのオバケだのってコドモダマシよ? いるわけないじゃない!」

 バッカみたい! ネー、と一蹴すると、彼女の机の周りにいた数人の女子がくすくすと笑った。

 「実際に会ってみなきゃわかんねーだろ!」

 熱くなって捲し立てる彼を無視して彼女は談笑する。

 「知ってるか、火事見ながら笑う消防車がいるんだってよ!!」

 勿論とっさに思い付いた嘘で、アマネは軽く鼻で笑うと「いるわけないでしょそんなの」とまた一蹴した。


 「いなかったらアイスおごってやるよ!」


 アイスに反応したのか、彼女は振り返ると大真面目な顔で付け足した。

 「チョコレートも付けてね!」
 「へっ、チョコパフェでも何でもしてやるぜ!」
 (そんなに食べたら太っちゃうと思うんだけど…)

 女子の体重に関わることなど、恐ろしくて口が裂けても言えないダイチだった。
 互いに顔を背ける二人を見て、しかたないなぁ、と溜め息一つ。一度ケンカを始めると少なくとも放課後まではこの状態だ。できれば板挟みにはなりたくないな、とダイチは天井を見た。





 「あーもうっ!遅くなっちゃったじゃない!!」

 週1のピアノ教室に通っていたアマネが、日も落ちそうな夕暮れの中を駆けていた。もう少しで家だ、と青信号を待っているとサイレンを鳴らしながら消防車が走っていく。


 ――火事見ながら笑う消防車がいるんだってよ!


 「そんなのいるわけないじゃない」

 昼間のことを思い出して、あり得ないと首を振る。どうせいたって今日見るかわからないのだから、アイスは貰ったな。と打算していると、どこからか声が聞こえてきた。


 「全く、あいつらは……何処をほっつき歩いているんだ……今日も応答なしなんて、たるんでいるにも程がある……」


 どうやら男の声で、ぼそぼそと愚痴のする方を見れば、何故か赤信号で停車している消防車。他に誰かいるんじゃないかと周りを見ても、横断歩道の前にいるのは自分一人。向こうから渡ってくる人もいない。
 空耳かな、と思いながら消防車を見上げていると、「青信号だぞ」と声を掛けられた。一瞬理解できず、点滅している青信号と消防車を代わる代わる見ているうちに、赤信号になった。


 「夜道は気を付けろよ」


 そう言って小さくなっていく消防車を見ながら、目を見開いたまま唖然として呟いた。

 「何なのよ、何なのよ…! あれ……!!」





 次の日、昼休みの立之山小学校5年B組から今にも泣き出しそうな叫びがこだました。

 「やっぱり幽霊はいるんだよ! この町は呪われてるんだ!!」

 一瞬教室が静まり返ったが、またすぐに談笑が始まった。ダイチは恥ずかしさやら不安やらで泣きたい気持ちでいっぱいである。

 「いるっちゃいるのは分かったけどさ、なーんか納得いかないんだよなぁ」

 手を頭の後ろで組み、椅子を後ろに傾けながらマサ。

 「まだそんなこと言うなんて信じられないよ!」
 「お前どんだけビビってんだよ!?」
 「とーにーかーくー! これは調べてみる必要があると思うわ。今日の放課後SL公園に集合しましょ!」

 アマネの言葉にマサは「おうっ!」と頷いたが、ダイチはヒィッと声をあげた。

 「ぼっボクはやだよぉ…祟られたらどうするのさあぁ…」

 しかし悲しいかな、彼の意見は全くと言っていいほど無視され、公園に集合することが確定した。彼が何と抗議しようと二人は聞く耳を持っていなかったのである。放課後にはアマネとマサに引きずられてながらも、前に進むまいと涙ぐましい努力を試みる彼がいた。


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