5 立之山町七不思議、其ノ弐
キーンコーンカーンコーン…。
学校の終わりを告げるチャイムが鳴ると、掃除当番のなかったマサとダイチはランドセルを持って駆け出した。
「じゃあ公園でな!」
「うん!」
二人は他のクラスメイトと公園の広場でサッカーをする約束をしていた。公園に行く途中、アマネの言っていた話が気になったが、サッカーを始めるとボールを蹴飛ばすのと同時に遠くへ飛んで行ってしまった。
例によって茜色の空が顔を見せるまで遊び尽くした少年達は、簡単に別れの挨拶をしてそれぞれの家路についた。マサも例に漏れず、途中までダイチと一緒に帰っていたが十字路で別れた。
「そういや最近バンテラー見ないな。ま、あんな奴……カッコイイけどさ!」
コンッ。
足元に転がっていた小石を蹴り、ため息を一つ。ふと前を見ると、暗がりの中にぽつりぽつりと頼りない電灯の灯りが見える。
(なんか、気味悪いよなぁ…)
夜というのはそれだけで何となく怖いのに、そこに怖い話が付け加えられたとなると、一層恐怖心を煽られる。
(ま、ユーレイってのは科学で証明できるんだからな!)
テレビで見た確証のない考えがマサカズの暗い気持ちに希望を持たせる。
また十字路に差し掛かると、右側の道路からサイレンの音が聞こえ、赤い光が見えた。サッカーボールの入ったネットを持つ手に自然と力が入り、背中を冷や汗が伝う。
――気が付くと赤い手にさらわれて、鬼に食べられて…。
(なっ、何ビビってんだ!)
高鳴る心音を怒鳴ってもどうにもならないのは分かっていたが、何か考えていないと余計不安になってしまうのだ。目の前を白い救急車が通りすぎるのを見て、安堵のため息を吐いた。
「そうだよな、オニがサイレン鳴らすわけねーよなぁ!」
もとの元気を取り戻して家路を歩き始めると、後ろから車が走ってくる音がする。
彼は道路の中央を歩いていたので慌てて右端に寄った。しかしいつまで経っても車は来ない。不思議がって止まると、背中を強い力で引っ張られた。
(わあぁあぁっ!!!?)
大声で叫んでいるつもりだったが、実際にはパクパクと口が開閉するばかりで、恐怖のあまり声が出なかった。
暴れる中でふと見えたのは、巨大な赤色の手。
ぞっ、と血の気が引く。
「なぁんだ、まだ子供じゃない!」
くぐもったような男の低い声が聞こえると、マサカズはゆっくりと降ろされた。
――足を止めたら鬼に連れていかれる!
「うわっ!! うわぁあ――――!!!?」
地に足が着くや否や、そのまま前方にダッシュで逃げた。
火事場の馬鹿力というべきスピードで家まで走りきり、慌ててドアを閉めると鍵をかけてほっと胸を撫で下ろした。母親にただいまの挨拶もそこそこに、滑り込むようにベッドに入ってその日はさっさと寝付いてしまった。
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