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2 立之山町七不思議、其ノ壱
 暗がりの中を家に向かって進んでいく途中、3丁目の小路にさしかかった。ふと昼間自分が話した怪談を思い出す。


 ――ぼぉっと光が見える…


 ごくり。
 生唾を飲み込んで、先の見えない真っ暗な小路の奥を見つめる。

(何もないよね、あるはずないじゃないか…)

 早く帰ろう、そう思ってペダルに足を掛けた時、暗闇にぼんやりと2つ灯りが見えた。あれは何かと不思議がって目を細めて見れば、その光はゆっくりではあるが、確実にダイチの方に向かってきていた。

 「ヒッ!!?」




 ――それがだんだん近づいてきて…


 頭の中で繰り返される昼間の言葉。この後は何だったか、と出来れば思い出したくない言葉がぞろぞろと顔を出してくる。


 ――若い男の声が聞こえる……


 それはどんな男?


 ――戦争で死んだ若い兵隊の霊が……


 何をしているの?


 ――今も隊長を探して歩き回っているんだ……


 (そっ、そんなことないよね、あれはきっと車のライトだよ!!)

 嫌な予感を振り払うように頭を振ってもその場から動かないのは、恐怖からか、それとも好奇心からか。ダイチの二つの目は光を捉えて離すことなくじっと見つめている。

 光が近付いてくる。

 じっとりと背中に汗が溜まっていき、青いTシャツの色が変わっていく。耳を傍立てていると、風の音に混じって微かにすすり泣くような声が聞こえた。




 ――隊長、みんな、どこですか……隊長……




 その瞬間、ダイチの頭から爪先まで一気に血の気が引いた。



 「うわあぁわぁあぁぁぃあぃいいあぁあ!!!!!」



 訳も分からず絶叫しながら全力でペダルをこいだ。とにかく今は逃げなければならない。一刻も早くこの場を離れなければ、あの霊に取り憑かれるか、さもなくばその場から地獄に連れていかれるような気がしたからだ。
 その日、彼はどうやって家に辿り着いたかは覚えていなかったが、朝目覚めると自分のベッドにいた。


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