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1 立之山町七不思議
 「あっちぃ〜……」

かんかんと照りつける午後の日差し。
うだるような暑さにげんなりして、下敷きを団扇代わりにする帰り道。マサが雨よ降れ降れと見上げれば、天気は雲ひとつない快晴、今日の最高気温は38度、真夏日も良いところである。

 「あれ、アマネは?」

 いつもなら三人並んで帰るのに、とマサカズが不思議そうに首を傾げると、疲れた会社員のような顔をしたダイチは延々と続く直線道路を見ながらだるそうに答えた。

 「日焼けしたくないから、って帰っちゃった…」
 「あ、そ…」

 反論する気も起きず、彼は力無くパタパタと下敷きを動かした。生ぬるい風が不快だ。


 「何か涼しくなるようなことねーかなー」


 「そうだ、この前聞いたんだけどね、出たんだってさ」
 「なんだよ、サマージャンボの1等券とか?」
 「ちーがーうーよー! マサって時々ミョーに夢がないんだから…。ほら、夏で出たといったらさぁ…」
 「あースイカか!! やっぱり冷えたやつが食いたいよなー!」

 流石に突っ込みきれなくなってきたのか、ダイチはがっくりとうなだれた。恨めしそうに彼に視線を送ると、流石にこれ以上はやめようと思ったのか、両手を挙げてお手上げのサインを出した。

 「分かった分かった! もーやめます。で、何が出たって?」

 ダイチは小さく咳払いして仕切り直してから話を始めた。

 「あのね、友達から聞いた話なんだけど……」

 このテの話に特有のシナを作りつつ、彼は声をひそめた。
 たったそれだけで体感温度がひゅっと下がったような気がして、心持ち冷たく感じる風がぞわりマサの鳥肌を立てる。

 「立之山町にはね、七不思議があるんだって」
 「聞いたことねーぞ、そんなの」
 「ま、まあまあ!」

 マサは悪戯にこそ興味があったが、都市伝説や怪奇現象、幽霊などのいわゆる「怖い話」にはあまり興味を示す方ではなく、聞いても聞き流す方だった。
 話す相手を間違えたかな、と薄々感じたが、ダイチはまた咳払いをして仕切り直すと話を続けた。


 「えーと、それでね、夜に3丁目の小路を通ると、ぼぉーっと光が見えるんだって……」


 へぇ、と短い相槌を打って、マサはごくりと唾を飲んだ。


 「それがだんだん近づいてきて、若い男の声がするんだ。どこですかー、隊長ーって言ってるんだよ…」


 また、ひゅるりと冷たい風が肌をすり抜けた気がする。目を見開き、じっとりと冷たい汗を流すマサを見ながら、ダイチは話を続けた。



 「戦争で死んだ若い兵士の霊が、今も隊長を探して歩き回ってるんだってさ…」



 ドキッと身を縮ませた友人を見て、ダイチはクスクス笑って、しまいには声をあげて笑いだした。

 「あはは! マサ、ただのウワサ話なんだからそんなに怖がらなくたって大丈夫だよ!」
 「ここここわくなんかねーよ! せっ、せっかくだから怖がってやってんだよ!!」
 「分かった分かった!」

恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にして怒鳴るマサを見て、彼は更に笑う。

 「ねぇ、今日はボクの家でゲームするんでしょ? 早く行こうよ! うち、今日は母さんたち遅くまで帰ってこないんだ」
 「おう! じゃあゲーム終わったら晩メシ家で食っていけよ。 かーちゃんに頼んどくからさ!」
 「ホントに? ありがとうマサ!」

 楽しい話題にすり替えようというダイチの考えは見事成功し、二人は彼の家で心行くまで新作ゲーム「KING OF STREET」を楽しみ、昼間の怪談のことなどすっかり忘れていた。



 それからマサカズの家で夕飯にカレーを食べ、ゆったりとバラエティ番組を見て、ダイチが帰る頃には夜7時を過ぎ、外はとっぷりと暗くなっていた。
 玄関口まで彼と彼の母親が見送りに出て、靴を履いているダイチに心配そうに言葉を掛ける。やはり、子供を遅くに、しかも1人で帰らせるのは心苦しいものがあった。

 「本当に送らなくて大丈夫?」
 「うち、すぐそこだから大丈夫です。晩ごはんとってもおいしかったです! それじゃ、ありがとうございました!」

 気を付けて、とマサカズの母親の言葉に笑顔で頷いて、自転車に乗って走って行った。


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あきゅろす。
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