5 探せ!「本当の」お兄さん!!
住宅地を抜け、一般道を抜け、ひっそりとした山沿いの道路に出た。幸いにして交通渋滞に巻き込まれることなく、2時間程度は走っただろうか。その間に何も話すことはなく、ダージングは黙って走り続け、マサカズは過ぎていく風景をただ見ていた。
着いた先の道路は交通量が極端に少なく、晴れているのに閑散とした空気が漂っていた。ダージングは道路の途中にある空き地に入り、マサカズを降ろしてロボットモードにチェンジした。
2人が改めて辺りを見回すと、背後には鬱蒼とした森が広がっていて、目の前には小さな田園。隣には掘っ建て小屋のような小さな平屋の建物に、砂利の敷いてある空き地には申し訳程度の自動販売機があった。
少年は一先ず自販機で冷たいジュースを買って、砂利の上で体育座りをしているダージングの近くに向かう。ちょうど彼の横にベンチがあったので、マサカズはそこに腰掛けた。
「で、どうしたんだよ。」
「……………兄さんが……。」
「兄さんが悪いんです!!」
普段大声を上げるような柄ではない彼が、ここぞとばかりに声を張り上げた。彼の声に驚いたらしい鳥達が後ろの森からバサバサと飛び去っていく。
「だって、だって兄さんが、仮にも銀河系警備隊の一員の兄さんが、あんなのでいいわけがないんです! 私は兄さんにもっと警備隊としての自覚をもってもらいたいんです!」
ダージングの話によれば、喧嘩が起こった日、彼が兄のレッシングに手合わせを願ったのだが、案の定ギターに夢中だったレッシングは生返事を返すばかりで相手にしてくれなかったという。
そこで彼が「敵ももっと強くなるかもしれないから特訓しましょう!」と誘ったところ、「そうなったら俺達に出番ねーYo。」と返されたことが発端らしい。
今日に至っては、仕事に身が入っていない様子にイライラしたのでついデルタサンダーで吹っ飛ばしてしまったということだった。
さすがにそれはやりすぎじゃないの、と訊ねたが、これくらいしていいんです、とそっぽを向かれたので、それ以上言わなかった。
「ま、なんか分かる気がするなぁー。」
「わっ、分かってくれますかマサカズ君!」
「オレもそーゆーときある!」
一見すると派手な見た目からノリがよさそうな感じがするレッシングが、後ろ向きな発言をしたことが許せなかったのだろうか、とマサカズは考えた。
彼自身ものんびり屋の姉を持っているので、自分と合わないということで喧嘩したくもなる。ただ、年の差もあることから、喧嘩をしても無駄ということを散々経験済みだったので、同性で年の近い兄弟というのはマサカズの憧れでもあった。
喧嘩の理由はどうであれ、それはきっかけがあればあっさりと終わってしまうことが多い。とりわけ、時間をおいてから話し掛けると相手もケロッとしていることが大半で、片方が取り越し苦労と言うことも稀ではない。
マサカズは経験則からそのように伝えようと思ったが、今回の件は先程の様子からして簡単にはいきそうもないと思い、口にするのをやめた。
「どうせなら優しい姉さんが欲しかったです……。」
「ぶふっ!」
膝を抱え、溜め息を吐く。
女の子になったレッシングを想像したマサカズは思わず噴き出しそうになった。レッシングが女の子だったら、二人が合体したライジングはオカマになってしまうのだろうか。そんなことになったら、いっそ他の兄弟が欲しい気がする。
………他の?
オレに良い考えがある!
何となく良くない方のジンクスが働いたような気もしたが、マサカズはひらめいた。ダージングの方を振り向くと、にっと歯を見せて笑う。
「そうだ、他のだよ!」
「えっ?」
ニブいなぁ、と少年は得意気に指を振ってみせた。合点のいかないロボットはきょとんと目を丸くして首をかしげる。
ダージングの様子を見て、自分がどんなにいい考えを思い付いたか威張りたくなった彼は、胸をそらして鼻を鳴らす。
「ダージングはレッシングがイヤなんだろ? だったら、もっといい兄ちゃんを探せばいいじゃんか!」
「そ、そうですね! いい考えだと思います、マサカズ君!」
「へへっ、じゃあさっそく探そうぜ!!」
「はいっ!」
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