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4 弟たちの共感
 マサカズを小脇に抱えると、猛ダッシュで公園の広場を突っ切った。

 ズドンッ!

 数十秒と経たずして、辺りには巨大な何かが地面と衝突した轟音が響き渡った。

 もうもうと砂ぼこりが立ち込める中、ゆらりと立ち上がる巨大な影が見えた。マサカズが咳き込みながらそれを見ていると、ぶわりと風圧で砂ぼこりは吹き飛ばされた。


 「チクショー! 何しやがるダージングッ!!」


 砂ぼこりが晴れると、レッシングが空に向かって吠えているのが見えた。
 しばらくすると、空からダージングが降りてきた。落下してきたレッシングとは違い、背中のジェットパックと足裏のホバーを使い、静かに着地する。


 「だって兄さんが悪いんですよ! 人の頭にガンガン鉄骨ぶつけてきて一言も謝らないんですからっ!!」
 「だっからそれは謝ったじゃねえかYO!」
 「いいえ謝ってません!」
 「いーや謝ったNE!」
 「謝ってません!」
 「謝ったYO!!」
 「謝ってません!!」
 「謝った!!」
 「謝ってない!!」


 ぜーはー、ぜーはー。
 肩で息をしながら謝ったの謝っていないのと不毛な口論をする2体のロボット。ぎりぎり奥歯を鳴らしながら、真正面に顔を突き合わせて睨み合う姿は、兄弟喧嘩というより宿敵との対決言った方が適切な気さえしてくる。
 そんな2体の様子に痺れを切らしたのか、マサカズを抱えたまま唖然としていたユタカが、彼を置いて2体の間に割って入った。


 「いい加減にしないかお前ら!いつまで子供みたいに喧嘩してるつもりだッ!!」


 まるで叱られた子供のようにびくりと跳ねるロボット。だって、と口を尖らせたが、いつになく怒りを露にしているユタカを見ると、バツが悪そうな顔をした。

 しん、と静まり返る公園。

 マサカズは2体に心底共感めいた気持ちになった。子供ながらに、というのだろうか。自分と波長の合う2体に、好意を持っていたからだったのかもしれないが、マサカズは自分まで叱られているような錯覚をしていた。
 それまでただ2体と1人のやりとりを黙って見ていたが、彼の中にだんだんとつのったやりきれない気持ちが、おずおずと彼らに近付かせた。


 「ユタカにーちゃん、もういいじゃん、そんなに怒んなくたってさ」
 「………」
 「レッシングもダージングも、ちゃんとごめんって思ってるよ」


 細い目が僅かに開かれ、マサカズを見る。つい先程まで、「兄弟喧嘩なんてそんなものだ」と笑っていた自分が嘘のようだ。怒鳴るつもりなどなかったのに、どうしたらいいのだろうか。
 ユタカは腕組みをしたまま暫く沈黙していたが、やがて腕を解いて頭を振った。


 「もう喧嘩なんてするんじゃないぞ、お前ら」


 踵を返し、項垂れて公園の出口に向かって歩いていくユタカに声を掛けられず、マサカズは建築兄弟とユタカを交互に見た。
 とにかく、このままではまた2体がバンテラーに叱られてしまうと思った彼は、いつになく重たい空気の中で口を開いた。


 「公園にいたら、目立つしさ、どっか行こうよ、なっ?」


 2体は顔を見合せたが、すぐに反らした。周囲の人間が落ち着きを取り戻してざわめき始めた頃、レッシングの方が先にビークルモードになり、公園の出口に向かって走り出した。
 後に続いたダージングは乗れと伝えたいのか、何も言わずに運転席のドアを開けた。マサカズも黙って乗り込むと、ダージングはエンジンを掛けて走り出す。


 「何処に行きますか?」
 「みんなに見つからなさそうなとこにしようぜ。」
 「……兄さんには内緒にしておいても構いませんか?」
 「いいよ、2人で行こう。」


 ありがとうございますと小さく返事をする。黙って頷く同乗者。まるで秘密を共有する悪戯っ子の共鳴。
 彼は兄にバックミラーで見付からないよう、タイミングを見計らって交差点で止まり、レッシングと反対方向に向かって発進した。


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あきゅろす。
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