3 兄弟喧嘩の勢いはトルネードの如し
ビーッ、ビーッ。
大井建設、と書かれた看板の向こうにある工事現場。注意音を鳴らしながら、ダージングがバックしている。
「オーライ、オーライ!」
黄色いヘルメットを被った従業員の男が誘導する。ストップ、と合図を送ったが、ブレーキをかけるタイミングが遅れ、走行していたレッシングと衝突した!
衝撃とともに大きく車体を揺した彼は、倒れるのを何とか踏み留まった。
「おいおい、気を付けろよダージング! 俺らはお前らみたく丈夫じゃないんだからな!」
レッシングの操縦席にいたユタカが顔を出して叫んだが、ダージングは何も言わずに作業に戻ってしまった。仕方ねぇなあ、と激しく鼓動を続ける胸を押さえながら座り直したユタカがレバーを動かしたが、今度はレッシングが反応しない。
「おいレッシング?」
ガチャガチャとレバーを動かしたり、エンジンを入れたり切ったりを繰り返すも、うんともすんとも言わない。
「おいおいどうしたってんだよ? ダージング謝らなかったからってふてくされてんのか?」
「………。」
「無視すんのはいいけどさ、後で2人とも謝っとけよ? ホント、お前らんとこはよーくケンカすんなぁ。」
ぽんぽんハンドルを叩き、からからと笑うユタカ。次の瞬間、ドアが開き外へ放り出された。
幸いにも地面は湿った柔らかい土で怪我はなかったが、何が起こったのか分かるまでぽかんと口を開けていた。
「なっ、な、何だってんだよ!?」
「おい三島ぁ! 何休んでんだ、キビキビ動けやーっ!」
「あっ、はぁーいッ!!」
親方にはっぱをかけられ、ニッカポッカについた土をほろう暇もなく、仕事を途中放棄してさっさと行ってしまったレッシングを追いかけた。
「ってことがあってなぁー。」
「えーっ、仕事のときもケンカしてんの!?」
そうなるナァ、と頬を掻くユタカ。隣のマサカズは気が気でない様子で話を聞いている。
ここはマサカズの家の近くにある公園。2人はベンチに腰掛けて、レッシングとダージングの建築兄弟の様子を話していた。バンテラーの話からすると、ケンカを初めてから今日で3日目になる。兄弟喧嘩にしては長続きする喧嘩に、銀河系警備隊の面々はお手上げ状態だった。
彼らが手伝いをしている工事現場の仕事に支障はないが、職場に拗れた人間(彼らはロボットだが)関係があると周りが気を遣ってしまい、精神的にストレスが溜まるという。
「こっちもお手上げなんだけどさあ。」
「どうにかならんもんかねー。」
「できてたら苦労はしてないんじゃないのー。」
はあー、と大きな溜め息2つ。考えても仕方ないなあ。ユタカは諦め半分でベンチから立ち上がり、頭を掻いた。それもつかの間、大きく一つ頷くと、マサカズの方に振り向いてにかっと白い歯を見せた。
「まっ、そのうち飽きて止めんだろ!」
「にーちゃん相変わらず気楽だなあ。」
「兄弟っつーのはなあマサ坊、喧嘩して喧嘩して喧嘩して、それでも最後はケロッとしてるモンなんだよ。」
マサカズの背を叩き、あっけらかんと笑って見せる。彼の長所ともいえる底抜けの明るさに、マサカズは子供ながらに感心した。とはいえ、事態を深刻に考えないととれば、その長所も短所となってしまうのだが。
気分も晴れたし、もう帰るか。晴れたのはにーちゃんだけだと思うけど。まあそう言うなって。伸びをしながら歩き出したユタカの背中を、少年が駆け足で追いかけようとしたとき、妙な音が聞こえた。足を止めて音がする方に顔を向けると、彼は目を丸くし、次いで顔を青ざめさせ、大慌てでユタカに駆け寄った。勢い余って固い背中に激突したが、鼻が痛いとか背骨に当たったとか今はそれどころの問題ではない。
「どうしたマサ坊?」
「どーしたもこーしたもないって! 早く! 早く!!」
ぐいぐいと背中を押す弟分にクエスチョンマークを飛ばしながら、だからどうしたんだと彼の頭を押さえ、辺りを見回した。ふと空を見上げると、黄色い物体が目に留まる。あれは何だろうか。そのまま見ていると、どんどん黄色い物体が大きくなってきた。
その意味を理解するまでたっぷり3秒ほど時間を要したが、その間にも正体不明の物体は距離を縮めてきている。
「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!」
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