人は絆されるものだと、苦笑い
ジャスライトは勢い任せに飛び出したものの、行く宛も、目的もなくただ歩いていた。
軍に居た方が、幸せだったのかもしれない。軍に居たまま、少しだけの疑問に悩んで居た方がマシだったのかもしれない。
――人を救うなんて、考えなきゃ良かった。
私は、何をしたらいいんだろう。答えを求めても、誰も答えてはくれない。答えをくれる人ですら、向こうに置き去りにしてきてしまったのだから。敵に回した数はあまりにも多すぎるのに、自分の味方は指折りもいない。それですら、今日日から折るほども無くなってしまいそうなのに。
「ねぇ、お兄ちゃん」
ふと声のする方を振り向いた。小さな女の子のロボットが手を後ろに組んで立っている。良く見れば、昼間にパンを渡した子だった。
彼は少しぎこちない笑みを浮かべ、少女の前にしゃがんだ。
「やあ、セシィ。……今は、お腹の足しになりそうな物は、何も持ってないんだ。」
空の両手を見せて、何も持っていないことを示すと、ちがうの、とセシィは首を振る。じゃあどうしたんだい、ジャスライトは首を傾げた。見れば、いつも一緒にいるはずの子供達はいない。
彼女はもじもじと体を揺すり、顔を赤らめて、隠していた手を出した。
握られていたのは、白い花。
「私に?」
「パンのお礼……。お店のお花じゃないけど、セシィ、いちばんきれいなの見つけたから!」
あげる、と元気良く差し出された小さな手から、そっと花を受け取った。
ジャスライトはくるりと花を回して角度を変えて眺め、彼女に向き直る。
期待と不安が混じり、きらめき、輝く目と視線がかち合った。
――今度は、心からの笑顔で。
「ありがとう」
「どういたしまして!」
彼が頭を撫でてやると、彼女は心地良さそうにその手に甘えた。手を離すと、少女は彼の頬に軽くキスをして、バイバイ言ってと走っていく。
彼は暫く、セシィが居た空間をポカンと口を開けたまま見ていた。
ゆっくりと思考が回転し始めてからやっと立ち上がる。ゆるゆると温かさの残る頬に手を当てて、手の中の花を見た。
「頑張らないと」
腿に搭載されたホルダーに花を収め、意を決した。いつまでも立ち止まっていてはいけない。歩き出さなければ。そして、掴むんだ。
「……でもまずは、謝らないとな」
こぼれた苦笑いは、いつもの彼のものだった。
前へ次へ
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!