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四.HURRY UP! BOYS AND GIRLS!
 大戦機島の東端で東国の大戦機達が動き出したのに対し、西端では西国の大戦機達もまた動きを見せていた。


 ずんずんと草が生い茂る森の中を進んでいるのは、西国騎兵団「Rose Of The Queen」の司令塔、ミシェル。女性としての性格を持ち、両肩には8発のミサイルを同時に発射することができる大型ミサイルポッドを装備、両腕には接近戦用の小型ハンマーが装備された重武装の大戦機である。


 「なんで! どうして! この私が! こんな野蛮な土地で! 蛮族の大戦機なんかと戦わなきゃならないのよ!」


 ずん、とまた一歩進んで低い草木を踏みつぶす。苛立たしげに辺りを見回して地団駄を踏むも虚しく、しんとした空気の中に声が飲み込まれていくだけだった。仕方ないと諦めた彼女は、深い溜め息を一つ吐いてレーダーを確認する。動いている敵は1体、他の2体には今のところ動きのないところを見ると、どうやら司令塔を倒す作戦ではないようだ。
 西国の大戦機はミシェルの他に、大型ミサイルや対戦車砲などの重装備を施されたパトリック、銃器を搭載し機動性に優れたヘンリーの3体である。重装備のために機動性の低いパトリックはスタンバイエリア付近で待機させ、ヘンリーと彼女で敵の司令塔を倒しに行く、という作戦を遂行していた。単純かもしれないが、早く戦争を切り上げるには最も手っ取り早い方法だ。


 「こんな蛮族共なんかさっさと倒してお家に帰るんだから! 9時間もあればどれか見つけて倒すなんて簡単なことじゃないの、叔父様達にいいとこ見せてやるんだから!」


 両手で拳を握り意気込んでいると、ミシェルと別れて行動しているヘンリーから通信が入った。もう敵と接触したのだろうかと思いながら回線をつなげると、通信回路をつんざくようなハウリングが頭の中に響き渡った。
 音量を調節して「いい加減にしなさいよあなた!」と一喝してから通信に出るとハイテンションな声がガンガンと響いてきたので、彼女はまた音量調節をしなければならなかった。


 「ヘイお嬢ぅぅぅ、そぉぉぉっちはどうだいぃぃぃ!」
 「五月蠅いわよヘンリー! こっちは思ったより地面がぬかるんでて進みにくいし湿気は多い、目標はまだ遠いしで最悪よ」
 「オレはぁぁぁツタに絡まっちまったぜぇぇぇ……」
 「何やってんのよアンタ! ホントに手間が掛かるんだから……そこで待ってなさい!」
 「おぉぉぉけぇぇぇいぃぃぃ!」
 「何がオーケーよ、ふざけないで!」
 「すまぁぁぁん!!」


 はてさて何やら騒がしいのぉ、と遠くから聞こえる声を訝しんで刀の柄に手を掛けたのは、偵察任務を遂行中だったシマ。ジャングルのように深く草が生い茂り、ツタが絡み合っている森の中で、辺りをぐるりと見回した。視覚がとらえる範囲に何もないことを確認すると、暫し瞑想にふける。
 彼がレーダーの範囲でとらえた敵は1体だが、声が聞こえる限りでは2体。聞き慣れない声があるとすれば、それすなわち敵であり、詮索の余地など必要ない。即断するや否や、彼は目標に向かって地を蹴って走り出した。
 このようなところに長居は無用、考えることは皆同じなのだ。



 森の奥へ進むと、何やら宙にぶら下がっている機体が見えた。西国の大戦機、ヘンリーである。手足をバタバタと動かしている姿は滑稽だが、どうやらツタに絡まって身動きが取れないらしい。
 シマは刀を一本鞘から抜き、キドカワに回線を繋ぎながら茂みに身を隠した。倒した方が後々のためではあると思いながらも、司令塔の作戦に影響がないように勝手な行動は慎まなければならない。数回のコール音の後に回線が繋がった音が聞こえたので、彼は先に用件を伝えた。


 「申す申す、こちらシマ、敵を発見し候。目下ツタによって足止めされているようだが、いかがいたす?」
 「もしもーし、こちらキドカワ。戦わなくて良いなら無視して結構、他に敵は見える?」
 「先ほど女子の声が聞こえたところからするに、もう一人いるらしい。距離はそれほど遠くないだろう」
 「了解、まだ始まったばかりだからね、敵に会ったら交戦は避けるように」
 「御意」


 回線を切り、身を隠したままその場を離れようとしたとき、一発の弾丸が頬の横を掠めた。


 「おのれ、間抜けと思っていたが気付いておったか!」
 「だぁぁぁれがマヌケだぁぁぁっ!?」
 「飛んで火にいるなんとやらとは良く言ったものよ! しかし生憎お主の相手をしている暇はないのでな、さらば!」
 「そうはぁぁぁいかねぇぇぇぜぇぇぇ!!」


 絡まっていたツタを引き千切って地に落ちると、ヘンリーは素早く体制を整えて腰の両脇に備えられたマシンガンを構えた。それに見向きもせず、シマは反対方向へと走り出す。数歩走った矢先、後方から降り注ぐ雨のような銃弾!

 深い森の奥に入られてシマの姿が見えなくなると、ヘンリーは小さく舌打ちをしてミシェルに回線を繋いだ。


 「お嬢、そっちに一匹虫が飛んでったぜぇぇぇ!」
 「了解、任せなさい! アンタは他の奴を探して頂戴」
 「イエッサーァァァ!」


 通信を切ると、図体がでかいくせにすばしっこい奴め、と敵が消えていった森を睨んで悪態を吐いた。戦争が終わるまであと6日もあるのだから、急ぐ必要はないのだが、目の前の敵を逃がしたことは大いにストレスを感じさせる。

 もう一度舌打ちをすると、彼はマシンガンを腰のホルスターに戻し、島の東端を目指して駆け出した。

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