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二.ドナドナは輸送車に揺られて響く
 がしゃんがしゃんと硬質な足音が狭い輸送車の中に響く。中の固定台によりかかっていた大戦機が音のする方に振り向いた。後方支援用に開発された東国大戦機師団の新型、タカハラである。ゴーグルの下からのぞく目をいっぱいに開けて、入ってきたシマを見た。


 「シマ、遅かったじゃないか!」
 「相すまん。何分人間の聞き分けが悪くてのぉ」
 「とか何とか言って、また大上所長に食って掛かったんだろ。キドカワさんは?」
 「データーのバージョンアップがどうのと言っておった。まあ直に来るであろうな」


 タカハラの隣の固定台の前に立った彼は、腰の両側に3本ずつ下げていた刀を壁に立てかけてから台に寄りかかった。輸送車の中は、彼らの他に大戦機用の武器や弾薬、簡易修復用の機材が積み込まれており、思ったよりも狭い。今は大戦機を入れるためにコンテナの扉が開いているが、発進するときには閉まるので、中は真っ暗になる。
 荷が積まれた今は3体が並んで立って精一杯という空間なのだが、タカハラは隣に立ったシマにくっつくなよ、と視線で訴えても気付いた様子はなかった。


 「もうちょっとそっちに行けないのか?」
 「これ以上は無理だと分からんか」
 「はぁー……せめて隣が女の子だったらなあ」


 そうだったらいいのに、と頭を垂れたタカハラを、シマがけらけらと笑う。無理な望みはしないことだと諭していると、またがしゃんと音がして、二人は扉の方を向いた。
 キドカワが外にいる人間に手を振って、中を進んでくる。どっこいしょと呟きながらシマの隣にある固定台に寄りかかると、それを確認したのか外側からコンテナの扉が閉められ鍵が下ろされた。中は真っ暗になったものの、赤外線で認識できるので特別問題はない。こういう時、彼らは「自分達大戦機は便利なものだ」と思うのだった。


 ガタンと大きく揺れ、エンジン音がコンテナの中に響いてきた。輸送車が出発したことが分かると、一瞬空気がピンと張り詰める。それを察したのか、すぐさまキドカワがタカハラに話し掛けた。まだ始まってもいない戦争に緊張するのは不要な疲労を増やすだけだと彼は考えたのだ。


 「タカハラちゃんはこれが初めてだっけ?」
 「えっ、あっ…はい」
 「初めての相手が西国なんて、それも大変な話だねえ」
 「相手は最新鋭の大戦機って聞いてますけど、やっぱり大変な相手ですか?」
 「西国は4国の中でも最強と謳われる国、簡単に倒せるとは思ってない方が妥当なんじゃない? まあ腕が吹っ飛んでも泣かないことだね。ねえシマちゃん」
 「全くその通り、作戦も戦地に着かねば立てられぬ。ははは、めでたいかなタカハラ殿の初陣だ、存分に活躍召されい!」
 「シマ、キドカワさんの足撫でながら言うな。嬉しくない」


 白い目で見るタカハラの視線もなんのそのという具合で、シマはキドカワの太ももの辺りをさすっていた。先ほど真面目に話しながら撫でられていたというのに、特に反応もせず会話していたということになる。とはいえ、シマがキドカワにセクハラまがいのことをしているのはいつものことで、今更言うだけ無駄と思っているだけかもしれないが。
 もうシマちゃんの変態。よいではないかよいではないか。おやめくださいお代官様ぁー。ああ、大丈夫なのかこの人達は。隣で聞こえる寸劇を聞いて笑いながらも、若い大戦機は「できるなら生きて帰りたい」と頭の片隅で考えるのだった。



 輸送車に揺られること三時間、輸送機で運ばれること二時間を経て、大海の孤島「大戦機島」に到着した。
 積み荷を降ろし、最終チェックを済ませると人間達は早々に引き上げの準備を始める。戦争中、人間が島に立ち入ることは禁止されているからだ。これから先人間と関わるときは、戦況の報告をするか、降伏を迫られた時くらいである。
 戦争を行う国の準備が整えば、合図が出るまで待機することになる。慌ただしく準備が終わると、輸送機は離陸して山のような積荷と大戦機だけが島に残された。
 去り際に頑張ってこいよ、とクルーの1人が親指を立てて笑ったので、タカハラが同じようにして返した。


 「今週の雑誌捨てないでくれよー!」
 「タカハラちゃん読んでるの?」
 「はい、発売日は一緒に」
 「何と嘆かわしい!!」
 「はいはい、シマちゃんは放っておいていいから準備しようねタカハラちゃん」


 まずは武器の準備だとタカハラを引き摺っていくキドカワに気付かず、シマは延々と人間に対する悪態を吐いているのであった。


 さあ、西国を相手に、いよいよ戦争の幕開けである!




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あきゅろす。
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