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一.いざ行け東国大戦機
 東国大戦機研究所、通称東大研は、東国の内陸部に位置する巨大施設である。ここでは日々大戦機のための技術が研究・開発されており、大戦機の動作テストなども行われている。現在は間近に迫る「戦争」へ向けての準備が進められているところであった。



 東国は世界の中でも閉鎖的な国であり、大陸としては北国、西国よりも狭い土地ではあったものの、その中では独自の文化が築かれ、唯一ともいえる貿易相手の西国から輸入した機械技術を発展させて大戦機を開発している。

 しかし、他3国からは世界会議の折に触れて他国との貿易を迫られていたが、西国以外では僅かに北国と南国に港を開けた後はほとんど受け付けていなかった。そのように開かれない文化が災いしたのであろうか、貿易相手の西国からついに市場を拡大するように申しつけられたのだった。

 先進国である西国から無条件での市場拡大を申しつけられた東国だったが、首を縦に振るはずもなく、条件付きでの市場拡大の案を提出。しかしそれも受け入れられず、ついに西国から宣戦布告を申しつけられた。このようなあらましをもって、東国と西国による戦争が開始されることとなったのである。

 戦争は大海の孤島「大戦機島」で行われ、戦争に参加する国は原則として3体の大戦機を投入しなければならないと規定されている。この戦争を管理しているのは「世界大戦機戦争統制機構」という組織である。度々繰り返される戦争で、大戦機島自体が破壊されてしまわぬように戦争ごとの間隔を持たせることもその役割の一つである。





 さて、東大研の地下格納庫では戦争で使用される大戦機の整備が行われていた。
 東国大戦機師団「マヒルノ」の大戦機は現在4体。今回出撃するのは接近戦に特化されたシマ、遠距離から射撃による支援をするタカハラ、そして彼らを指揮する司令塔のキドカワである。キドカワより以前に司令塔を務めていたシジュウローは、機体が古くなったために一線を退き、彼ら後継機達の指導に当たっている。
 3体の整備のうち、1体は既に整備を終えて輸送車に乗り込んでいたのだが、研究員達は頑として戦争に行かないと騒ぐ大戦機にほとほと手を焼いていた。


 「おいシマ! 早く輸送車に行かんか!」


 研究員用のデッキに上り、シマと呼ばれた大戦機に向かって怒号を飛ばしている人物は、東大研の所長兼東国大戦機師団「マヒルノ」の指揮官、大上勝(おおがみ まさる)。鼻の下に髭を生やした大柄な男は、目一杯拳を振り上げて騒ぎ立てている。
 対するシマは今にも飛びかかっていかんばかりに肩を怒らせ、腰に差した刀を抜こうと手を掛けた。シマは人間が嫌いで、特に大上をよく思っていなかった。彼の隣では同じく大戦機のキドカワが心底迷惑そうな顔をして飛んでくる唾を払っている。5mはあろうという巨大なロボットまでデッキから唾が飛ぶとも考えがたいが、要は「あまり騒ぐな」という態度を暗に示しているのだ。


 「己が拳を振るわぬ戦いの何が戦争ぞ!? 意気地の無い類人猿が語るでないわ!」
 「その類人猿に作られたのはどこのどいつだ!」
 「某は作ってくれと頼んだ覚えはない!」
 「何だとこの恩知らず!」
 「お主が言えた立場だと思うてかこの恥知らず! 貴様も武士の血を引く人間ならば神風特攻して敵陣に穴を空けてこんか!」


 売り言葉に買い言葉。火に油を注ぐ勢いで炎上していく会話に、キドカワは溜め息を吐く。目ざとく見つけた大上がじろりと睨み付けたので、キドカワは視線を逸らした。
 人間という生き物は悪口だけはしっかり聞こえるのだから厄介だ。彼はというと、戦争に関するプログラムのアップグレードを行っているために身動きがとれないので、大戦機を目の敵にするような大上の声をシャットアウトするために集音マイクをオフにした。それでもなおガミガミと噛み付いてくる所長を気にしないようにして、シマに声を掛ける。


 「シマちゃん、大上さんの血管切れちゃう前に早く行ったげて。私はこれが終わったらすぐに行くよ」
 「相分かった」


 食らい付くかと思いきや、彼はキドカワの一言にあっさり返事をした。
 この野郎! と大上が吠えるのを尻目にシマはさっさと地上行きのリフトへ向かうのだった。


 「チッ、機械に自分で考えさせるようにさせた奴の面を拝みたいね」
 「鏡見たらいるんじゃないの? 少なくとも、形は同じだと思うよ」
 「可愛くねえロボットだな! 人間様に口答えすんな!!」
 「人間が人間様って言わなくなったら考えてあげてもいいね」


 どいつもこいつも、とぶつぶつ言いながらデッキを去っていく大上の背に、振り向いたシマはあかんべーをするように目元に指をやった。
 全くもって呆れてしまう、とキドカワは溜め息を吐く。多かれ少なかれ人間という生き物は自分達が一番上にいないと気が済まない生き物なのだ。それが気に食わないというシマの気持ちは分からないでもないが、面倒事を好まない性格の彼はどちらにも関わりたくないと思うのだった。

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あきゅろす。
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