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彼がここへ来た理由



 ――郊外の工場で機械が謎の暴走、脱走したロボットの行方掴めず。





中央公園のゴミ箱から拾ってきた新聞の3面記事を読みながら、水を飲んでいたジャスライトが顔をあげ、帳簿を付けるために算盤を弾いていたバイコートに話し掛けた。


 「軍も大変だな、おちおち寝てもいられないらしい。」
 「この所随分見廻りが厳しいですからねぇ、あっしらも余計なことは出来ませんや。」


 今日の朝食はパン1枚と軍御用達の固形食。はっきり言って、不味い。軍に身を置いていたジャスライトも、好んで食べようと思う味ではなかった。軍の食堂の食事も固形食よりましとはいえ、不味かったが。
 パンを一口かじり、バイコートが帳簿を付けるのを横目で見ながら、ジャスライトはまた新聞に視線を落とした。誰の公開処刑はいつだ、お悔やみの記事、軍の予定表、そんな記事ばかり載っている。彼は首を振ると新聞を閉じた。セントラルに従順で身分証を持つ者だけが生きる権利を与えられている、といっても過言ではないだろう。


 「軍は恐ろしいね。」
 「あっしはそれに食って掛かろうって旦那の方が恐ろしいね。」


 バイコートは算盤をしまって帳簿を閉じた。一息吐いていると、ようと軽く挨拶して非公認の新入りとなったG=ゲインが入ってきた。

 1階の椅子は2つしかなかったので、ジャスライトが避けようとしたが、彼は無言で座っていろと手で合図すると、手近な箱の上に腰を降ろした。
 あれから話はしたものの、バイコートは彼を同居させることを頑なに拒んだので、彼は適当に雨風をしのげそうな場所を探して過ごすことに決めたらしい。とはいえ、日中はこうして二人の所へやってくる。


 「そういえば、ゲインは何故エストランドからセントラルに?」


 素朴な疑問を述べたが、ジャスライトは慌てて「嫌ならいいんだ」と付け加えた。大陸を渡って連行されてきたゲインの、ナイーブな部分に触れてしまうのではないかと思ったからだ。
 しかし、ジャスライトのそれは杞憂だったようで、ゲインは「そういや話してなかったな」と笑顔で答えた。


 「俺はエストランドの集落を転々として昔話を聞き書きしてたんだよ。それが民をたぶらかす思想を広げてるとかでシェリフの野郎共がセントラルに通報したってわけ。まあモチロン他のもあるんだけど……、これが一番デカい理由だな。」


 エストランドの住民は定住するという概念が薄いため、殆どが群れを作って移動する遊牧民だという。そうでない者は放浪して街を渡り歩いるという。そのような理由から、エストランドで身分証を所持しているのは僅かな富裕層かシェリフという役人層で、大半は非所持者である。
 そしてゲインのその他の理由というのが、違法とされている賭場への出入り、飲酒、少々の女遊び……と、エストランドの住人の間では違法と言われても行われているらしいが。それを聞いたバイコートは白い目でゲインを見たが、彼はあっけらかんと笑っていた。

 ひとしきり話し終えて一息吐くと、ゲインは壁に寄りかかった。


 「あっしはてっきり賭けに大負けして借金取りに追われて来たのかと思いましたよ。」
 「ギャンブルは生計立てるためにしてんだから立派な仕事だぜ?」
 「さあて、どうでしょうね。」


 にんまり笑うバイコートが頬杖をついて彼を見た。痛いとこを突くな、とゲインが苦笑。アンタはどうなんだよ、とゲインが切り出す前にバイコートは立ち上がり、「ちょっと出掛けて来ますよ」と言って歩き出した。
 2人は彼が出て行った半壊したまま手付かずのドアを見て、ふうと溜め息を吐く。


 「教えてくれたっていいじゃねーか」
 「弱味を握られたら商売上がったりだ、って私にも言ってくれませんよ。」


 そんなもんかね、とゲインが壁にもたれたまま腕を枕にして寝る体制になったので、ジャスライトは黙ってタオルケットを掛けてやった。



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あきゅろす。
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