強制立ち入り調査お断り
ドンッ!
下の階から何かが割れるような音がして、驚いたバイコートは階段を駆け降りた。粉々に砕けたドアを見て、わなわなと拳を震わせる。この大馬鹿野郎共め!
「人ん家になんてことしてくれんですかい!」
ドアの残骸の上に立っているのは先ほどジャスライト達が見た軍人達で、彼の目の前にいる者を含め5、6人ほど。
「コイツがココに逃げ込んだのは分かっている! さっさと出した方が身のためだぞ!!」
一番前で立っている大柄でいかにもリーダー格の男が怒鳴り散らした。
首を傾げるバイコートの顔の前に突き出されたのは一枚の紙。見れば政府発行の手配書だった。しげしげと眺めた後、男の腕から紙をひったくり、小間切れに引き裂いて放り投げた。
「そういうことなら話が早ぇや。情報が欲しけりゃこれくらい持ってきて貰わにゃ話になりやせんぜ。」
そう言って右の親指、人差し指、中指を立て、左の手のひらを出した。後ろに控えていた軍人達は顔を合わせ何か話していたが、手前にいた数人は怒りで顔を歪ませて突っ掛かってきた。
「ふざけるんじゃない!」
「こっちが誰か分かってやっているのか、私たちはセントラル軍だぞ!!」
「出せないんだったらとっととお帰りくだせぇ。こちとら商人だ、タダ働きは御免被りたいんでね。」
ウエストバッグから煙草を1本取り出してマッチで火を付けると、彼はそれを吸いもせず手近にいた大柄な軍人のアイモニターに押し付けた。
じゅっ、と小さな音を立てて火が消える。
「うあぁ!!? わあ! うあぁああ!!?」
メインカメラを手で押さえ、熱さと痛みにのたうち回る軍人を尻目に、彼は煙草を咥え火を点け直した。
「さ、旦那方、表に出ておくんなまし。土足と野次馬は厳禁なもんで。」
背負っていた算盤を一つ取り出すと、脇に抱えて歩き出す。ミシリミシリと一歩踏み出す度に悲鳴を上げる床板をお構いなしに踏みつけて。
「おい、大丈夫かよアイツ。」
「さ…さあ…彼が喧嘩した所なんて見たことありませんから…。」
2階から様子を見ていた2人は手すりから身を乗り出していた。
軍人達とバイコートを代わる代わる見ていたゲインが立ち上がり、ひょいと手すりを飛び越えた。
「ゲッ、ゲイン!」
「悪いね、俺が連れてきたようなモンだからよ!」
右のアイモニターでウインクしてみせる。
「全く! 皆、勝手すぎる……。」
一人残された彼の溜め息は外の喧騒にかき消された。
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