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上を向いて歩ければ、幸せだろうか

 「 う あ ぁ あ ぁ ぁ あ あ あ ぁ あ あ ぁ ! ! ! 」



 彼は狂ったように叫びながら背中の銃剣を鷲掴み、くくり付けていたベルトをブチブチと音を立てて引き千切る。


 「死ねぇえぇぇッ!!」


 グラッジバルドは突き出された剣先をひらりと避けてその背後に回った。 がら空きの背中を蹴飛ばし、倒れた身体を銃身で殴り付けた。

 頭を踏みつけて彼は甲高い声で笑う。


 「そうだ、アンタはそうなんだ! 軍から離れたらどうだ?誰がこんなイカれた野郎の仲間になるか!」


 そう言い放ち、更に顔面を蹴飛ばした。


 「う゛う゛ぅ゛う゛ぅ゛ぅ゛!!」


 ジャスライトはまるで獣のような唸り声を上げ、殺意に満ちてぎらつく眼を彼に向ける。


 「今回は見逃してやる。“世直しごっこ”はさっさと止めて、メディアルドでそのイカれた頭を診て貰ってこい。ああもう身分証がないんだったな! ははははは!!」


 彼は口の端を吊り上げ、また目の笑っていない、歪んだ笑み。そして、ひとしきり甲高く笑うと背中にライフルを掛けながら表通りに去っていった。

 身分証は今や特権階級に許された許可証であり、それを持たない者は医者にはかかれないどころか、このセントラルで生きる権利すらない。


 ぎりぎりと歯を軋ませながら、じくじく痛む四肢に力を入れて立ち上がる。
 やり場のない怒りがぐるぐると頭の中で渦を巻く。


 「うぅぅ…あぁあぁぁあああ!!!」


 蹴躓きながら走り、有刺鉄線のフェンスを引き裂いて骸の山に飛び入った。積み上げられた茶錆赤錆の塊にざくり突き立てられる刃。

 骸の中に溜まった錆の赤水がびちゃりと飛び散った。突き刺し、突き刺し、突き立て、抉り、踏みつけ、飛び散り、踏みにじる。

 突然動きを止め、口をいっぱいに開いて息を飲み、彼はカメラアイを絞り解像度を限界まで引き上げて空を見た。


 朱に染まる身体、路地裏を細く照らす太陽、青く穏やかな四角い空。


 暖かい狂気がまた彼の時を動かした。



 「はははははハハ ハ は ハがが あ ガ アガ が ガ ァガ ガ ! ! 」



 まるで壊れたラジオのように笑い、濁った音を吐き散らしてジャスライトは骸の残骸の上に仰向けで倒れ込んだ。





 「気は済みましたかい、旦那」


 小さな起動音を立てて目を覚ました彼は、その問い掛けに顔だけ向けた。


 「アンタは一人じゃ到底やっていけないね、なんたってバグが酷すぎる。こりゃあっしもおちおち寝ちゃいられないさね。」


 破れたフェンスの向こうで背を向けたままバイコートが酒瓶を煽った。


 「未成年者の飲酒は禁止だ……。」


 掠れてざらついた声でジャスライトが言う。


 「そいつにはふたつばっかし間違いがある。あっしは未成年者じゃありゃしやせんし。」


 彼はまた酒を煽って口元を拭ってから一息ついた。


 「ジャンキーに適用されるのは、善くも悪くも刑法だけ。」


 言ってからようやくジャスライトの方を見た。意地の悪そうなカメラアイがきらりと光る。


 「悪法もまた法なりってね。」


 ジャンキーはどの法にも保護されないが、罪になる法だけは適用される。だったら盛大に破ってやろうじゃありませんか、という意味を込めてバイコートは振り向いたのだ。


 「……違いない、か。」


 伏し目がちにジャスライトが頷いた。


 「一丁旦那に肩貸してやるとしましょうかね。」


 えっ、と起き上がり、彼はバイコートを見た。彼は首を振り、大袈裟に片手をあげて首を傾げる。その口元には、かすかに笑み。


 「なぁに、気が変わっただけですよ。」
 「ありがとう、バイコート。」
 「あっししかいないからでやんしょ? セントラルの奴は恩着せがましくて嫌だねぇ!」


 君が一番頼もしいよ、と付け加えるとまた大仰な仕草をして、呆れたように言う。
 その言葉にジャスライトは苦笑いで返事をした。実際、今頼れるのは彼しかいない。


 「よろしく頼むよ。」
 「お任せを。」


 二人が空を見上げる頃には、四角い空から差し込む光が少し強くなった。

 せめて笑って明日が迎えられるように。



 →To be continued!


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あきゅろす。
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