お久しぶりです、こんにちは
ジャスライトは小さくなる背中を見送って、また足元に視線を落とす。
しゃがんで骸を抱えあげると、同じ様な骸が積まれた墓場にそれを置いた。墓場というのは壊されてしまったロボット達を捨て置く場所だから、彼はそう呼んでいた。
「弔ってやりたいのは山々だが、これで許してくれ。」
錆び付いて茶色くなった群れに触れてみれば、脆く崩れていく。
――私もまた、朽ちていくのだろうか。
答えのない問いを横切らせながら、彼は死者達に十字を切った。
(いつかこれを金にならない慈善事業とバイコートに言われたな。)
ふと笑みをこぼして踵を返すと細い小路の奥に影が一つ。
じわりじわりと近づいてくるが、バイコートにしては帰りが早すぎるし、シルエットが細い。日向に出て見覚えのある――正確には忘れたくても忘れられない――その姿を見て、彼は名前を呼んだ。
「グラッジバルド。」
背筋は糸を張ったようにまっすぐで、腰は蛇腹になっている。足先は鳥のように前に2つ、後ろに1つの支えになっている。
かつての部下を見て顔を背けた。合わせる顔など、持ち合わせていなかったから。
「これはこれは“隊長殿”!」
嫌にへりくだった、捻くれた台詞。
舞台を歩く役者のように大袈裟に両腕を広げ、大仰に首を振り振り歩み寄るの彼は、ジャスライトに似た姿の軍人。口許には歪んだ笑みを浮かべ、背中にくくりつけたライフルを取り出した。
「ここも随分治安が悪くなった。」
返事もせずに彼は話始めた。空を見、ぐるりと見回すと、手元のライフルに視線を落とした。
「何処かの誰かがお始めなさった救貧院には未だに人が詰め寄る始末で、軍は弁明と事の揉み消しに奔走している。」
トン、とライフルの銃口で軽く地面を叩く。
「おまけに脱走兵と除隊兵の始末に下っ派はこき使われるときた。」
ちらり、視線。
脚で銃口を蹴り、弾き上げた勢いのままそれをジャスライトの胸に突き付けた。
「全くとんだ置き土産を残してくれたものだな。」
「今の私には関係ない。」
「昔のよしみで可愛い部下を救ってくれよ隊長殿。」
ゆらりと覗き込んできた視線に見えたのは、暗く冷たい水の底のように淀んだ色。動揺に揺れるジャスライトの眼をグラッジバルドは逃さない。
「背中のブツは飾りかい?」
囁いて、錆色に光る彼の背中にある銃剣に視線を流す。それに釣られて恐る恐る見れば、背中で笑う剣先。
逃げ出したい。
早く、早く、もうやめてくれ。
視線を外そうと戻せば冷たい眼。
後ろには背徳。
その間には、屍の群れ。
思考回路が焼き切れそうなほど痛み出す。
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