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拝啓、セントラルの路地裏より
 華やかな表通りを一歩抜ければ、そこは薄汚い裏通り。セントラルの管理下にありながら、無法地帯の路地裏。

 その日暮らしで精一杯な者達が日々争い、時に殺し合い、弱者を食い物にする。




 弱肉強食が、彼らの暗黙の了解。




 数体のロボットが輪になり、その中心に向かって脚を動かしている。背を丸めた細身のロボットが、為す術なくいたぶられていた。いつしか動かなくなったのを見届けて、外装を剥ぎ取り、エンジンをもぎ、使えそうなパーツを片っ端から取る。全てが終われば何事も無かったように散り散りになり、残っているのは無残な姿の残骸。



 かつかつと歩み寄り、そこに屈み込んで、十字を切るロボットがいた。

 赤黒いボディカラーで、頭には軍帽を模したパーツ。腰にはサーベル、背には銃剣を括り付けた、いかにも軍人のようなロボット。ただし、胸にあるはずの階級章はえぐり取られていたが。


 「ジャスライトの旦那ァ、何かイイモンありましたかい?」


 そう呼んだのは緑色のロボット。耳当てのついた帽子を模したパーツを付け、顔より少し幅広のゴーグルを付けていた。上半身はやけに分厚い装甲で算盤を2つ背負っている。後ろから投げられた質問に、ジャスライトと呼ばれたそのロボットは立ち上がり、振り返った。


 「何もないよ、バイコート。どうやら事後のようだ。」


 そのようですねェ、と間延びした相槌を打ちながらバイコートと呼ばれたロボットが反対側から覗き込む。
 そして、横たわる骸に手を突っ込んでガチャガチャとほじくり回した。


 「ただでさえジャンクだってのにこれじゃクズ以下さね。…とりあえず、お零れ頂戴といきますか。」


 使えそうなパーツをいくつか取り出し、地べたに並べる。

 腰から算盤を取り出すと、買い取り値の計算。安値だ過ぎだ、と軽く舌打ち。毎日食を繋ぐので精一杯だ、と愚痴をこぼしていた彼の手が、ふいに止まった。ジャスライトは何事かと思って言葉を待っていると、彼は少し顔を向け見上げる目をぎらりと光らせた。


 「旦那は自分の手を汚さない主義ですか。それとも、へっぴり腰の弱虫野郎ですか。」


 ちらりと彼の背中を見遣る。

 何かを欲してぎらつく剣先が、薄暗い路地裏の中で光った。


 「私は、人の命を奪いたくないだけだ」
 「取らなきゃこっちが死んじまうんですよ。いつまでも甘ったれた夢見てないで現実を見ろってんだ。 死んだ奴の身体を売って買った飯を食ってりゃ、アンタも同罪さ。」


 ふと逸らした視線の先、足元に転がる亡骸。他人の糧の為に、奪われた命。


 「本当は、こんなこと、間違ってるんだ。」


 彼はぽつりと呟いて、ぎゅ、と拳を握り、唇を噛み締めた。
 貧困を止められるような強い力は持っていない。それでも彼は、弱者が虐げられる世の中を許すことは出来なかった。

 単なる理想主義かもしれないが、全てが平等であることが出来るように、世の中を変えたい。例えそれが、この国を統べている軍に刃向かう事になるとしても。

 バイコートは鼻で笑いながら、品を布袋に入れていた。
 彼はどちらかと言えば現実主義で、郷に入っては郷に従う性格だから、ジャスライトの話はいつも半分聞き流していた。

 だから危険が伴うようなことはしないし(ただし、今のところは)、自分の損になるようなことも、絶対にしない。ジャスライトは彼を卑怯な子悪党だと思うこともあったが、行き場のない自分を受け入てくれたから、根は優しいのだと思っていた。

 口から飛び出す台詞は、いつも厳しかったが。


 「綺麗言が腹の足しになるなら、こちとら苦労なんざしてねェですぜ。口先だけで喋ってないで、飯の種になるようなモンを拾ってこいってこった。」
 「落ちてないから苦労してるんじゃないか。」
 「ああ、それもそうさね。」


 しかし可哀相なこって、と彼は目を細めて空を見上げた。

 薄暗い路地裏を嘲るように、真っ青な空が広がっている。ぱっぱと土を叩き落とし、立ち上がる。


 「理想でも、綺麗言でも、何だっていい。私はこの路地裏を変える。そう決めたんだ。」
 「はいはい、ご自由に。」


 バイコートはひらひら片手を振って闇市の方に足を運んだ。

 また、それを売って、食料を手にして、帰ってくる。食物連鎖とは良くできた言葉だと思ってしまう。
そのものが自分の口にならなくても、巡り巡って糧となって口に入るのだから。



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