見参!プラズマ合体、ライジング 3
マサを筆頭に三人と二体は「街の電線で切れた部分があるのではないか」と思い手分け探していたが、見つけられないでいた。
「っかしーなー…。どこも問題なさそうだよなァ。」
「あっ、何だろうアレ。」
マサがダイチの指差した先を見ると、空を走る青白い光。それは街からどこかに向かうように一直線に延びている。
バチンッ!
すぐ側にある電線が火花を散らした。焼き切れた送電線がアマネに向かって落ちてくる。
「きゃあぁっ!!」
驚いた彼女は甲高い叫びをあげた。電線が落ちる速度はゆっくりではあるものの、彼女は恐怖に足がすくんで動けない。よりによって、レッシングとダージングとは別行動をしている。
「アマネ――――――ッ!!」
「アマネちゃんっ!!?」
3人は固く目をつむり、顔を逸らした。
一層高く響く叫び声。
ああ、もうおしまいだ、助かりっこない!
諦めかけたその時、黒い影が彼女に覆い被さった。マサが指の隙間から恐る恐る覗くと、黒色のボディに、黄色のエンブレムの車が見える。
お世辞にもカッコイイとは言い難い、車体半分を変形させて、――普通の車ではない、腕だけ突き出した格好。
手の平の上ではうずくまるように頭を隠したアマネがいる。
「男子たるもの、女性の危機に何も出来ないとは、呆れたものですね!」
彼女を安全な場所に降ろして腕を仕舞い、いかにも上から目線で物を言う。こんな態度をする車は、世界中どこを探したってあの一台しかいない。
「ばっ…、バンテラー!!」
「そうですよ。アナタの友人を救ったんですから、少しはありがたく思いなさい。」
相変わらずエラソーに、とマサは苦笑いした。隣ではダイチがぽかんと口を開けている。
「……あの、どちら様ですか…?」
「生憎、地球人に名乗る名は持ち合わせていませんが…私の名はバンテラーです。詳しい話はいつか、今は急ぎの用がありますので。」
事務的で素っ気ない解答に、ダイチは思わず「すみません」と小さな声で謝った。
その横をマサがするりと駆け抜けて、バンテラーの助手席のドアを開けると素早く乗り込んだ。
「こっ、コラ! 降りなさい少年!!」
「オレは少年じゃなくてマサ! 急ぎの用なんだろ? 早く行こうぜ、バンテラー!」
早々とシートベルトを着け、準備を整えた彼を放り投げるわけにもいかず、バンテラーは渋々ドアにロックをした。
「マサ!」
ダイチがドアに駆け寄り、窓ガラスを叩いて呼ぶ。
窓を開け、彼の心配を余所にマサがにぃと笑顔で言う。
「ダイチとアマネはいつもの場所で待機だ!」
「バカマサ! 勝手に行くな!!」
「大丈夫、何かあったら連絡するって!」
「行きますよ少年、グダグダしてる時間が惜しいんですから。」
ギュウン…ッ!
バンテラーのエンジンが唸りを上げて、フルスピードで走り出した。あっという間に見えなくなった黒い影を見ながら、ダイチがぽつりと呟いた。
「連絡って、連絡手段持ってないじゃないか、マサ……。」
「ほんっっっっっとにバカなんだからバカマサは!!」
アマネはある意味身勝手なマサが腹立たしくて口を尖らせた。多少なりとも心配しているのか、眉は下がっていて、心細げである。
「……大丈夫だよ、きっと。」
「大丈夫じゃなかったら、ぶっ飛ばしてやるわよ。」
彼らが向かった先の道路を涙目ながらに睨み付けるアマネ。
――女の子って、コワイ。
ぷりぷり怒る彼女を見ながら、ダイチはそう考えた。
「で、バンテラーは今まで何してたんだよ?」
頭の後ろで手を組んでくつろいだ姿勢のまま、マサが尋ねた。確かに朝から見ていないので、何をしていたかは気になる。
「汚れた山海を見ながらのティータイムをしていたと言いましょうか。本当、ここまで汚すとは素晴らしい発展ぶりですね。」
「オレに言われても困るっての!」
「少しは地球を守ろうと努力なさい。」
「チェッ…オレ一人やったってしょうがないじゃん……。」
そっぽを向いて外を見る。
バチッ!
空を走る青白い稲妻と、漂う不穏な空気。郊外に向かう人気のない一般道路を、制限速度を振り切ってバンテラーは進む。
「先程イルリッツの信号をキャッチしました。恐らくこの停電も彼の仕業でしょう。」
「イルリッツ、ってこの前の?」
「そうです。一見アホに見えますが、彼の鋭い洞察力には目を見張るものがあります。」
褒めているのかけなしているのか、敵に対してとはいえ、何のためらいもなくアホというのが彼らしい。
どう考えてもけなしている気がしたが、マサはその言葉に素直に納得した。酷いと言えば酷いが、地球の環境を気にする辺り、本来の地球は美しいと認めているのだろう。
ただ、個人的な感情をあまり表に出さないだけだ。
きっと心根は優しいはずだ、と思いたい。
「作戦だけを見れば、多少の粗さに目をつむったとしてもなかなかの出来でしょう。」
それでも75点くらいですがね、と付け加えてバンテラーは鼻で笑う。マサは窓の外を眺めて、彼の態度にうんざりしながら「こういう大人にはなりたくない」と思った。
夕暮れに染まっていく街は、明かりもなく、まるで死んだように静かだ。
このまま電気が使えなくなったらどうしよう。テレビが見られない、ゲームもできない、夏にクーラーが使えない、パソコンだって使えない。
うっすら不安に襲われながら、また街を見た。
「Yo、隊長!」
スピーカーから聞こえた陽気な声に、マサがサイドミラーを見ると、ショベルカーとクレーン車が近付いて来るのが見えた。
ぱっ、とマサの顔が明るくなる。
「レッシング! ダージング!」
「Heyマサ! 遅れて悪いNe!!」
「我々も加勢します!」
2体はバンテラーの後ろにダージング、レッシングの順に並んだ。というのも、ショベルカーであるレッシングの方がスピードが出ないからだ。
「来なければ相応の処罰を考えていた所です。」
「そりゃないZe、隊長!」
平坦で厳しい言葉を笑って受け流したレッシングだが、その声はどこか引き吊っていた。
「まあいいでしょう、急ぎますよ!」
「「了解!」」
鬱蒼とそびえ立つ黒く巨大な影が、徐々に近くなっていく。ギュゥンッ、とエンジンを唸らせて、三体は一層スピードをあげて先を急いだ。
ダス・テットーネを包んでいた電気の層は次第に薄くなり、やがて消えてなくなった。しかしよく見れば、バリッ、バリッ、と帯電した電気が弾けるのが見える。
イルリッツがマントを翻して飛び上がり、ダス・テットーネの肩に乗った。
「よォし、行くぞダス・テットーネ! もはやあの街は死んだも同然だ! 壊して壊して、チリも残さず破壊し尽くしてしまえッ!!」
「テットオォォ―――ッテツビイィィ―――――――ッ!!!」
掲げた両腕からバチバチと青白い火花をあげながら、ゆっくりと動き出すダス・テットーネ。イルリッツは満足そうに目を細めた。
このままあのちっぽけな小都市に侵攻すれば、住人達は為す術もなく屈伏せざるを得ない。侵攻を妨げる黒いロボット達も街を守る理由がなくなる。
仮に奴らが守っているのがこの星だったとしても、一度勢い付いた相手を止めることは容易ではないはず。
今でこそ慎重な作戦を繰り返さなければならないが、これが済みさえすれば我々の思うがまま。
――やはり私の作戦は完璧だ!
「ハーッハッハッハッハッハッハァ!!」
イルリッツの高笑いが夕闇に響く。
それに混じって、遠くから音が聞こえた。高く唸りをあげるエンジン音が、確実に近付いてきている。
「テットン?」
足を止めたダス・テットーネが音のする方に振り返った。
「どうした、ダス・テットーネ! 早く行け!!」
苛立たしげに地団駄を踏むイルリッツも忌々しそうにその方向を見た。
「なっ…何だと!!?」
ハイスピードで緩やかな傾斜の坂を上り詰める3台の車、バンテラー達である。
「いつの間に…!! 急げ!奴らに阻止されては私の完璧な作戦が成り立たん!!」
しかしどんなに急ごうとも、ダス・テットーネはその巨体のため、車より早く動く事はできない。バンテラーが傾斜を利用して飛び上がり、少し離れた所でロボットモードにチェンジした。
「観念なさい、イルリッツ!!」
「フン、誰が貴様の言うことを素直に聞くものか! そんなに聞いて欲しいのならば、せいぜい犬にでも命令しているんだな! ハーッハッハッハッハァ!!」
敵であるバンテラーの言うことなど聞くはずもなく、イルリッツが高笑いと共に一蹴した。彼は軽く頭を振って、溜め息を吐いた。
「よくもまあそんなに舌が回るものですね、感服いたしました。」
「褒めてる場合かよバンテラー!」
足元のマサの声などどこ吹く風、彼は背中に手を回して剣を取り出した。くるりと手の中で回し、柄を握り直す。
「呆れているんですよ。」
「貴ッ様あぁぁ…この私を馬鹿にするのかッ! やれダス・テットーネ!奴等を粉々にしろッ!!」
「テッツ…ビィイ――――ッ!!!」
ダス・テットーネは先程までに体内に溜め込んだ電気を放出し、電撃をまとったゴム板状の腕をバンテラー達に向けて打ち出した。
「バンテラー!!」
「くっ!」「うわぁっ!」「たぁっ!」
3体は後ろに飛び退き攻撃をかわした。
焼け焦げてえぐれた地面を見て、マサはゾッとした。にも関わらず、バンテラーはこう叫ぶ。
「ボディに焼け跡がついたらどうしてくれるんですか!」
そこかよ! と遠巻きにマサがツッコミを入れたが、彼は素知らぬ顔で体制を立て直す。
「アレストフィールド、展開!」
バンテラーの言葉と共に『背景が降ってきた』。マサにはそうとしか表現できなかった。
彼ら達を囲むように、縦に長い長方形の『板』が降り注ぐ。
円を描くように並んだそれらが強い光を放つと、辺りは白く包まれた。
光が収まり、マサが恐る恐る目を開けると、そこには何度か見てきた巨大な法廷。
「なかなかの演出でしょう、お気に召しましたか?」
「いいセンスだ、殺すには惜しいな。」
それはどうも、と彼は小さく会釈をした。
「だがそれとこれとは話が別だ! やれ、ダス・テットーネ!」
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