登場!イカズチの兄弟ロボット 1 『謎の巨大ロボット、街を救う!』 新聞の一面を飾った見出しと写真はすぐに町内の話題の中心となった。 近所の住民がやってきて家の前でごった返している。というのも、バンテラーの足元にいたマサが、小さく写っていたからだ。 ご丁寧に拡大写真までつけて、説明文には『ロボットと一緒にいた少年』と書かれている。 現在母親が対処してくれているが、そのうち突破されるのは目に見えていた。 「これじゃ学校に行けないじゃん……。」 二階の窓から眺めてマサが言った。これが近所単位で済めばいいのに!と、心の中で涙する。 「しかたねーや、勝手口から出て裏山から行くしかねーかなぁ……。」 学校までこんな状態だったらバンテラーを見つけてとっちめて10円キズつけてやろ。ポケットに10円玉を2、3枚入れて、ランドセルを背負った。 下に行き、母親に小声で一言。 「そんじゃ、行ってきます。」 母親も小声で返す。 「気をつけてね。」 小さく頷いて勝手口を開けた。 人に見付からないように素早く裏に回り、隣家の庭を通って道路に出る。家が見えなくなるまで走る。ちらりと振り返り誰もいないことを確かめると、ほっと息を吐いた。 「テレビでインタビュー受ける人が羨ましいって思ってたけど、案外いいもんじゃないな。」 裏山の草むらを掻き分けていく。 青いビニルテープが巻いてある木から右に曲がり、木の間から学校を見ると、見たところ放送局の車が止まっていたり、新聞記者が入口にたむろしている様子もない。 「ぃよしっ!」 思わずガッツポーズ。 学校まではなだらかな坂になっていて斜面には青々とした草が生い茂っている。 「えーと、アレはー……あー、あったあった!」 がさりと草むらを掻き分けると、木の根本に青いプラスチック製のソリが隠されていた。以前ここに来た際、いつかある事をやりたいと思いマサが隠していたのだ。 そして今、念願の春スキーならぬ春ソリを実践する時が来た。 「よっ!!」 勢いをつけて滑り出す。 徐々に加速していくソリは、小高くなった下り坂を越えると一気に滑り落ちていく。 「ひぃやっほぉぉぉぉぉぉぉおおおおおう!!!」 このまま行けば学校の横道に出られる!と素直に下ろしてくれるほど世の中は甘くなかった。 ガツンッ! ソリの底に固いものが当たった、感じがした。 「えっ。」 そのままソリから投げ出されるマサ。 「おわっ! わわっ! わわわわわわ!!」 坂を転がり草まみれになりながら横道に飛び出した。腰をさすりながら、よくランドセルのフタが開かなかったものだと感心する。 ただでさえ遅刻だというのに、これ以上道草を食うわけにはいかない、と言葉通りマサは口に入った雑草を吐き出した。 「おい、マジかよ…」 生徒昇降口には既に鍵がかけられていた。 かくりと肩を落とし、仕方なく職員玄関から入ろうと足を運ぶ。 内側に人がいないか確かめ、静かに扉を開け、受付の職員に見つからないよう身を屈めて通り抜ける。 先生に「どうして遅刻したの?理由は?」と聞かれて「近所の人に家が囲まれて出られませんでした。」と言っても信じてもらえないだろう。 それくらいなら「寝坊しました」と言った方がまだマシだ。などと考えながら下駄箱まで忍び足で向かい、その陰に隠れて胸を撫で下ろした。 「今の所はジュンチョーだな……。」 後は2階に行き教室に入るだけ。 気は進まないが学校だもの仕方がない。マサがこうまでするのは先生に会うたび理由を話すのが嫌だからだ。 今回の理由を話して変な顔をされるのもまた嫌だったので、それを助長することになった。 授業中のせいか、静まり返った廊下を歩き、難無く教室に着いた。 ガラガラ…。 「先生ごめんなさー……。」 ガタガタッ!! どやどやどやどやどや! 周りに集まる人、人、人。 「なぁなぁマサ!昨日のロボットの名前は!?」 「どこで会ったの?」 「今度私にも会わせて!!」 先生に注意されようがざわめきが収まらない教室。 「コラァッ! 授業中は静かにしなさーいっ!!」 担任の女教師が一喝すると、生徒たちは渋々自分の席に帰って行った。 やっと静かになった、と席に着くマサは背中を何かでつつかれた。 「ん?」 「なぁなぁ、オマエあのロボットに乗ったの?」 マサはげんなりした顔で答えた。 「のっ…乗るわけねーじゃん……。」 本当はバッチリ乗ったのだが、後々面倒なことになると思ってあえて言わなかった。 それから休み時間や給食の間も質問は絶えず、マサは応答に困り果てた。 オレに聞くな!! って叫びたくなっても叫ばなかったオレってなかなか我慢強いな。などと自分を褒めながら迎えた放課後。 やっと開放された!と一目散に学校を飛び出し、校庭の脇を駆け抜けて道路に出て一気に横断歩道を渡り切る。 「ったくバンテラーのやつ! 次に会ったらこの10円玉でぎったんぎったんに……どわぁっ!」 マサの後ろを数台の車が猛スピードで走り抜けた。 「なっ、なんだぁ?」 見覚えのある黒い車が放送局の車を振り切ろうと必死に走っているように見えた。マサは思った、警察にスピード違反で逮捕されるのがオチろうだな、と。 「へへっ、ざまーみろってんだ!」 放送局の車に「ガンバレ!」と声援を送り、彼は足取り軽く通学路を帰っていった。 「しつこいですねぇ。」 全速力で追い掛けてくる放送局の車をサイドミラーで確認しながらバンテラーが言った。ゆうに時速80キロを超すスピードで商店街を走り抜ける。 周囲の人間が一人も怪我をしなかったのは、お約束ながらにも奇跡である。 店の外に出していた箱や商品を巻き上げながら、狭い小路に入り込み建物の角を急ブレーキをかけながら曲がる。 キキィッ! 鋭い音を立てて土煙をあげる後輪。 バンテラーの後ろを過ぎ去る放送局の車。暫く待って、追いかけて来ないことを確認すると溜息を吐いた。 「人間には本当に愛想が尽きますね。」 次へ |