見参!その名はバーンテイラー 2
「これがニンゲンとやらが作った矢倉か…。フン、小賢しい!」
高層ビルの屋上から電波塔を眺めていたダイペインが憎々しげに言った。
背後の気配に気付いて振り返ると、そこには銀色の鎧がいた。
「何の用だ、イルリッツ! これはオレ様の獲物だぞ!!」
イルリッツはワイングラスを片手に、中の赤い液体をゆらゆらと揺らしながら答えた。
「なに、貴様一人では心配だ、とテイオルド様が言うのでな。」
ダイペインは目を細めてイルリッツを睨みつけた。
「忘れ物だ。」
投げられた物を掴み取れば、無数の脚をうごめかす有機物のような機械。
「ベースギア……それがなくては始まらないだろう? フハハ、では私は高見の見物と洒落込むとしよう。」
厭味たらしい声色でダイペインに言うと、イルリッツはマントを翻してその場から消えた。
「畜生、いちいちカンに障る野郎だッ!」
ギュ。
握り締められたベースギアは苦しそうにうごめいた。
「よし、行くのだ、蟲! ニンゲン共を恐怖のドン底に陥れろォ!」
前方の電波塔に向かって勢いよく投げられたベースギアは、寸手の所で脚を伸ばして窓ガラスにしがみついた。
そして無数の脚をコードの様に伸ばして絡み付き、カメレオンの様に身体の色を変化させて電波塔と同化した。
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
ベースギアが見えなくなってから数分後、突然電波塔が震え出した。
「な…何!? 地震!!?」
「早く逃げろーッ!!」
人々が逃げ惑う様子を見下ろしながら、ダイペインは高らかに笑った。
「はーっはっはっは! 逃げろ逃げろ、早くせんと押し潰されるぞォ!!」
やがて電波塔全体が硬い鉄となり、手や脚、頭が形成された。
「全ては我々の理想郷実現のため!! さあ行け、デトパーンッ!」
両肩に巨大なスピーカー、頭は胴体の中央にあり、頭部のあるべき場所にはパラボラアンテナが構えてi
る。
そしてその巨体を太く短い脚ががっしりと支えていた。
「デットパアアァァァァン!!」
デトパーンは両腕を高く振りかざし、機械的で甲高い声を響かせた。
その途端、ショーウィンドウや窓ガラスがカタカタと震え出した。
カタカタ カタカタカタ カタ カタ カタカタカタ
バリンッ!
パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンッ!
次々と割れていくガラスの音と、恐怖から悲鳴を上げる人々の声。
ビルや店から逃げ出して来た人々が路上にごった返し、恐怖に染められていく街を電信柱の上から眺めながらイルリッツが言った。
「何と不粋な! 作戦というのは繊細で美しくあるべきだ!! …まあいい、単細胞には理解できんだろう!」
またマントを翻すと、そこにはもう彼の姿はなかった。
一方、バンテラーは珍しく交通量の少ない高速道路を走っていた。
「何やら、向こうが騒がしいですね。」
勿論彼は普段の交通量など知る由もない。
「向こう、って、周りにゃなんも見えねーけど……。」
「あそこの赤い看板の辺りですよ。高層ビルのせいで見えづらいですが、何か巨大なモノが動いているでしょう?」
バンテラーが計器横のディスプレイに拡大した映像を映した。
「んんっ……?」
拡大されてもやはりまだビル群が邪魔をして肝心なモノを隠していた。
暫くして、それは低いビルの上に現れた。
「なっ、なな、なんだありゃあぁぁッ!?」
マサカズは驚きのあまりに目を丸くして素っ頓狂な声を上げた。
しかし、バンテラーの反応は単調だった。
「正義の味方でないことは確かですね。急ぎますよ、少年。」
「確かに少年だけど、オレの名前はマサカズ!」
少年のツッコミを無視して、スピードを上げて高速道路を走り抜けた。
目的地に着くと、バンテラーは助手席のドアを開けて言った。
「さ、降りてください。」
「ヤダ。」
「………は?」
バンテラーは一瞬理解できずに聞き返した。
彼は今何と言った? 自分に対して口答えを? いや、そんな非常識的なことは有り得ない! あってはならない!
バンテラーが人間であったならば、こめかみには青筋が浮かび、口元は怒りで引き攣っていただろうことは間違いない。呼吸を落ち着けて、もう一度尋ねる。
「今、何と言いましたか? 嫌、と聞こえましたが。」
「ヤダって言ったんだよ! はいそーですかって見てられるかってんだ!」
バンテラーは暫く黙り込んだ。
マサは不安げに彼の言葉を待つ。
「全く!」
そう言って勢い良くドアを閉め、エンジンをかけた。
「どうなっても、私は責任を取りませんからね!」
「へへっ、そうこなくっちゃ!」
暴れるデトパーンに向かって急発進。
素早くその股をくぐり抜けて、そのまま変形して着地。
「銀河警察機構隊長バンテラー、ただいま到着!」
「出たなフルカラー!」
私は256色高画質か! というバンテラーの怒りのこもったツッコミを無視してダイペインは続ける。
「フン、今回の目的は貴様を倒す事だからな! 探す手間が省けたわ!! 行け、デトパーンッ!!」
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