見参!その名はバーンテイラー 1 「失敗したようだなダイペイン。」 薄暗く、広い部屋にノイズが掛かったような低い声が響いた。 「も…申し訳ありませんテイオルド様…しかし今回はただの様子見、次こそは…ッ!」 正座をして三つ指をつき、頭を下げたまま、ダイペインは弁解をした。 テイオルドはその様子を静かに、冷ややかな視線で見る。 やがて重い口を開いた。 「もういい、下がれ。」 「はっ…!」 立ち上がり一礼すると、重い足取りで部屋を後にしようとした。 「偵察ご苦労、ダイペイン。」 出入口に腕を組んで寄りかかっていたなめらかに光る銀色の鎧が上機嫌に話し掛けてきた。 やれやれと大袈裟に両手をあげ、言葉を続けた。 「しかし、どうやらその様子では…結果は思わしくなかったようだな?」 「イルリッツ…! 今回は凶兆だとあれほど言っただろう!!」 ダイペインが声を荒げた。 それを聞いたイルリッツは軽く鼻で笑った。 「ハッ、また得意の星占いか。女々しいことよ。」 「貴ッ様ァ…!そこへ直れ! 叩き斬ってくれる!!」 「宜しい、ならば相手をしてやろう…。貴様のその小汚い色には散々飽き飽きしていた所だ。」 「何だと!? オレ様だって貴様のその態度にゃ反吐が出るわッ!!」 剣を抜いて構え、互いに向き合うとそのまま睨み合いが続き、どちらが先に地から足を離すか、という一瞬だけを待っていた。 ダイペインの方が僅かに先に動いた。 振り上げられる剣と剣。 しかし、それは交わりはしなかった。 ギィン…っ! 重く、それでいて鋭い、金属のぶつかり合う音。 テイオルドの巨大な指が、二人の間に割って入ったのだ。 ゆっくりとそこから指を離した後には、ひび割れた床が姿を現した。 「二人とも…今は争っている暇はないんだ、いいな。」 「わ…分かり、ました……。」 「ぎ、御意……っ。」 「宜しい! さあ、次はどちらが行く。」 するとダイペインが意気込んで、我先にと名乗りをあげた。 イルリッツは出遅れたとばかりに拳を握り、何も言わずにその場を立ち去った。 「もう一度オレ様が! 次こそは、確実に仕留めてご覧にいれます!」 「ふふ、…では、任せよう。しくじるな、ダイペイン。」 「ご安心下さいテイオルド様。今日は吉兆…必ずや、あやつの首をお持ち致しましょうぞ!」 築山港の古倉庫前では静かに駄々ををこねる声が聞こえた。 「絶対に、嫌です。」 明るい日差しを反射して、より滑らかに光る黒が高級感を強調する。 この喋る車が銀河警察機構の隊長、バンテラーだ。 彼は更にまくし立てた。 「少年、これの何処がいい場所ですか。屋根は錆びて崩れかかっていて中は埃と黴だらけ! 貴方の目には視力がないか、それとも節穴なんですか!?」 耳を塞いで目を閉じていた少年が大きな溜息を吐いて、息を吸い込んだ。 「あのなぁ、日本のコトワザには"住めば都"ってあるんだぞ! 住めるだけいいだろー!!」 車はがたんと揺れてエンジンを掛けた。 「知りません知りませんなーんにも知りませーん! とにかくこんッ。」 海際に停まっていた事を忘れ勢いよくバックをしたところ、勢い余って海にジャンプした。 低い水柱が立ち、ぶくぶくと泡が出た。 マサは呆れた様子で海際に駆け寄って、水に向かって声を掛けた。 「ったくもー! じゃあどこならいーんだよー…。」 水中で変形して、水柱を立てつつバンテラーが現れた。 「ぶはーっ!! とにかくこんな所は絶対に嫌ですからね!!」 なんてふてぶてしいロボットだ! マサはアニメの「勇者」のような正義と使命感溢れ、敢然と悪に立ち向かうロボットとのギャップに驚かされたと同時に、この我が儘な態度に腹を立てた。 どっちが子供だか分かんないけど、地球の日本に関してなら生まれ育った分先輩だ。などと妙な自信を持ったマサは、少し考えてから新たな提案をした。 「分かった、分かったから! よし、じゃあウチに来いよ!」 バンテラーは頭に海藻を乗せたままぽかんと口を開けた。 そして若干目を細めた。 マサの言葉が信用できていない様子である。 「ウチの車になりすませば絶対イケるって!」 その言葉は根拠のない自信に満ちていた。 バンテラーは肩の辺りに乗っていた魚を指で摘んでは海に落としている。 いかにも人の話を聞いていない態度が丸出しだ。 「ふぅん。」 頭にへばりついた海藻をぺりぺりと剥がしつつ、気のない返事をした。 「まあ、いいでしょう。」 マサはそれでも嬉しくて仕方のない様子で、飛び跳ねてからガッツポーズをした。 「やったね!」 「で、私に何をしろと。」 オ レ の 話 を 聞 け ! ありったけの声で怒鳴り付けたかったが、機嫌を悪くされては元も子もないのでぐっと心の底に押し込んだ。 「オレん家のとーちゃんの車になりすますんだ。地球の車になれるんだから問題ないだろ?」 「ふむ、悪くない案です。」 ざばざばと海水を垂らしながらコンクリートへ足をつけた。 バンテラーはがしゃんと車に変形すると助手席のドアを開けた。 「では参りましょう。」 「うん!」 ドゥルン、とエンジンをかける音がして、バンテラーは急発進した。 次へ |