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七 甘煮えの砂糖水に浸る日
人が往来する遊歩道。

親子連れでにぎわう玩具屋。

人形芝居の自転車の前に集まっていく子ども達。

公園のベンチで笑いながら語らいあう親、友達、恋人同士。



白い屋敷の群れも古城も店も家々も、全てが夕焼けに赤く染められていく。

彼はその様子を、小高い所に建てられた公園から眺めていた。


砂場には無邪気な子どもたちの忘れ物。

黒ずんだ人形が入ったバケツ、砂山にささったままのシャベル、花壇の端に積み上げられた小石。

シャボン玉を吹いては追いかけていた女の子がふと止まった。

遠くから母親らしき人が呼んでいるのを聞いて笑顔で駆け出す女の子。

そうして仲良く手を繋いで帰る親子。

彼はその様子をぼんやりと見ていた。



「いないと思ったらこんな所に。いったい何やってるんですか、旦那。」

買い物ついでに彼を探していた青年の呆れた声で現実に引き戻された。

「散歩だよ。」

多少反応が遅れたが、微妙な返事。

ふうん、と興味なさ気な相槌を打った青年は、片手に抱えた紙袋の中からキャンディを1つ取り出した。

「わぁ、オレンジのやつだ。」

「何、飴玉1コで喜んでるんですか。」

彼はしばらく包み紙の両端をキャンディの捻ったりほどいたりしていた。


「ほら、夕陽。キャンディと同じだ。」

包みからキャンディを出して光に当てると、てらてらと光を反射した。

「旦那、いったい幾つですか。」

「公園に来ると子どもの頃が恋しくなるじゃないか。」

「別に。」

「はは、何てやつだ。」

「よく言われます。」

夕闇が町を包み込んでいく。

薄暗い中、何も言わずに帰り道を歩く二人。

ああ、いつまでも続きはしないだろう。と青年は思った。






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