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五 嘘吐きは嘘吐きの日に真実を言う天邪鬼
「色男、金と女はなかりけり。」

「力、だろう。」

「金も女も力もないえしょうに。あるのは達者な口と端正なお顔でしょうかね。」

湯気の立つコーヒーにミルクを注ぎ、くるくると渦を巻いて混ざっていくのを退屈そうに見ながら青年は憎まれ口を叩いた。

「ありがとう。」

心にもない礼を言う彼は読み飽きた本を特に読むわけでもなく1枚、また1枚とページをめくっていた。

「ああ、そうだ。」

「何ですか、旦那。」


「俺の余命が、今年いっぱいだそうだ。医者が言っていた。」


あまりにも唐突すぎて青年は意味を理解するまで時間がかかった。

そしてようやく言葉を発した。

「はは、何を、突然。」

「早く働き口を見つけておくんだぞ。」

ねえ、嘘でしょう。という言葉を喉の奥に押し込める代わりに、息をのんだ。

彼は後ろを向いてしまったので、表情はよく見えなかった。

「どっちが、辛いですか。」

「何と何の?」

「余命を知ってて生きるのと、殺されるのと。」

「どっちも辛いさ。」

でも、と付け加えて。


「どうせなら、最後はお前に頼みたいな。」


青年は片膝をつき、例の如く忠義の姿勢。


「我ら家臣、旦那様の冥府への旅立ちを心を込めてお見送りいたします。」

「ありがとう。」

彼の優しい声色を聞き、青年は唇を噛みしめた。





目の前が、霞んで見えた。






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あきゅろす。
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