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3 負けられない!
 2体の姿が見えなくなるのを確認し、バーンテイラーは改めてテイオルドと向き合った。
彼の胸では、集束されたエネルギーが渦を巻いている。

 自分も馬鹿野郎だ、何か策があるわけでもないのに意地を張っている。
これは勇気でも何でもない、ただの無謀だ。


「あくまでも私に刃向かうつもりか」
「俺が退けたらここがなくなっちめぇからな」
「人間に味方するか」
「いつまでもてめぇみてえな馬鹿野郎の相手ェするなんざ、アッ御免なだけよォ!」

「ならば、容赦はしない…」


 テイオルドの胸から放たれる白い閃光!
 海水を蒸発させながら向かってくるレーザーを、バーンテイラーはムラマサソードを構えたまま正面に見据える。

 こうなってしまえば、一か八かやるしかない。


「アァレストフィールドォッ!!」


 岸壁を守るようにアレストフィールドを張り、攻撃をフィールド内に収めようとしたのだ。
吸収しきれないのか、びりびりと空気が震え、衝撃がフィールドの外のバーンテイラーにまで響く。

 人間に被害が及ぶのだけは、防がなければ。


(人間を、助ける?)


 何故、という疑問がよぎった。
 人助けなど柄ではないと自覚はしていた。
それでも世話を焼いて「悪」と戦うのは自分のお節介で、「銀河系警備隊」という組織の一員として果たすべき使命だからだ。

 しかし、バーンテイラーが感じたのは自分の性分ではなく、「守りたい」という気持ちであった。
自らの疑問に答えをつける暇などなく、空間に入ったヒビに現実を突き付けられる。


「くっそぉおおおお!!!!!」


 バーンテイラーがヒビに向かって突進した瞬間、白い光が爆発した!

 夜明けを思わせるような明るい光がアレストフィールドに沿うように広がる。
 ライジングの中のモニターからその様子を見たマサカズが、身を乗り出した。


「バーンテイラー!!」
「戻れ、エイディオン!」
「仕方ない…!」


 マサカズとショーコをショーコの車のあるコンビニの駐車場まで送り届けると、車からダイチとアマネが飛び出した。


「どこ行ってたのよバカマサ!」
「それどころじゃねーよ! バンテラーがやられたかもしれないんだぞ!?」
「そんなのどうだっていいわよ! あんたどんだけ心配かけたか分かってんの!?」


 アマネの言葉に閉口するマサカズ。
隣ではエイディオンとダイチがショーコを車に乗せていた。


「ライジング、私はバーンテイラーの所に向かうよ」
「オレも行く!」
「マサカズ!」
「バンテラーだって友達だ!」


 今度はアマネが口をつぐみ、やりきれない思いが2人の間に漂う。
三人のことはライジングに任せ、マサカズを連れたエイディオンは再び港に向かった。

 港はほぼ無傷であった。
岸壁がテイオルドの放った攻撃で抉れた跡が生々しく残り、燻っていたが、それ以外に被害は見当たらない。
マイルス三世号も健在のまま停泊している。


「!! あそこ!」


 マサカズの指さした先に、海面に浮かぶ黒い機体が見えた。
既にテイオルドや戦艦の姿はなく、バーンテイラーだけがそこに残されている。

 急いで近寄って抱き起こしたバーンテイラーは、気を失っているのか、瞳の光は消えていた。
肩や腕の装甲は熱で溶かされ、角や胸部の飾りは砕けてボロボロで、あちらこちらの回路が剥き出しになってショートし、火花を散らしていた。
握っていたはずのムラマサソードは、僅かな刀身を残すのみで、彼の状態はテイオルドの攻撃の威力を物語っている。


「バーンテイラー、しっかりしろ!」
「バンテラー!」
「……エイ、の字…、坊主……」


 点滅を繰り返す瞳が、二人を捉える。動かしたくとも腕をあげることすらできず、バーンテイラーの間接の軋む音だけが聞こえた。
 バーンテイラーがひとまず生きているということは、中のバンテラーも生きているということで、二人はほっと息を吐いた。

 しかし、その様子が痛々しくて、エイディオンは顔を背けたくなった。バーンテイラーも目を合わせようとせず、視線はゆらゆら揺れる波を見ている。
 とにもかくにも、今は彼の修理が先だ。傷ついたバーンテイラーを抱え、エイディオンはゆっくりと立ち上がった。

 マサカズはいつもの覇気をなくしたバーンテイラーはまるで別人のようだと感じていた。
 気にするなよ、とも軽々しく言えず、適当な言葉を見付けられない。


「情けねぇぜ……」
「何言ってんだよ、町守ってくれたじゃんか!」
「俺は、アイツに、傷、ひとつ…付けられなかった……!」


 悔しいという思いが、バーンテイラーの弱々しくなった声から伝わってくる。
 勝てなくたっていいじゃんか、そう言おうとした口は、エイディオンの視線に止められた。
マサカズには、もう言わないでやってくれ、と言っているように見えたのだ。

 いつもの場所から港へ行くのは子どもの足では遠いのだが、エイディオンが飛べばあっという間の距離であった。
 岸壁にバーンテイラーを降ろすと、合体が解除され、半壊状態のバンテラーとデインローダーとなった。
エイディオンも合体を解除し、レスキューエイダーとファイヤーエイダーが両側からバンテラーを支える。


「とにかく中に運んで! ガードちゃんはリペアの準備してちょうだい!」
「分かりました!」
「任せたぞ、二人とも」


 いつの間にか改造された倉庫の中には、手術台のような装置が備えられていた。もちろんロボット用のサイズだ。
 バンテラーを台の上に寝かすと、レスキューエイダーがあれやこれやとコードや装置を付け、修理器具を持ち出してリペアが開始された。人間で言う手術のような光景だ。


「レスキューエイダーはお医者さんなの?」
「人間で言うとそれが妥当だろう。あいつは我々の修理やメンテナンスをすることが可能だ。ガードエイダーも簡易なリペアであれば可能だが、レスキューエイダーほどの技術は持ち合わせていない」
「ファイヤーエイダーは?」
「俺は救助が専門で、リペアは手伝い程度しかできない」


 修理器具を取るためにぐちゃぐちゃに引っ掻き回された荷物置き場を整理しながら答えるファイヤーエイダーは、いつもより饒舌だった。
 マサカズも、今は何も手伝うことができないので、大人しくファイヤーエイダーの近くで小さな部品を拾って片付ける。
 この際なので、少しだけ気になったことを聞こうと思った。


「なぁ、バンテラーとあの白いヤツって、兄弟だったのか?」
「隊長に兄弟がいたという情報は、我々も知らなかった」
「仲直りできないかな、こないだのレッシングとダージングみたいに」
「分からない」


 沈黙の間に、ヂィーンという鉄の擦れる音が響く。
 すげない態度のファイヤーエイダーに、マサカズは肩を落とす。自分も上に姉を持っていて、2番目だから、何となく他人事に思えなかった。
 バンテラーの修理に一区切りつけたガードエイダーから遅くなるからもう返った方がいいと言われ、ファイヤーエイダーが途中まで送っていった。

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あきゅろす。
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