[携帯モード] [URL送信]
2 バンテラーとテイオルド
「銀河系警備隊諸君、不甲斐ない部下が迷惑を掛けたことはお詫びする」


 テイオルドが一歩前に歩み出た。ホバーを使用しているのだろう、海は僅かに波立っただけだ。
 ゆっくりと近付いてくる巨体に後退りながら、ファイヤーエイダーたちは警戒を強めた。


「我々は人間の手からこの美しい星を救いに来たのだ」
「救いに?」
「そうだ」


 終始穏やかな調子のテイオルドに受け応えするのはファイヤーエイダーだ。
 すっかり暗くなった港の周囲からは、人の気配は消えていた。静かに波打つ海の音に乗せて、テイオルドは言葉を続ける。


「星というのはいずれ滅びるものだ。しかし、人間はその時をいたずらに早まらせている」
「だから救いに来たというのか?」
「ちょっとイイ男だからって、救世主気取りはいただけないわよねェ」
「レスキューエイダー、そういう問題じゃないですよ!」


 脇腹を小突かれ、分かってるわよ、と口を尖らせるレスキューエイダー。

 怪訝そうな顔をしたままのファイヤーエイダーは、この場をどう納めてよいか考えていた。
 地球を救いに来たというテイオルドの言い分も、分からないことはないのだ。
地球の情報を得るために、インターネット端末や放送電波を巡っていると、地球の環境問題はどこかしらで話題になっている。
 そもそも、その原因を作ったのは人間で、解決しようとあがいているのもまた人間なのだ。


「根本的に解決しない限り、地球は近い将来に滅んでしまう」
「星の寿命を延ばすために人間を滅ぼすというのか!」

「そうだ」


 テイオルドが膝をつき、ようやくその顔を見ることができた。
 バンテラーと同じく赤い色の瞳が細められる。視線の先にいたのはマサカズだ。
 自分は地球人代表でもなんでもない。しかし、彼は今テイオルドの前にいるたった一人の人間だった。


「オレ、嫌だからな」


 小さな声だったが、テイオルドは聞き取ったのだろう。細められた瞳がさらに細くなる。
 彼は自己主張する小さな人間を意外だと思った。何の力もない人間が、何故このように抵抗を示すのだろうか。


「絶対、嫌だからな!」


 恐怖に震える声を精一杯振り絞って叫んだ声は裏返ってしまったが、そんなことを気にしている暇などない。
 自分の命が、全ての人間の命が危険に晒されようとしているのだ。
 宇宙人にいらぬお節介をされて地球が助かるならともかく、自分たちが犠牲になっておしまいではたまったものではない。


「一寸の虫にも五分の魂、命は惜しいか…」
「惜しい、惜しくないの問題ではありません」
「バンテラー!」


 それまで黙ったままバンテラーが、先頭にいたファイヤーエイダーを押し退けて前に出た。
 やはり俯いたままで、少し前まであれだけ睨んでいたテイオルドを見ようともしない。


「誰に言われて来たのですか」
「私は私の意思にのみ従う」
「嘘おっしゃい! 貴方はそんな強い意思を持っている男ではない!!」
「言うようになったな、その成長が何よりも嬉しい」


 立ち上がったテイオルドが口にした言葉は、その場にいた全員を凍りつかせた。



「我が弟よ」



 全員の視線がバンテラーに向けられる。
 バンテラーとテイオルドが兄弟であるという事実は、銀河系警備隊にも伝えられていなかったのだろう。
 エイダーズのリーダーであるファイヤーエイダーでさえ、驚いた目で彼を見ていた。レッシングとダージングはしきりに顔を見合わせている。


「貴方とはもう兄弟でも何でもない!!」
「私への宣戦布告のつもりか」


 バンテラーは暫くテイオルドを睨んでいたが、何を思ったのか彼は飛び上がるとテイオルドの装甲を登り、顔まで辿り着くとその顔に手袋を叩き付けた。
 何のダメージにもならないその行為は、バンテラーなりの宣戦布告であった。


「何がどうあろうと、私は貴方の意思に従うつもりはない!」
「……いいだろう」


 テイオルドが後退し、踵を返して戦艦に向かっていく。
 この場はしのいだかと全員が安堵した時、彼が振り返った。

 腕を引き、鳥の頭を模した胸の嘴が開いくと、白い光を放つエネルギーが集束されていく。

 ――不味い!


「全員整え退避しなさい!!」


 ダージングがマサカズとショーコを乗せ、再びエイディオン、ライジング、バーンテイラーに合体した。
 テイオルドの力は未知数だが、自分たちの力を遥かに上回っていることは間違いない。

 エイディオンとライジングが港から離れようとしたとき、バーンテイラーだけがテイオルドのいる海を向いたまま動こうとしなかった。
 それに気付いたエイディオンが彼に向かって呼び掛ける。


「バーンテイラー!」
「エイの字、ライの字、てめぇらは先に行け!」
「無茶だ、お前一人では…!」
「いずれあの馬鹿野郎とケリ付けなきゃならねぇんだ、いつやったって変わりゃしねえよ」


 しっしっ、と払いのけるような仕草をして、バーンテイラーはムラマサソードを構える。
聞く耳を持たないのは合体前と変わらない。
 エイディオンは加勢しようとしたライジングを引き戻し、空に飛び上がった。


「エイディオン! バーンテイラーを見捨てるつもりか!?」
「落ち着けライジング、彼には彼の考えがある」
「しかし…!」


 マサカズとショーコを抱えている以上、今のライジングを加勢させる訳にはいかない。
バーンテイラー1人にこの場を任せることを不安に思いながら、エイディオンは港を後にした。

前へ次へ

2/4ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!