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1 それは悪の親玉
 段々と暗さを増していく夕闇の中、ダ・アークの飛行戦艦は不気味なほど沈黙を守っていた。戦う意思はないのだろうか。バンテラーは拳を握ったまま、僅かな変化さえ見逃すまいと睨んだ目を戦艦から離そうとしない。
 銀河系警備隊の視線が集まる中、ゴウン、と戦艦が音を立て、全員が武器を構えた。いよいよ痺れを切らした敵の親玉が乗り込んでくるのだろうか。

 遠目とはいえ、戦艦もかなりの大きさであり、それに乗っていたテイオルドも、バーンテイラーより巨大なのは明らかだった。
 ゆっくりと降りてくるデッキと、それに乗って微動だにしないテイオルドの白い巨体を注視する。

 だが、痺れを切らしたのはバンテラーが先だった。デッキが着水するや否や、足裏のホバーを使い海の上に躍り出た。
 テイラーソードを抜き、水を斬りながら突き進む。


「テイオルドォおお!!」


 人が変わったような覇気に、仲間たちは唖然としていたが、いち早く正気に戻ったファイヤーエイダーがその背に向かって叫んだ。


「戻れ、隊長!!」
「レッシングちゃん!」
「分かってるYo!」


 レスキューエイダーの声でレッシングが飛び出し、バンテラーの後を追う。
 レッシングはショベルカーに変形しながらも一番のスピードを誇る。


(これなら追い付けるZe!)


 バンテラーとの距離はぐんぐん縮まっていき、引き留めようとその腕を掴もうとした瞬間、寸手の差で相手が飛び上がってしまった。

 反動で飛んだ水飛沫を防ぎ、気が付けばテイオルドが目前にいた。
 レッシングは思わずその場に留まり、白い壁を見上げたが、その巨駆に阻まれ顔を見ることすらできない。

 顔色一つ変えずに様子を見ているテイオルドは、剣を振りかざすバンテラーに冷やかな視線を向けていた。


「たっ、隊長ぉお!!」


 レッシングが叫ぶも、バンテラーの耳には入らない。今はただ目の前にいる敵しか頭にないのである。
 振り降ろされた剣が角飾りに食い込んでも、テイオルドは微動だにしない。なおも斬ろうと力を込めるバンテラーを不思議そうに見ているだけだった。
 その反応のなさがバンテラーの神経をさらに逆撫でする。


「私を裏切ったお前を! 私は決して許さない!!」


 何も言わずに見据えていたテイオルドの巨大な掌がバンテラーを叩き落とす。まるで小さな羽虫でも相手にしているようだ。
 水柱を上げて海中に沈んだバンテラーを、レッシングが引き揚げて脱兎のごとく後退する。すっかり意気消沈したのか、バンテラーは頭を垂れたまま何も言わない。

 それまで微動だにしなかったテイオルドが、首を動かして周囲を見渡した。
 危険となるようなものを探しているというより、自分がいる場所がどのような場所なのかを確かめているような余裕のある動き。
 港にいる銀河系警備隊など、端から眼中にない様子だった。


「美しい場所だ」


 初めて口を開いたテイオルドから出た言葉は、侵略に来た敵とは思えない穏やかな調子の言葉だった。しかし、平坦な口調で、言葉からその感情を読み取ることは難しい。
 マサカズは記憶を辿り、アニメに出てきた悪役を思い出そうとした。

 「地球を侵略しに来た敵」というのは人間を罵ったり、正義の味方に宣戦布告したり、開口一番に自分たちの目的を高らかに宣言しているものではなかっただろうか。
 今まで戦っていたイルリッツやダイペインならそれによく当てはまるのに。




「ショーコさん、遅いね」
「バカマサのせいよ…心配かけるんだから……」


 ショーコのいない車内で、ダイチとアマネは膝を抱えていた。車は港の駐車場を出て、だいぶ離れたコンビニの前に停められていた。ここからでは、もう港は見えない。
 お腹が空いたら何か買ってね、と渡された財布だが、店員も逃げてしまったコンビニは明かりが消えていて利用できそうにない。


「マサ、大丈夫かな……」
「アイツが何かあるように思えるの!?」
「でも…」
「何でもかんでも悪い方に考えないでよ! アイツなんか、どうせ、帰ってたら「わりーわりー、ロボットがかっこよくてさー!」とか言うんだから」


 語尾に行くにつれ弱くなるアマネの声に、ダイチは彼女の背中を撫でた。
 口では何を言っても、彼女も同じように心配しているのだ。口ではよく喧嘩しようとも、友達を心配しないはずはないのだ。


「ショーコお姉さん、のんびりした人だから、まだ探してるのかも」
「……うん」


 見えない港に不安を募らせながら、二人は肩を寄せた。


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