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1. 楽しい?夏休み
 次々と生徒が呼ばれ、先生から成績表が渡されていく。席に座るなり誰もが成績表の数字に一喜一憂。算数、国語、英語の宿題と保護者あてのプリントを渡されて、机の上がいっぱいになる。
 それでも、明日から夏休みが始まるのだ。待ちに待った長い長い休日に教室はすっかり盛り上がっていた。


「さあ皆さん、明日から夏休み! 海や山、お祭り、楽しいこともたくさん待っています」


 わっ、と色めき立つ教室。楽しげな生徒達に、先生も思わず笑顔になる。


「でーすーが、皆さんは来年6年生になります。宿題もきちんとやって、かっこいい先輩になる練習にしましょうね!」


 えーっ、と一気にブーイングの声に変わる。


「それでは、今日はこれで終わります。皆さん、怪我や病気には十分気を付けて。後期にはまた、みんな揃って授業を受けられることを楽しみにしています」


 先生から諸注意が終わると、日直が挨拶をして下校となった。
 生徒にとっては嬉しいことに、この日は午前中のみで、教室から出ていく生徒達の口々からは夏休みの予定が次から次へと溢れてくる。
 気分はすっかり夏休みモードだ。

 みんな楽しそうだなぁ、とプリントを整理しながら入れていたダイチを、マサカズが横からつついた。


「ダイチ、夏休みどーすんの?」
「塾の夏期講習があるから…」
「マジで!? 夏休みくらい遊べよな〜」
「ダイチはアンタと違うの!」
「ちぇっ」


 荷物を置いて昼食は各々の家で食べてから公園に集合、と約束していったん家路につくことにした。

 午後、公園に集合した3人は行き掛けに駄菓子屋で買ったアイスクリームを片手にいつもの場所へ向かった。


「おや少年少女たち」


 いつもの場所の倉庫前では、サングラスを掛けたバンテラーが悠々と足を組んでビーチチェアに座っていた。

 正面の海ではレッシングとダージングがビーチボールで遊んでいる。二人がいるということは、今日は仕事が休みか、二人を使わない作業なのだろう。
 来る度に物が増えているような気がしながら、日に日に大胆になっていくロボット達に驚きと呆れを隠せない。


「楽しそうだなおまえら…」
「どうやらナツヤスミなるものが近付いているそうなので、我々も便乗することにしました」
「マサカズ君たちもどうですか、楽しいですよバレーボール!」
「ダージングたちのサイズじゃちょっとなぁ」
「うん、大きすぎるね…」


 そうですか、と落胆するダージングの顔にビーチボールがヒットして、バランスを崩した彼は水しぶきをあげながら海に倒れた。
 当てた張本人のレッシングは腹を抱えて笑っている。


「バンテラーたちにも夏休みあるの?」
「あるわけないでしょう、平和に休息はありませんよ」


 そんなに仕事してたっけ?

 疑問には思ったが、マサカズはバンテラーが銀河系警備隊という組織に所属していたことを思い出した。
 宇宙の平和を守るヒーローに休みはないのかと思うと、何だか可哀想になってくる。


「ようマサ坊、ナツヤスミって何すんだYo?」


 ビーチバレーに飽きたのか、海から上がってきたレッシングとダージング。
 見た目によらず、レッシングはいかにも地球の外から来たらしい反応をしてくれるのが嬉しかった。
マサカズは地球の代表になった気分で胸を張る。


「夏休みっていうのは、ほら、アレだよ、あー……」
「長いお休みだよ、ボクらは遊びに行ったり、旅行したり、楽しいことをいっぱいするんだ!」
「そうそれ! 宿題もあるけどな」
「マサカズ君がいつもやってる書き物のことですね」


 いつもの場所に来ては宿題に頭を抱えるマサカズを見ているからだろうか、ダージングにはその印象が強いらしい。
 まあ、それだよ、と苦笑いで返していると、アマネがバンテラーの方を向いて目を輝かせた。


「ねぇ、バンテラーさんたちの星ってどんなところなの?」
「あ、オレも聞きたい!」
「ボクも!」
「黙秘権を行使します」


 つまんないの、と言いながらもしばらく夏休みの予定を話し合っていると、遠くの海に見えた影に気付いたダイチが指をさした。


「船!」
「あ、ホントだ!」
「けっこう大きいわねー」
「そう言えば、今日港に来るってテレビでやってたよ」

「「 行 き た い ! 」」

 ダイチの言葉にマサカズとアマネの目が輝いたのはいうまでもない。
いつもの場所から港まで徒歩で行くには時間がかかるため、明日行くことに決めた。
 もう少し夏休み前のわくわくする気持ちを楽しんでいたかったが、バンテラーから早く帰れコールが掛かったので大人しく退散することにした。



 バンテラーたちと別れた帰り道、商店街は夕どきの買い物客で人が増え始めていた。
 つい寄り道してしまうのは子どもも同じ。
通り掛かった電気屋のテレビから流れているニュースに、3人は何気なく足を止めた。


「今日の昼未明、各地のデパートやホームセンターからレジャーグッズが奪われるという事件が発生しました」


 ニュースキャスターの映像から、被害現場のデパートの映像に切り替わると、そこには地面から巨大な何かが現れたような穴と、レジャーグッズのコーナーが荒らされた跡が映し出された。
 唖然とした表情で見ていた3人だったが、マサカズが顔をしかめて。


「まさか……」
「バンテラーたちの敵の仕業かなぁ」
「悪者がそんなちゃちなもの盗むわけないでしょ!」
「それもそーだなー」


 考えすぎだよ、とダイチとアマネに背中を叩かれながら、マサカズたちは電気屋をあとにした。

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あきゅろす。
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