十.ごめんあそばせ!
「アレがクリスタルの入ってる容器だよ」
キドカワが指差した先には、岩に引っ掛かっているパラシュートとドラム缶のような筒が見えた。距離は500mほど先だろうか。
センサーで調べたところ、中身は空らしい。特殊な電波が出ていることも確認できる。彼はライフルを構えると、迷わず筒を撃ち抜いた。パン、と弾けて散った筒の破片が地面に散らばる。
「あとはこの作業の繰り返しだよ。本物は持ち帰ること、オーケー?」
「了解」
「あの筒は微生物に分解される素材で出来てるんだってさ、エコだよねぇ」
そんな心配、俺達がする必要ないでしょうに……こっちは明日の命も知れないってのに、呑気なもんだ。
不満そうなタカハラは、口ごもりながら「そうですね」と返事をした。雰囲気から察したのか、彼はそれ以上の与太話をしなかった。
「そうだ、タカハラちゃん」
「はい」
「地図、あげよっか」
今更か、と振り返った先に、指先から接続端子を出してにっこりと笑っているキドカワに悪寒さえ覚える。
直接のデータ送信を意味するそれは、人間で言えば注射と同義なのだ。つまり、若干の痛みを伴うのである。
「せっ、赤外線とかあるでしょ!?」
「ヤだぁ、パスコード面倒なんだもん」
さっきの腹いせか!
問答無用で腕を掴まれたタカハラは、接続口のカバーを開けられ端子を差し込まれた。データ送受信は一瞬で終わり、端子を抜かれた後にじくじくと痛みが残る。
追加されたファイルは地図と地形データ一式。詳細なデータゆえにサイズの大きなデータになるのは仕方のないことだが、痛いのはご免被りたいという目でタカハラはキドカワを睨んだ。
「はいおしまい。よく我慢できましたね〜、イイコイイコ」
情報量が膨大な時は、頭の中に実質義務教育の12年間を僅か数分の間で叩き込まれるようなもので、とても気持ちの良いものとは言えない。
そう考えれば、足元のふらつきだけで済んだのだからいいと思わなければならない。しかし、子供をあやすようなキドカワの口振りには腹が立つ。
「鬼! 悪魔!! 陰険!!! そういうのは先にくださいよ!」
「タカハラちゃん、あげたら先に行っちゃったでしょ?」
ぐ、と音に詰まる。
「慣れないうちはアヒルさんでいいじゃないの」
「何がアヒルですか、俺は大戦機です!」
「はいはい知ってますよ」
本物を見つけたら連絡して持ち帰るように再度伝え、キドカワは別のポイントへ歩き出した。
シマと合流するべく、タカハラもまた合流地点に歩を進める。
その足取りは、後ろ髪を引かれているかのようにためらいがちではあったが。
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