[携帯モード] [URL送信]
一 従者は主を赤く染めて
 を 主 は 者 従
















「あ。」


つい、と白い指を伝い落ちる赤。

傷は意外に深かったようで、じんじんと鈍く痛んだ。


「血、止めないんですかい。」

「嗚呼。」


返された言葉は呼びかけに対しての返事ではなくて感嘆詞。

手のひらにまで流れてきた血をうっとりと眺める彼は、熱に浮かされたかのように呟いた。


「綺麗だ。」


それを聞いた青年は鼻先でせせら笑った。

「もっと見たいですか。」






「いいや」



急に冷めた返事。
「此で十分」

なんだ、と青年が残念そうな顔で溜息を一つ。
「必要だったらいつでも言ってくださいよ。すぐにでもお見せしますからね」
「そう言って。俺のことが憎いから、ついでにって腹だろう」


「いいや、そんなことは」
手を胸に当て膝を突き、頭を垂れた。
青年なりの忠義の姿勢らしかった。


「暇があったら、寝首を掻くといい」
そう言って背を向けた彼の目は、穏やかで優しいものだった。







「では」






赤い飛沫が宙を舞った。






次へ

1/11ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!