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03 お客様、立ち見はご遠慮願っております
 セントラル軍基地へ侵入したガルバートとG=ゲインは長い廊下をひたすらに走っていた。どこを見ても同じような壁が続いていて混乱しそうになるが、地図の書かれた一枚の紙切れと壁の数字を頼りにひた走る。

 彼らの仕事は“派手に暴れる”こと。つまり、基地内の軍人達の注意を引き付けることである。そのために、なるべく遠く、他と無関係な所で始める必要があるのだった。


 「次の5番通路を右だGさん! そしたら広い通路に出るみたいだぞ!」
 「ジーさんじゃなくてゲインさんって呼べ! ドジ踏んで警報鳴らすんじゃねぇぞ、チビキャプテン!!」
 「チビは余計だっつーの!!」


 目当ての数字が書かれた通路を一気に駆け抜けると、その先の開けた通路に数人の軍人の姿。
 先頭を走っていたガルバートは、腰に下げていた刀を鞘ごと構えると、飛び上がって3人のうちの一人を頭からぶっ叩いた!


 「しっ、侵入者だァ!!」
 「ご名答ッ!」


 ガルバートの後ろから走ってきたゲインが、警報器を作動させようとした軍人の顔を殴ると、すかさずもう1人に回し蹴りを食らわせた。

 ビーッ! ビーッ!

 軍人の意地か根性か、吹っ飛ばされた1人が気絶間際に警報器を作動させたらしい。サイレンがけたたましく鳴り響き、非常灯が赤く点滅を繰り返す。


 『B6エリアに侵入者有り、直ちに排除せよ!! 繰り返す……。』


 少し遅れて聞こえてきた慌ただしい足音を聞きながら、作戦通り、とガルバートとゲインはにっと笑った。背中合わせになって体勢を整えると、視線だけ振り返りながら嫌味ったらしく声を張り上げる。


 「ビビってチビんなよ、ガルバートちゃん!」
 「そっちこそ腰抜かすんじゃねーぞ、おジーさん!」
 「「後で一発ぶん殴ってやるからな!!」」


 ザッ、と周囲を取り囲んだ軍人達に怯みもせず、2人は得物を構えた。
 さあ、ショーの始まりだ。


 「ったく!ビービーうるせえってんだ、よッ!」


 鳴り響く警報に苛立ちながらガルバートが刀を振るう。軍人のライフルを切り裂き、怯んだ敵の腹を蹴り飛ばす!

 周囲の何人かを巻き添えにしながら吹っ飛んだのを得意気に見ていると、後ろから爆発音。振り返れば、G=ゲインがトランプ型ボムを投げていた。
 彼はすぐさま近くの敵を殴り飛ばすと、振り向かずにガルバートに言う。


 「ぼやぼやしてるとやられるぞ、チビ!」
 「ヘッ、ちょっとハンデやったんだよ!」


 憎まれ口を叩きながら、最後の1人に斬りかかる。呻き声を上げて倒れた兵士を見れば、2人の足下は死屍累々――正確には気を失っているだけなのだが――何はともあれ一段落、と拳をかち合わせて、2人はその場に座り込んだ。
 ふとガルバートが、不安そうに顔を曇らせる。


 「なあGさん、みんな大丈夫だと思うか?」
 「俺達は足止め任されたんだ、自分のことをしっかりやれ」


 それだけ言うと、ゲインはトランプ型ボムの残弾を数え始める。
 その物言いに若い海賊は顔を引きつらせた。仲間が危険に晒されているというのに、この男はまるで何でもないように言い捨てるというのか! 同じワールドの出である友人――キッドに比べれば、ガルバートには目の前の男があまりにも薄情に思えた


 「その言い方、何かイヤだ」
 「賭けはポーカーフェイスが重要なんだ」
 「出来てねぇし顔の話じゃねえっての」
 「手の内をバレないようにしてんだよ」


 海賊のくせに細かいこと気にしやがってと憎まれ口を叩いても、当の海賊はどこ吹く風、つまり恥ずかしがり屋なんだなと妙な納得していた。言い訳をする気もなくしたG=ゲインは、帽子を目深に被って俯いた。


 ビーッ! ビーッ! ビーッ!


 再びけたたましく鳴り出したサイレンに、2人は預けていた背を離して飛び上がった。警告灯の放つ赤い光の中、注意深く目を光らせる。



 『――各員に告ぐ。侵入者排除の為、レベルシックスを発令。よってこれより、機械兵士の投入を開始する』



 「キカイヘイシ?」
 「要するに敵だ、手加減するなよ!」
 「へへっ、端からそのつもりだぜ。気張りすぎて腰の骨折るなよGさん!」
 「あとからそのお下げ引っこ抜いてやるから覚悟しとけよ!」


 遠くから聞こえてきた足音に、僅かに身震いする。何処に隠していたのかと問いたくなるような、圧倒的な数。

 ぶるり、と背筋に走るのは恐怖か、それとも場違いな愉しみか。いずれにせよ戦わなければならない。
 勝ち目がどうとか、もはや関係ない。戦って戦って、戦って、この糞生意気な顔に一発食らわせてやらなければならない。それが終わったら樽のラム酒で祝杯を挙げて、散々なじってやらなければならない。


 「生きるぞ」
 「当たり前だろ」


 「今度エストランドに来いよ、行き付けのバーに案内してやる」
 「可愛い子いる?」
 「いるけど、お前には勿体ない」


 「アクアリアに来たら海賊流の持て成ししてやるよ」
 「へぇ、そりゃどんな?」
 「船頭に逆さ釣りになって、鮫の観賞会さ!」


 剣と爆弾を構え直し、じっと敵を待つ。感情のない無機質な敵が銃を構えた瞬間、ゲインは壁を蹴って防火扉を降ろした!

 分厚い蛇腹状の鉄板をバリケード代わりにして、2人は銃弾の雨音が過ぎ去るのを待った。弾が尽き、装填している隙を突いて一網打尽にする。月並みだが最も確実な作戦をガルバートに伝え、2人は了解の合図に頷いた。

 しかし、隙が出来る前に、集中豪雨に耐えかねたのか、押しやられた鉄板がいびつな音を立てて弾の形に突き出てくる。


 「向こうの弾は底なしかよ!」
 「だったら無くなるまで相手するだけだ! 走るぞ!」
 「くっそぉお!!」


 その場から駆け出し、通路の曲がり角に身を隠す。丁度隠れたところで鉄が砕かれるような音がした。
 間一髪のところの判断。あと少し遅れていたら、蜂の巣にされていたところだった。背中に冷たいものが走る。

 だがそう安心していられない。今度こそ蜂の巣にしようと無機質な歩を進める音が大きくなってきた。遠距離から安全を確保しつつ戦いたいが、こちらの弾数には限りがある。長期戦になることは目に見えている。ならば、どこかから武器を奪わねば。


 「おいGさん、作戦は?」
 「ヒット・アンド・アウェイだ。お前と俺のを足しても弾が足りない。なるべく節約しろ」
 「無くなったら?」
 「現地調達だ!」
 「アイアイサー!」


 迫る機械兵士達の前に一瞬飛び出すと、ゲインは数枚のカード型爆弾を投げつけた!

 閃光にセンサーが狂っている隙に、一気に廊下を駆け出す。乱れた隊列の中に、さらに数枚投げ混んで、混乱を助長させる。
 何体かの破壊に成功したらしい。残骸が転がり、残った機械兵士達がその上を踏み歩いている。蹴躓いて体勢を崩すものもいた。陣形を立て直した数体は、辺りをキョロキョロと見回して、敵の居所をセンサーで捉えようとしていた。


 「これっくらいで参ってたんじゃ俺達には勝てねーぜ!」


 余所見をしていた機械兵士に海賊の剣が振り下ろされる。

 その左腕がずり落ち、ズズン……と重い音を立てて床に叩きつけられた。彼は素早く次の標的に狙いを定め、マシンガンを持っている腕を叩き斬っていく。
 荒れ狂う嵐のように2人は機械兵士達を捲き込んでいく――!



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