03 取り返しは端からつける気などないもので
「さっきのは何だい? 君は見たところ、セントラルやそこらのワールドの人じゃなさそうだ。ああ、エディゼーラかな。あそこの人は風貌が変わってるって聞いたことがある。いやいや勘違いしないでくれたまえ、気を悪くしたなら謝るよ、君達にとってはそれが普通かもしれないが、私達にとっては珍しいからね。」
「祈りを捧げた。この子達が、天国に往けるように。」
それにしてもよく舌が回る、とササムラは苦笑いしたが、行動の意味を理解したらしい目の前のロボットが、もう一度手を合わせたのを見て微笑んだ。素直だな、と口元をほころばせ、その姿を見る。
ふとその腕にセントラル軍の紋章を見つけ、口を開いた。
「つかぬことを訊ねるが、御主は軍の者か。」
「そうだね、そうとも言える。軍人ではないけれど、軍のお抱え医師として、安月給で働いているよ。」
するとササムラは地に正座し、額の鉢金がすりつくのではないかというくらいまで頭を下げた。彼は驚いてカメラをいっぱいに開いたが、行動の意図が掴めず口をぱくつかせてやっとのことで。
「君、そう易々と他人に頭を下げるもんじゃない。」
「このササムラセイジューロー、軍医殿を見込み、無茶を承知で御願いつかまつる。拙者の刀を奪回してはいただけぬだろうか。刀は武士の魂、それが奪われたとあっては末代までの恥、武士の名折れで候!」
暫く無言の時が続いた。
ふう、と一息吐く音が聞こえても、彼は顔を上げない。仕方ないのでフェイスを両手で挟み、ぐいと持ち上げた。不安そうなアイモニターと視線がかち合う。
武器のひとつがないところでどうとも思わないが、エディゼーラとメディアルドでは気質が違っても分からない話ではない。これも文化の差と言うやつなのだ。そこまで理解するのは良かったが、それ以上は難しい。先刻軍の権威者の前で堂々と失言してきたばかりの身でもう一働きするなどマゾヒズム溢れる性格は持ち合わせていない。
「私ももう相当な無茶をしている。」
落胆する光。
これだ、これに弱いのだ。結局自分はそういう役を演じるしかないのだ。今までだってそうだ、親友の頼みとやらで軍備の薬品をいくつ持ち出した? 電波ジャック、情報漏洩、自分の地位を落とすくらいしか脳のないことばかりやってきたではないか。すっと避けられた視線を無視し、セントリックスは口を開いた。
「今更一つ増えるくらい、何ともないよ。」
「本当か?」
「お礼は持ってきてからだ。毎日午後の鐘が鳴るときにここにいてくれたまえ、なるべく早めに持っていく。刀は一本しかないはずだからね、もし見つからなかったら諦めたまえ。さあ善は急げだ、私は早く策を練るとしよう、それではねセイジュウロウ。」
まるで機銃掃射のごとき早口で告げると、彼はササムラの肩を叩いて基地の方へ歩いて行く。彼は暫くその背中を見ていたが、見えなくなった頃にやっと口を開いて呟いた。
「ありがとう」
――さて、どうしようか。
くつくつの喉の奥で笑いながら、グラッジバルドは手の中の隊章を玩ぶ。デスクの上には報告書の束。全てレオハルトの軍規の逸脱行為について。
報告書の管理がずさんだったとはいえ、改竄することは許されない。それも一度ならず何度も! 提出し忘れた報告書を盗み入れるような可愛らしいものではなく、反逆者に加担するような改竄を!
彼は紙束を引っ付かんで立ち上がり、近くにいた部下の胸にそれを押し付ける。
「それを隅から隅まで調べあげろ、必ずボロが出るはずだ。必要であれば許可する。奴の隊章は剥奪してある、もはや軍人たる資格はない。確固たる証拠があれば奴も文句は言えないだろう。分かったら作業に取り掛かれ。」
「さ、サーイエッサー!!」
目一杯息を吸い込み、満足げに吐き出す。果たしてこれほどまでに楽しみなことがあっただろうか!
彼は気に入りの煙草を咥えて火を点けると、悦に浸り目を細めた。
「さて、では一つ遊びに行くとするかなァ」
同僚の隊章を見たら、ヤツはどんな顔をするだろうか? 彼はニタリと嫌味たらしい笑みを浮かべると、隊章を握った。
慌てるだろうか、それとも逆上して殴りにかかるだろうか、悲観に暮れて涙するだろうか。嗚呼、早く顔が見たいものだ。煙草を灰皿に擦り付けて、彼は足取り軽く外出許可を取りに行った。
舞台の準備は、着々と進んでいく――。
→To be continued!
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