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九 一瞬見せたギャップに絆された今日この頃
 恥じているような、誇らしいような、それでいて今「若さ故の…」という理由を持たないが故の寂しさを感じているような、曖昧な含みを持った言葉は、タカハラを余計に困惑させた。
 あの人は、理解に苦しむ。

 しかし駄々をこねる子どものように、その場から動かないことで抗議していても埒があかない。
 諦めて、仕方なく後に付いていくと、キドカワは突き出た岩に腰掛けて、回線を繋いでいた。この辺りは電波がいいらしい。


 「もしもし指令部、こちらキドカワ。大上さん、私の活躍テレビで見てくれてますかー?」
 『馬鹿野郎、そんな余裕あるか! お前は真面目に戦ってりゃいいんだよ!』
 「でも応えてくれるんだから、大上さんのそういう所好きよ?」
 『ふざけんな!』


 相変わらず、夫婦漫才みたいだ。大上所長の怒声が外部スピーカーから聞こえ、タカハラは思わず苦笑いをこぼした。
 すると、キドカワが笑いを含んだ声から一変して、真剣な顔で話を切り出した。


 「現在タカハラと行動中、一度敵機と接触しましたが損傷は軽微です。シマと連絡がつき次第、合流します」
 『次のアタックフェーズで一気に大将を攻めろ、火力じゃ叶わん』
 「それは矛盾してるでしょ? 確かに長期戦は不利だけど」
 『司令塔の意見は』
 「敵機との接触を極力避け、クリスタルを奪取して敵陣に駆け込む……」


 『逃げんのか』


 キドカワの言葉に被さるように大上ではない男の声が聞こえた。
 声の主は若くはないらしい。それなりに年を重ねた男の声に、キドカワは僅かに不愉快そうな色を顔に浮かべる。


 「戦略的撤退だよ、シジュウローさん」


 彼はそれ以上何も言わずに、「報告、以上」と手短に伝えて通信を終えた。
 タカハラには「嫌な相手との話したくないから」無理矢理に通信を切ったように見えた。通信を切る直前に、大上の怒声が聞こえたからだ。


 「いいんですか?」
 「ああいう年寄りって、頭に血が上りやすいから好きじゃないんだよねぇー」


 憎まれ口を叩いてくくっと笑いながら肩を震わせると、彼は足下の地面に小指で地図を描いた。
 お世辞にもあまり上手いとはいえない、不恰好な地図の上をトントンと叩き、悪戯っぽく目を細めて笑う。子どもっぽい仕草をする上司に、タカハラは呆れてしまう。


 「さあ、宝探しをしようか?」
 「遊んでる暇なんかありませんよ」
 「まだ2日目だよ」


 白んできた空を見上げ、彼は立ち上がった。


 「ああ、徹夜しちゃったねぇ」
「人間みたいなこと言わないでくださいよ」
 「それもそうね」


 歩きながら、キドカワは「宝探し」についての説明を始めた。
これから探すのは宝、つまりクリスタルだ。それは缶程の大きさの筒に入っており、無数のイミテーションの中に本物が2つ混じっているという。「無数の」と数をぼかしたのは、その戦争ごとでイミテーションの数が変わるためだ。
容器は全て同じ形状で目視での判別はほぼ不可能だが、赤外線での判別は可能。位置は発信器の電波を傍受出来れば容易い――と、以上はキドカワの弁である。


 「ちなみにシジュウローさんは始まったらすぐに私を使って1つ残らず壊したね」
 「勝つ条件を絞るってことですか?」
 「そうだね、賢い判断だ。あ、ちょっと待って」


 シマから連絡が入ったようだ。通信が入った瞬間、彼がタカハラに目配せしたのでそれと分かった。


 「怪我はない?」
 『かなり汚れはしたが、大丈夫だ。そちらに行くには時間がかかりそうだが』
 「これから別行動しようかと思ってるとこ。ポイントを指定するから、タカハラちゃんと合流してもらえるかな」
 『相分かった。では、後ほど落ち合おう』


 ああ、良かった。彼は静かに安堵の息を吐く。機械とはいえ、大戦機は不便なことに「もしも」を考え始めると思考は人間のように深みにはまってしまう。素直に喜べない性格と状況に、不便よりも不器用さを感じてしまい、無意識に頭を振った。
 どんな形にせよシマの安全を確認することができたので、キドカワの肩の荷も1つ減ったことには変わりない。


「それじゃ、私達も行きましょっか」


 ひとまずの目的は、クリスタルの奪取とイミテーションの破壊だ。


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あきゅろす。
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