子ども達の場合
▼こういうヤツほど鈍いんだ
巷では女性が男性へチョコレートを渡すイベントの真っ最中。
空の靴箱と引出し、ロッカーを見て淡い期待を打ち砕かれた男子がいるのもこの時期ならではである。はてまた貰ったチョコレートの数を競い、惨敗する姿もある。
男子にとってはある種の戦争だ。
そんなイベントも喉元過ぎれば熱さ忘れる、昨日の敵は今日の友、という具合で、次の日はけろっとして遊んでいた。
「ダイチはいいよな、モテモテでさあー」
「そ、そんなことないよ…」
学校帰りの公園で、マサカズはブランコをこぎながら不機嫌そうに口を尖らせた。
暗にずるいといわれている気がして、ダイチが後ろ手に隠した紙袋には、昨日渡せなかったと言ってきた女子から貰ったチョコレート。
成績優秀で容姿がそこそこよろしいダイチと、平々凡々で体育バカのマサカズでは土俵が違うのだ。
「マサだって、アマネちゃんから貰ってたじゃん」
「別にアイツから貰ったって嬉しくねーし!」
そっぽを向くマサカズに、ダイチは苦笑いする。
アマネに対して素直でないことは知っているが、イベントくらい素直になってもいいのではないかと思ってしまう。
お節介だなぁ、自分。
「あ、アマネちゃん」
「おせーぞアマネ!」
「煩いわよバカマサ! ダイチもこんなのと一緒にいたらバカが移るからやめなさいよ」
「だれがバカだよ寸胴女っ!」
言った直後に鬼の形相で睨まれたマサカズは、情けないくらい縮み上がった。
言わなきゃいいのに言うんだもんなぁ。
「せーっかくチョコあげようと思ったのに」
「昨日よこしたじゃん」
「余ったのよバカ!」
腕を振った際に、彼女の手から紙袋が飛んだ。
それをナイスキャッチしたダイチが開けてみると、中に入っていたのはチョコチップクッキー。
どれ、と覗き込んだマサカズがアマネの罵声を聞き流しながら1つ摘まんで口に放り込む。
「なんだ、うめーじゃん!」
にかっと歯を見せて笑う彼に、アマネは顔を真っ赤にしてもと来た道を走って行ってしまった。
「なんだ、アイツ」
「鈍いんだね、マサって」
「あ?」
あーあ、春は遠いなぁー。
手すりに腰かけて足を揺らすダイチに、マサカズは「今日はあったけーけど」とブランコをゆらすのだった。
…………………………
子どもの頃のバレンタインは特別な日。
次へ
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!